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コラム連載 国民の意見を吸い上げるパブコメの役割―政府の信頼性を高めることにも・・・・

国民の意見を吸い上げるパブコメの役割―政府の信頼性を高めることにも・・・・

2017年1月13日 加藤修一 京都大学大学院経済学研究科特任教授

―昨年後半の議論は原発賠償・廃炉費用負担に集中
 昨年(2016)、9月前後から経済産業省は下表に示す多くの審議会(■印)を立ち上げ意欲的に議論を集中的に行った。東京電力(「1F」)事故の賠償・廃炉費用、通常炉の廃炉費用と託送料金など電力自由化にも関連する重要な論点についてである。

 国民が関心を持ったのは「エネルギー基本計画2014」(閣議決定)に「原発依存度を可能な限り低減する。ここがエネルギー政策を再構築するための出発点である」(P4)と断言していることから原発の帰趨に論が及ぶことはもとより、原発事故の責任の明確化、更には自由化に基づく消費者利益、廃炉等に関する国民負担にあったように思う。

 審議会の開催のたびに配布された資料は膨大であった。■印の開催だけでもその審議回数は約3ヶ月間に計22回に及び、配布資料は軽くA4・1000枚を超えている。審議過程の録音公開(2時間程度)が6回と丁寧な対応であった。社会変化のスピードが速いとはいえ、この様にスピード審議は今までになかったのではないか。言わば超特急審議、速断・速決審議であった。私が知っている限り異例なスピードである。

表  国民負担等を決めた政府の各種委員会(■9月下旬以降)      (2016.12.20現在)
国民負担等を決めた政府の各種委員会(■9月下旬以降)
注)経済産業省「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」(貫徹小委)は(第1回)9月27日~12月16日(第4回に中間報告)、※録音公開 資料:経産省、内閣府等配布資料等より筆者作成(2016)

 政府の担当事務局の準備、関係者への経緯説明等は大変であったようである。耳に入った限りでは年度末のシンクタンクの様相を呈し、1ヶ月間の残業が200時間を軽く超えた激務のようであった。「1F」については約2月半に8回。恐らく200枚近くの資料配布である。一方、2つのWGは交差する多くの論点を含み、議論の相互関係性がどうなっているかの懸念が生じていたが、途中で俯瞰的な相互調整を確認し交通整理することにもなった注1。周辺のステークホルダーも審議内容のフォローに相当の時間を費やしたのではないかと思う。
注1
2016年11月11日貫徹小委の第2回事務局提出資料第5「両WGにおける議論の関係性」において各WGにて議論されている各制度の関係と総合的な判断の必要性について、小委事務局が8ページを割いて「両WGの全体を俯瞰した検討が必要ではないか」との説明に至っている。


 ところで、EUのエネルギー政策を調べていると、規則文章、指令文章、政策資料、説明資料、研究報告など大量の関係資料がこれでもかと言わんばかりに開示されている。ペーパーの洪水である。これを英国の上院議員であり、「第三の道」でも著名なアンソニー・ギデンズは「紙のヨーロッパ」と称し、EUの分析用具の一つに加えている。「紙の王国」、「紙の帝国」と軽口を叩く人がいるようであるが、言うまでもなく「枯れ木も山の賑わい」のようであっても意味が無く、EU政府の防御資料でも意味がない。経験した範囲では、調べる当初に不明なことがあっても関係資料をたぐっていくと氷解することが多い。種々の「紙」がでてくるのはそれだけ多くの審議がされ意見の積み重ねの結果といえる。議論の背景や経緯、策定過程が透明化し、どのように合理的に決定したがわかり易くなっているといえる。今流でいうと読み解くことができる。「あー!なるほど」となる。政策情報のディスクロージャー効果である。

 文化的にも言語的にも社会経済的にも異なる多様な諸国からなるEUにとって意思の疎通は基本である。「紙」による情報共有も避けられない媒体である。例えば、単一市場の形成には、各国間で格差なくインフラ整備が期待されるが、そのための共通利益プロジェクト(PCI)を基本にして未来に向けて時系的整備を明確に示している。格差是正を図るためにも最大限議論を行い、客観性をたかめることを目指している。そのためにもできるだけシナリオ分析、定量化を進めて開示している。これは多数の国からなる超国家組織であるEUであろうと複数の地域からなる一国家である日本であろうと策定過程・結論に至る過程の透明化、情報開示は非常に重要な手続きである。政府への信頼はこのような説明責任を務めていることからも生まれるものであろう。

 話を元に戻すが、短期間にA4サイズ1000枚を超える資料が配布され議論がされた。そのスピード感ある審議は歓迎との意見や結論を急ぐあまり、一部からは拙速との批判もあった。既に結論として、経済産業省の「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」は第4回開催(12月16日)に「中間報告」(全34ページ)を行い、現在パブコメpublic comment中である。

―法律に抵触する恐れ
 更に、この中間報告等を基に12月下旬には「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」が策定され、事前の与党内の議論集約が行われたようでもないが、閣議決定が行われた(2016年12月20日)。この基本指針を構成する「6.国と東京電力がそれぞれの担うべき役割を果たす ~賠償、除染、廃炉等に関する中長期的かつ安定的な対応~」においては、「(4)国の行う新たな環境整備」を設けた部分は、熱い議論を呼んだ内容が少なくない。

 例えば、「受益者間の公平性や競争中立性の確保を図りつつ、国民全体で福島を支える観点から、福島第一原発の事故前には確保されていなかった分の賠償の備えについてのみ、広く需要家全体の負担とし、そのために必要な託送料金の見直し等の制度整備を行う。」(下線は筆者)とある。更に上記に「賠償の備え」(P26)に敢えて脚注を付し丁寧な補足説明を行っている。少し長いが、敢えて全文を示す。

 「福島第一原発の事故前には確保されていなかった分の賠償の備えは、送配電事業者等にとって外生的に生ずるものであり、その制度上の取扱については適切に整理する。また、回収する金額の規模は、現在の一般負担金の水準をベースに、1kWあたりの単価を算定した上で、これを前提に、2010年度までの我が国の原子力発電所の毎年度の設備容量等を用いて算出した金額から、回収が始まる2020年前の2019年度末時点までに納付した又は納付することになると見込まれる一般負担金の合計額を控除した約2.4兆円とし、これを上限とする。資金の回収に当たっては、適正な託送料金水準を維持していく観点から、年間約600億円程度を、2020年度以降、40年程度にわたって回収していくものとする。」(下線は筆者)と記されている。

 上記の(2011年の原賠機構法の法制化による)一般負担金は法的義務によるものである。一般負担金と同様に2020年から国民負担を強いること(負担義務)や合計額の控除(1.3兆円)には、電気事業法・原賠機構法等の法律の枠組みがどうなっているのか。その条文解釈をどうするのかによるが、下図に見るように“国民負担の増大”に関する大きな変化がある内容である。精査が必要であるが、法改正が必要とされるのではないか。省令で行うのではないかと巷間言われているが、既存法の拡大解釈と言われかねない。松本消費者庁特命大臣は「今後、消費者の過度な負担につながらないよう、送配電事業者においては、これまで以上の合理化によるコスト削減を進める」ことを強く求めた。“過度”の程度が不明であるが電力改革の合理性を持つ送電線の設備投資は必要であることは言うまでもない。問題は今回のように「過去分」(答申は直接触れていないが)を過度と解するならば当然な表明と考えられる。更に同大臣は「経済産業省におかれては、引き続き、消費者に丁寧な説明、十分な周知を行い、納得を得られるよう、対応いただきたい」と閣議後の記者会見(12月20日)で述べているが、この様な努力と同時に法治国家の日本である。少なくとも人治国家でない以上、仮に(危うい)“拡大解釈”によって省令を定めることができるにしても法改正を通じて、審議日数が必要であるが敢えて正々堂々と国会審議による透明化を推し進め、より一層の明確であることの国民理解・協力を率直に進めてこそ大与党を抱える政権の矜持と言えるのではないかと思う。また議院内閣制において代議士より構成される国権の最高機関である立法府(=国民代表)を尊重したあり方ではないか。“どのみち国会の2/3を制していることから法案成立は確実だ。必ずしも国会に提出の意味があると思えないなど瞬時でも考えている”ならばこれほど深刻なことはないが、穿ちすぎた見方であろう。この議論は他の機会に譲るが、いずれにしても2017年の通常国会でどのような法律改正案が国会上程されるか、注目されるところである。

図  全ての需要家から公平に回収する過去分のイメージ
全ての需要家から公平に回収する過去分のイメージ
資料:総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力システム改革貫徹のための政策小委員会(平成28年12月)、電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめ。

―国民意見が集中するパブコメ軽視・無視の懸念
 ところで先の閣議決定の件に戻る。「おや?」と思ったことは、閣議決定の「基本指針」内容が現在パブコメ中である。前述の「脚注」の部分が含まれる。期間は12月19日~2017年1月17日の30日間。パブリックコメント、即ち「意見公募手続制度」による意見公募が、只今進行中である。この閣議決定は見切り発車と言われかねない。この様なケースは過去にあっただろうか。

 日本には行政手続法という法律がある。行政府の運営における公正の確保と透明性の向上を目的に行政手続の一般法として施行された(1994年10月)。更にパブリックコメント制度(意見公募手続制度)が導入、改正された(平成17年6月)。これは国の行政府が命令等を定めるときに、事前に、広く一般から意見を求める義務があり、その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的としている。

 行政府が「命令等」(本件では前述の「基本指針」)を定める前に公示し、意見の提出先及び一定の意見提出期間を定めて、その間に広く一般に意見を求めなければならないと定めている(39条)。命令等とは、法律に基づく告示を含む命令、審査基準、処分基準、行政指導指針である(第2条)。また「求めなければならない」は法的義務になる。

 この様な手続きを追っていくと、12月20日の「基本指針」の閣議決定とパブコメとの間には手続き上に瑕疵があるのではないか、と指摘されても止むを得ない。些細なことのように感じるかもしれないが、手続きや細部にこそ目を見開くことが大事ではないか。細かいところこそ神や悪魔が最も住みやすいところと言われている。この手続き等を丁寧にやることが政府の安定感、信頼感を増すことにもなる。

 一方、経済産業省の「パブリックコメント:意見募集中案件詳細」を覗いて見ると、「定めようとする命令等の題名」、「根拠法令項」についても空白になっている。また「行政手続法に基づく手続きであるか否か」については、「任意の意見募集」とある。今後、精査を行い報告したい。

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