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コラム連載 熱波が続く時代に役割が増す再生可能エネルギー

熱波が続く時代に役割が増す再生可能エネルギー

2019年2月28日 加藤修一 京都大学大学院経済学研究科特任教授

“渇きをおぼえるエネルギー”の広がり
 “渇きをおぼえるエネルギー(thirsty energy)”が国内で差し迫った議論にはなってはいないが、国際的には異常気象に伴う熱波によって深刻な被害が拡大するにつれて改めて取り上げられている。“thirsty energy”は、エネルギーに関する水制約の深刻さを表現している。これは世界銀行のイニシャティブの一つであるが、IRENAやIEA等の国際機関も同様に取り上げている。これが超長期に続くのかどうかは重要である。特に異常気象に伴う熱波が水制約に大きな影響を与えているからである。異常気象が超長期化する気候変動と強い因果関係のありなしは重要である。異常気象に伴う熱波による影響は甚大であり、気候変動との因果関係を明確にすることは水制約が超長期化するかどうかをとらえる上で欠かせない。ニュースや報道番組などにおいて、「個々の深刻な熱波や豪雨は、気候変動によるものですか?」とのアナウンサーの質問に「正にそうです。気候変動の影響です」と因果関係を強調する専門家は稀である。「熱波や集中豪雨などの個々の異常気象が気候変動と因果関係があるとは言いがたい」と躊躇する発言が多い。エビデンスに沿って正確に答え、曖昧な発言を避けるべきではあるが、少なくとも今日の気候変動対策の基本になっている国連気候変動枠組み条約の第3条(予防原則)の趣旨を説明すべきであり、また過去のトレンドによる状況証拠からの発言があってよい。既に地球の平均気温は、産業革命以降に約1℃上昇した“新しい気候”にいる。大筋は、図-1に示すように横軸の判断基準のなかで平均温度の偏位が、“前の気候“からすると熱波の頻度部分に大きな変化をもたらし、”前の気候“分布において決して発生しなかった極端な分布が、図-1の右端のテ-ル(尻尾)にあたる熱波となることが示される。

EA研究と因果連鎖
 図-1は定性的な表現である。一方、気候変動と個々の異常気象との因果関係に関連して、アメリカ気象学会(AMS)は、EA(event attribute)研究を長期にわたり行っている。実際に起こった異常気象に対して、気候変動によるものなのかの研究である。これは事例ベースアプローチといわれている。蓄積された長年のデータをもとに気候変動と異常気象との間の因果連鎖に関する研究である。気候モデルを用いて過去の気候を模したに大量の実験を繰り返し、同時に人間活動による気候変動が無い設定で大量の実験を行っている。その結果、昨年末の報告は、対象とした極端な気象(extreme weather)の146事象の内、約70%は気候変動に基づくと因果連鎖を定量的に明確にした。逆に言い換えると、気候変動が無ければ発生しなかった異常気象が約70%あることを示した(※)。



 平均気温が約1℃上昇した気候変動における因果関係のエビデンス、“新しい気候”を示している。今日、1.5℃/2℃にとどめる議論が盛んであるが、どちらの温度になったとしても異常気象(熱波)は今後も超長期にわたる。決して一時的ではなく、間断なく持続することのエビデンスが示された。また強度、頻度、期間の変化にも対応しなければならない。図-2のようにメジャーな停電も急増しているが、電力部門の水制約が強ければ、水ストレスへの対応が求められる。水渇仰状態に陥り、水競合が熾烈化し、言い換えるとエネルギーの水危機となる。その解消に大量の水確保が厳しいことを考え合わせると、克水性が大きいエネルギーへの転換は避けられないのではないか、という視点は重要である。

エネルギー転換に伴う回避水量  ― 再エネが導く新しい価値
 ランキンサイクルによる火力や原発は、異常気象に伴う熱波に弱点を露呈したのは、大量の水を冷却水として使用しているからである。言うまでもなく“前の気候”における異常気象であるあるならば、一過性の事象として見過ごすことができるかもしれない。しかし“新しい気候”の段階にある今日、気候変動と異常気象間の因果関係を考えると異常気象は一過性ではなく、超長期に及ぶ。革新的な冷却技術の導入などが考えられるが費用対効果を考えると現下で克水性の大きいエネルギーへの転換が望ましい。即ち太陽光発電や風力発電への転換である。これによって取水量、水消費量の回避水量を得ることの効果は大きい。

 回避水量は、米国風力エネルギー協会(AWEA)によると、2013年の米国の風力発電は、米国の32万世帯・年に相当する1.3億トンの回避水量をつくりだし、欧州風力エネルギー協会(EWEA)によると、2012年のEUの風力発電は、EUの300万世帯・年に相当する3.9億トンの回避水量をつくりだした。再エネが回避水量を生み出し発電部門の取水量、水消費量を削減に役立っている。2030年には、太陽光PVや風力の導入によって、取水量は、英国が約50%、USが25%超、ドイツとオーストラリアとインドは10%超と削減となる(図-3)。更にECの「Roadmap2050」によると2030年に807TWh~1198TWhの風力発電の導入の結果、年間12億2千万トン~15億7千万トンの回避水量をつくりだす。ECは2030年につくりだされる回避水量が回避費用として年間€33億~€43億規模の価値をつくりだすと試算した。この様に再エネが従来のCO2削減などの価値だけでなく、新しい価値を創出している。この様な価値は電力部門の内側のことではなく、将来競合するかもしれない食料生産にも関わってくる。以上のように、“thirsty energy”は、水エネ連関(「Energy-Water Nexus」)を浮かび上がらせ、「Food」につなげ、更に最近は「Energy-Water-Food-Climate Nexus」へと連関を拡張させている。

 EU28ヶ国は、広域で気候帯も多様であり、異常気象への対応を以上のように長期的戦略的に進めているが、日本の関心は小さいように思われる。確かにモンスーン気候帯にあり降水量が豊富と思いがちだが、南北に長く変化に富む日本列島を考えと異常気象も多様である。将来、無降水日が多くなる予測結果もあり、渇水の長期化になれば貯水ダムが控えていても急峻な河川が多い日本の湛水能力は心配である。


ライフサイクルのウォータフットプリント - 群を抜く再エネの克水性
 既に再エネの導入に伴う回避水量の規模から克水性の大きさを知ることができるが、電力と水に関するフットプリントについても考えておくことが重要である。水の使用は、発電ステージのみならず前後に係っている。地下・採掘の燃料サイクル、発電設備及び建設ステージと廃棄の処理・処分ステージである。水とのかかわりは厳密に考えるとライフサイクル全過程(図-4)の取水量と水消費量である。オペレーション(運用)時の再エネ、特に太陽光や風力の取水量や水消費量は極端に少ない。燃料サイクルの水量はゼロである。従って、再エネのゆりかごから墓場までの単位発電量当たりの取水量、水消費量は圧倒的に小さく、既に述べたように克水性が大きい。一方、図-5は、微粉炭火力発電所についてのライフサイクル過程の水利用であるが、再エネと異なり燃料過程や建設・廃棄過程の取水量、水消費量も加算される。また冷却方式の違いにより使用量に差がでるが、再エネは既存の火力発電(原発を含む)と比較すると取水量で2~15%程度、水消費量で0.1~14%程度である。再エネは群を抜いている。また再エネは脱炭素、スモッグの発生や喘息につながる大気汚染の削減にもなり、欧米が再エネの回避水量などを含めた水政策を積極的にエネルギー政策に盛り込む理由がよくわかる。



インドの火力発電の40%は水ストレス地域に存在 ― 必要な冷却データ
 ヨーロッパの熱波は、2003年、2008年、2015年、2018年に顕著であったが、今や世界的な現象だ。オーストラリア、アジアモンスーン気候帯にあり経済発展が著しいインドにおいても異常気象に伴う熱波によって、火力発電所(原発を含む、以下同様)のシャットダウン、カーテイルメントが発生して需給計画が混乱している。2013年から2016年に20の大規模火力発電所の14施設が熱波に伴う水不足でシャットダウンした。損害は14億US$に及ぶ。インドの全発電施設の83%は火力発電所であり、約90%は淡水利用。しかも淡水利用の40%は水ストレスが非常に厳しい地域にあり、2016年の全淡水利用火力の総発電量の34%はこの厳しい地域の発電である。インドの水不足は2015年の水不足によって火力総発電量の20%を超える影響を与え、2016年には14TWhの発電量を失ったが、スリランカの1年間の総発電量に相当する。

 図-6は、余剰電力量が青、不足電力量が赤で示された最近2013年~2017年までの火力発電状況である。火力による予定発電量(赤線)が機器損傷、燃料不足、水不足等の理由から計画外停電が生じ、2013年から2017年にかけて間断なく続いている。赤の面積が大きく、時間割合でみて61%が需要量に対応できていない。大きな混乱状態である。計画外の停電理由は機器の不具合が大きいが、水不足が5番目と約2%を占める。インドの14電力事業者(24火力発電施設)は、2013年~2016年にかけて水不足によって予定収入の14億US$を失い、2016年に水不足でシャットダウンした9企業は6億14百万US$を失っている。これは2016年インドの総売電収入の2.3%を占める。熱波に伴う水不足による甚大な被害である。

 今後、他分野との水競合は益々激しさを増し2030年までにインドの70%の火力発電所は、70%が水不足に直面すると憂慮されている。対応策には、冷却法の革新的技術の開発や電力レジリアンスを高める水政策の展開が欠かせないとの指摘があるが、適正な解決法を阻んでいる重要な点は、水関連の基礎的データの開示が欠如しており、透明性が不足していることにもある。水政策とエネルギー政策の統合化はこれからであるが、再エネに活路が見いだせる。


インドの野心的な?再エネ計画 - 克水性の大きい再エネの活用
 インド政府はこの様な状況にこまぬいている訳ではない。水ストレス下にある電源を少なくするためにPVや風力を優先的に導入する再エネ政策を進めている。政府の2027年の「シナリオ2」は、発電部門(水力を除く)の取水量の3/4削減計画がある。その1/3は太陽光PVと風力の導入による。水消費量については電力ミックスによって1/4を削減する効果がある。革新的な冷却法の導入や克水性の大きい太陽光PV・風力は、取水量・水消費量の削減を促し水依存の緩和が進み、発電部門の持続可能な成長、国レベルの生態系の保全にも寄与する。また再エネの推進は水の接近可能性、手頃な水価格や安全性の改善が行われ、水の安全保障を強化することにもなる。インドの灌漑分野ではポンプ電源としてディーゼル型から太陽光発電に置き換わりつつある。太陽光灌漑ポンプが進むことにより、燃料の心配がないこと、電力網依存や化石燃料依存の減少や地域環境悪化の緩和、更には政府補助金の軽減などと、便益は計り知れない。インド政府は、太陽光発電の灌漑ポンプを2600万基導入する野心的な計画を持っている。仮に500万基のディーゼル型が、太陽光発電型灌漑ポンプに置き換わると、18.7ギガワット(GW)の設備容量や23.3テラワット時相当の火力発電施設の削減、100億リットルのディーゼル燃料の節約、2600万トンのCO2排出削減の便益を生むと試算されている。現在、この計画は必ずしも順調とはいえないが、特にGrid-off地域にとって大きな希望となっている。

エネルギー計画に必須な水政策
 以上、欧米やインドの水事情に触れてきたが、干害や熱波に関して、水制約下における持続可能な発電に向けたエネルギー計画が期待されている。水に関する電力レジリアンスということだ。以下の内容の一部は「World Water Week 2014・2015」、「SAIREC2015」においても議論されている。
水制約が厳しい地域においては、克水性の大きい風力と太陽光発電を増加させることである。またこれはCO2排出量が少ないことから気候変動がもたらす水リスクの緩和に貢献することにもなる。
エネルギー政策の意思決定過程に水政策(克水性)を統合することである。実際の水コストを的確に反映する方法でエネルギー部門に課していくならば水管理を改善するための効果的な方法となり得る。政策立案のために水不足をエネルギーシステムに統合することは、大きな効果をもたらす。
エネルギー分野における水使用に関して透明性が必要である。世界中の火力発電施設は冷却のために大量の水を利用しているが、世界の発電設備容量の41%が冷却データについて未整備である。政策の意志決定を行う際に情報ギャップが生じている。ライフサイクルに及ぶ水関係データのモニタリングと報告を大幅に改善すべきである。


参考資料:各図表の下段の資料を参考


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