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コラム連載 公共的ネットワ-クとしての電力グリッドの認識

公共的ネットワ-クとしての電力グリッドの認識

2017年2月9日 内藤克彦 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 ドイツの四大TSOの一つの50Hz社に行ったとき、再エネ発電事業者が送電線を使用するときの使用料について質問をしたところ、怪訝な顔をされて送電線使用料はエンドユ-ザ-から取るものであり、このような基本的なことも知らないのかというような雰囲気で回答され、衝撃を受けたことがある。ある自治体がゴミ発電の電力を自分の庁舎で使おうとして地元電力会社と送電線使用料の交渉をしたら、電力から買電した方が安くなるような法外な送電線使用料、いわゆる「託送料」を提示され、断念したという類の多くの話が、日本での経験では頭の中にあり、先の質問になったわけである。

 この相違は、電力グリッドを「私的なもの」と考えるか「公的なものと考えるか」の差から来ているものと思う。長い間電力の送配電線は、電力の製造工場たる発電所から顧客まで電力を届ける「発電所付属輸送施設」のような扱いを受けてきた。これは、米国の連邦エネルギー規制委員会(FERC)の文章にあるように、特別な技術を持つ者しか電力が作れなかった時代の常識であろう。

 現在は、大小様々な発電施設・蓄電施設や電気自動車などが様々な人により利用が可能となった時代であり、ネットワ-クを通じてやり取りが可能な時代となっている。欧米では、このような多様な需給活動を活かすことでイノベ-ションを誘発し、産業の活性化を図るべく動き出している。この時に電力グリッドが「発電所付属輸送施設」として排他的に活用されると困ることがある。電力グリッドは、「道路」と同じで、「自然地域独占」の性格を持つインフラであり、二重投資には不向きである。二重投資は社会的に多くの無駄を生むことになる。「自然地域独占」の裏返しとしての「公共性」が求められることになる。

 ネットワ-ク型のインフラは本来「自然地域独占」の性格を持つものであり、ネットワ-クとしての電力グリッドも技術の進歩・普及に連れてその性格を変えざるを得なくなったわけである。私的な「発電所付属輸送施設」は、発電施設が特定少数のものから不特定多数のものの管理が可能となるのに応じて性格が「公共的ネットワ-ク」に変わり、「公共的ネットワ-ク」として不特定多数のアクセスの自由・公平を可能とするものに変化せざるを得なくなったわけであろう。

 この状況は、中世・戦国時代に地方領主・神社仏閣が街道の要所に関銭目当ての関所を置き街道が分断され、一気通貫の街道として機能しなかった街道が、信長の改革で関銭目当ての関所が廃止され、街道が公共インフラとして機能するようになった時代を想起させる。多数の関所の撤廃によって「移動の不自由」や「関銭のパンケ-キ問題」も解消され、我が国の産業・商業は大いに発展したわけである。

 ネットワ-クの性格が変わると経費負担の原則も変わることになる。送配電線が「発電所付属輸送施設」の時代には、発電所のオ-ナ-が経費を負担する代わりに、独占的に利用管理していたが、「公共インフラ」としては、利用者全体で経費を公平に負担することが原則となろう。道路の例で言えば、一般道は、税金によるエンドユ-ザ-負担、高速道路は利用料金による利用者の公平負担ということになる。私的に負担するのは取りつけ道路としての私道部分だけということになる。ドイツのグリッドタリフは、正にこのエンドユ-ザ-による公平負担の制度となっているわけである。

 進化した送電グリッドは、高速道路のようなもので、社会的ニ-ズに応じて新たなネットを広げ、渋滞が起こらないように適宜拡幅をしつつ、増強コストや維持管理費は公平な利用料金としてユ-ザ-から利用量に比例して徴収する。新旧の利用者で料金格差を設けるようなことはしない。ちなみにEUも国により、ドイツとは異なり、需要側だけではなく発電側からもグリッドのユ-ザ-として利用料金を取る国もあるが、この場合も、需要側から取る割合の方が多く、また、発電側から取る場合も需要側と同様に送電量に比例して料金を取り、公平性を担保している。

 送電キャパシティの管理も「発電所付属輸送施設」の場合は、当該発電所が利用権を先抑えして排他的に運用するということになるが、「公共的ネットワ-ク」では、リアルタイムの市場ニ-ズに基づいて「公平に」リアルタイムでキャパシティが割り当てられることになり、「利用権の空押さえ」ということは許されない。道路の例で言えば公共道路ではもちろん「特定の運送会社が一車線確保」などということは許されないのと同様である。ちなみに道路の場合は、渋滞の予測は、ネットワ-ク全体に交通流を交通需要に応じてリアルタイムの交通流のシミュレ-ションにより配分して行われるが、欧米においては電力ネットのキャパシティの計算も同様に実潮流ベ-ス・リアルタイムで需給に基づき潮流を電力ネットに配分して行われる。特定の経路の特定の者による契約ベ-スの占有を前提としてグリッドキャパシティ計算が行われることは許されていない。

 技術や社会システムの進歩に伴い、電力グリッドの性格が「公共的」なものに変わるのは世界の潮流であるが、我が国も電力システム改革により送配電が分離されたところであり、信長がかつて街道で行ったように「公共的なシステム」としての電力ネットワ-クを早急に確立し、世界の潮流に乗り遅れないようにしたいものである。

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