1. HOME
  2.  > コラム連載 送電キャパシティの計算

コラム連載 送電キャパシティの計算

送電キャパシティの計算

2017年4月6日 内藤克彦 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 我が国においては、再エネを接続しようとすると電力会社から送電キャパシティ(容量)が100%になっていて、これ以上接続できないと通告されたという話をよく聞く。ドイツでは、再生可能エネルギー法(EEG:固定価格買取制度(FIT)の根拠法)において、送配電会社が送配電のキャパシティの不足を持って接続の拒否をしてはならない旨の規定があり、また、自らの負担でキャパシティの増強をしなければならないことが規定されているので、そもそもこのようなことは起こりようもない。キャパシティ増強の経費は、グリッドタリフ(ネットワーク使用料)として、最終需要者が支払う電気代の中に組み込まれており、日本流に言うと「一般負担」の扱いとなっている。

 グリッドタリフの上限値の規制を行うネットワーク規制庁 (BNetzA) も再エネの送配電グリッドへの組み込みに必要なグリッド増強を誘導するために、グリッドタリフの規制にあたって、再エネ接続のために必要なグリッド増強経費分を積極的に認めており、欧州ではこのような規制の在り方を誘導的規制として推奨している。送配電会社の側も、一般的に送配電会社は企業の性格として成長材料に乏しく投資により企業の発展を図りにくい状況下で、再エネのためのグリッド増強に積極的に投資することは企業の成長発展の貴重な機会という認識から、グリッド増強に積極的という話を聞いており、欧州の重電関係業界は活況を呈しているという話である。再エネと送配電会社がウィン-ウィンの関係となっているわけである。このような状況で、欧州では電力会社の主力部隊は、送配電会社、再エネ発電、情報通信技術 (ICT) の積極活用による発展が期待できる各種関連サ-ビスに移っている。

 我が国より送配電グリッドが脆弱と言われる米国の場合はどうであろうか。米国も我が国より多くの再エネが既に導入されているが、送配電キャパシティの限界から再エネが締め出されているという話はあまり聞こえてこない。実は、米国は得意とするICTを駆使して、送電グリッドを最大限効率的に利用する手法を取っている。1996年に連邦エネルギー規制委員会 (FERC) が米国の電力システム改革を行った時の「肝」は、実はここにあったのではないかと私は考えている。FERCの定めた規則を良く見ないと中々理解できないのであるが、FERCがこの時に同時に定めたOASISという情報開示システムでは、結節点(ノード)間の総送電キャパシティと利用可能送電キャパシティを公開することが義務付けられており、この送電キャパシティの計算は、コントラクト(契約)ベースではなく、フロー(実潮流)ベースで行うことが推奨されている。

 米国で独立系統運用機関 (ISO)、地域送電系統運用機関 (RTO) の管理するような地域では、このようなフローベースでの送電キャパシティ管理が行われている。これの意味するところは、A地点からB地点への電力の供給の場合、実際の電力潮流は電気抵抗の少なさに応じてA地点とB地点の間で取りうる多数のあらゆるルートに分散されて流れており、また、その流れ方も当該ルートに関連する需給の変化により随時変化しているので、契約上一つの送電ル-トを定めて契約上の上限値で送電キャパシティ計算をしても虚構に過ぎないとして、フローベースで送電キャパシティの計算を行い、空いている場合には随時送電キャパシティの再配分を行うこととしたわけである。米国では、このような潮流計算結果が、5分程度毎に更新されて時々刻々の状況が公開されている。このような送電線の運用により、動いていない発電所が契約上送電キャパシティを占有しているために、他の利用者が排除されるということは米国では発生しないわけである。このやり方は、送電線利用者間の公平性を担保するとともに、送電線をキャパシティの最大限まで、効率的に利用することを可能としている。

 このようなコントラクトベースの管理からフローベ-スの管理への送電キャパシティ管理の転換は、米国だけで行われていることであろうか。米国の1996年の改革の後に、2009年の電力EU指令により、本格的な改革に着手したEUの場合も、実は、2009年に定められた、電力に関する基本的なEU指令、及び、同時に定められたEU規則の中で、送電系統運用者 (TSO) の送電線の混雑管理は、フローベースで行うことが明示されている。EUにおいては、同じEU指令の中で、TSOに対して「送電キャパシティ不足をもって発電施設の新規接続を拒否してはならない」旨が定められているので、フローベースで最大限効率的にグリッド管理をした上で、必要に応じてさらに設備の増強をしていくというシステムになっているわけである。米国のシステムに類似したノーダルプライシング(ノード価格)のシステムを導入している国が豪州等他にも存在しており、これらの国でも、フローベースの管理が行われているものと推察される。

 以上のように実は、フローベースの送電キャパシティ管理を行うことが、欧米等では出発点、基本となっており、帳簿を重ねたような管理からICTを用いてリアルタイムで効率的な管理を行うことに転換することが電力システム改革の基本となっている。

このページの先頭に戻る