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コラム連載 洋上風力発電、都市の再生可能エネルギーとシュタットベルケ

洋上風力発電、都市の再生可能エネルギーとシュタットベルケ

2019年2月14日 中山琢夫・京都大学大学院経済学研究科特定助教

【はじめに】
 昨年11月、「海上再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律案」(洋上新法)が国会で承認された。一般海域の利用ルールが整備されることで、発電事業者は30年間その海域を利用することができることになった。本年を洋上風力元年として、今後、洋上風力発電の本格導入が加速されることが期待される。

 洋上風力発電は、太陽光発電のようにあらゆる場所でできるものではないから、その関心は、大規模な発電関連事業者や、「促進区域」に指定されるような地元の自治体等に限られるだろうか。必ずしもそうではない。ドイツでは、海から遠い南部のミュンヘン市が所有するシュタットベルケ・ミュンヘン(Stadtwerke München : SWM)を通して、洋上風力発電プロジェクトに出資することで、発電所を所有している。

【再生可能エネルギーと大都市の持続可能性】
 ミュンヘン市はバイエルン州の州都であり、80万世帯の家計、工業、企業、路面電車、地下鉄等の電力需要を抱えており、あわせて年間75億kWhの電力を消費している。一方、ミュンヘン市は野心的な気候環境保護目標を設定しており、それは、2025年までに、自前の再生可能エネルギー発電システムによって、電力需要のすべてを賄う世界初の都市になることである。そのために、洋上風力発電を活用しようとしている。同市は、ドイツで最も重要な経済拠点の一つであり、同時にヨーロッパにおけるエネルギー利用の重要なベンチマークになる。

 シュタットベルケ・ミュンヘン(SWM)は、ドイツ最大の自治体系のエネルギー供給会社であり、再生可能エネルギー拡大のための新しいアプローチを採用している。この会社は、ミュンヘンとその周辺地域から活動を開始した。しかしまもなく、再生可能エネルギープロジェクトをより広いヨーロッパレベルにまで拡大する必要があることが明らかとなった。

【SWMが出資(所有)する再生可能エネルギー発電所】
 再生可能エネルギーに積極的なミュンヘン市が所有するSWMは、ミュンヘン市およびその周辺地域に水力発電所(13)を所有し、陸上風力発電所(1)、地熱発電所(6)、バイオガス発電所(1)、太陽光発電所(24)に出資している。ただし、100%再生可能エネルギーを目指すためには、これだけではミュンヘン市の電力需要を賄うことはできない。

 SWMでは、このほかドイツ国内の洋上風力発電所(北海・3)、陸上風力発電所(ブランデンブルグ、ノルトライン=ヴェストファーレン、ラインラント=プファルツ、サグセン=アンハルト)、太陽光発電所(バイエルン、ザクセン)に出資している。

 さらに、国外の洋上風力発電所(イギリス)、陸上風力発電所(ベルギー、フィンランド、フランス、クロアチア、ノルウェー、ポーランド、スウェーデン)、太陽熱発電所(スペイン)にも出資している(図1)。以下、デンマーク国境に近い、ドイツ国内の北海の洋上風力発電所の一つであるDanTyskを概観する。

図1

【DanTyskは、都市に再生可能エネルギーを供給する】
 規模の大きな洋上風力発電所は、一つのプロジェクトで大きな成果を得ることができる。そのため、ミュンヘン市およびSWMの目標を達成するための明確なソリューションとして、SWMが洋上風力発電所に参画するアイデアが浮上した。広域的利用を勘案すれば、必ずしも電力消費地のすぐ近くで発電する必要はないからである。単純に、地域をまたぐ高圧送電網に接続すればよい。このシステムによって再生可能な電力を大規模に利用することができる。

 その最たる例が、DanTysk洋上風力発電所(図2)である。ドイツとデンマークの国境に近いジルト島の西70kmにあるこの発電所は、80基の3.6MW風車によって年間13億kWh発電する。この洋上風力発電所は2014年に設置され、同年12月にはじめて陸上に電力を送った。

図2

【40万世帯のための再生可能エネルギー】
 DanTyskで発電された電力は、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州のビュッテルという町から系統にフィードインされる。この町は、ミュンヘンから800km以上離れている。それでもミュンヘンの電力需要家は、持続可能な発電による電力の恩恵を受けることができる。

 これは、SWMにとって、化石燃料をはじめとする従来型電力から系統にフィードインされる電力量を大幅に減らすことを意味する。DanTyskはドイツ全国に40万世帯分の電力を供給することができる。このうち、ミュンヘン市にとっては25万世帯分の供給量があれば十分である。SWM社は、2015年、全世帯・公共交通に関して、100%再生可能エネルギーで賄うという中間目標を達成した。

【洋上風力発電に投資するシュタットベルケ・ミュンヘンとバッテンフォール】
 DanTysk洋上風力発電所は、北海におけるドイツで最大規模の洋上風力発電所のひとつで、ドイツにおける大手電力会社バッテンフォール(Vattenfall)とシュタットベルケ・ミュンヘン(SWM)との合弁事業、ジョイントベンチャーである。SWMは、この洋上風力発電プロジェクトの49%を出資している。

 Vattenfallは、特に北ヨーロッパでは、洋上風力発電は新しいエネルギーミックスへの移行の礎石のひとつになると考えている。電力供給事業者として多くの経験を持つSWMも同様に考えており、ビジネスパートナーとしての関係を積極的に推進し、双方にとって有利な状況(Win-Win Situation)を達成することを目的としている。

 DanTysk洋上風力開発におけるパートナーシップでは、短期的ではなく、持続可能な結果を得るために協力することが重要であると合意された。DanTyskというプロジェクト名もまた、パートナーシップの国際性を表している。“DanTysk”は、“Danmark”と”Tyskland”の複合語である。これらはそれぞれデンマーク語で「デンマーク」と「ドイツ」を意味している。

【まとめ】
 日本の先進的な都市もまた、積極的な脱温暖化政策を議論しており、そのために再生可能エネルギーの大幅な導入促進を進めることが重要なのは言うまでもない。しかしながら、再生可能エネルギー100%を2025年に自前の発電所で達成しようとする野心的なミュンヘン市と同様に、都市部の電力需要のすべてを、市内およびその周辺地域からの地産の再エネ電源だけで賄うことは困難である。

 その点において、日本の先進的な都市にとって、例えば洋上風力発電ポテンシャルの高い東北や北海道のプロジェクトに出資し、大手発電事業者との合弁事業(ジョイントベンチャー)とすることで、自らの発電所として所有するというスキームがあってもよいのではないだろうか。ヨーロッパにおける洋上風力発電事業(着床式)は、すでに従来型電源と価格競争できるようになっていることも重要である。

 規模の大きな洋上風力発電事業は、初期投資額も大きくなる。しかしながら、洋上風力発電事業は環境的に持続可能なだけでなく、経済的にも利潤を生むものとして認知されようとしている。SWMに見られるような、地理的に離れた遠隔地の洋上風力発電所に投資するというビジネスモデルは、日本においても新たな都市経営のモデルになるのではないだろうか。

 横浜市が今月6日、東北地方で発電した再生可能エネルギーを融通してもらう連携協定を、東北12市町村と結んだことは、このトレンドを象徴している。この取り組みによって、市内で使う電力をつくる際に生じる温暖化ガスの排出量を、2050年を目処にゼロにするという。

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