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コラム連載 極北GIFSN東西ベルトの新展開とノルウェーの“緑のバッテリー”(1)

極北GIFSN東西ベルトの新展開とノルウェーの“緑のバッテリー”(1)

2017年4月27日 加藤修一 京都大学大学院経済学研究科特任教授

極北への関心とGIFSN東西ベルトの展開
 北半球の極北への関心は北極圏航路の可能性もあり高まっているが、そのことは反面、北極協議会(ACIA) と国際北極科学委員会が指摘していることに関係している。即ち、北極にこそ地球温暖化の影響が世界で一番早く深刻な影響が出ていることにある。特に生態系の崩壊、永久凍土層の融解はメタンガスの放出となり温暖化を加速化させる。一方、近くには膨大な再生可能エネルギーが眠っており、温暖化対策を含めて開発しなければならないのは皮肉である。関心の端緒を開いたのは、以上の事柄を含めてエネルギー同盟(EU)の創設注1)や身近の“Maaliプロジェクト”に負うところが少なくない。特に地球の真水の貯蔵庫(7%超)である極北のグリーンランド(G, デンマーク王国)や北極圏近くのアイスランド(I)、またこれにつながるフェロー諸島(F, デンマーク王国)、シェットランド島(S, 英国)、ノルウェー西端(N)の極北東西に広がっている地帯(図-1)への関心が高まっている。この東西の広がりをGIFSN東西ベルトと呼称することにする。既にシェットランド島とノルウェー間には「PCIリスト」に記載されている海底HVDCケーブル事業がある。これは再エネをHVDCで送電する「Maaliプロジェクト」である。今日、遠隔的、孤立系統である島しょう国等のエネルギー需給は大きな課題注2)を抱えているが、本事業は電力の孤立性を解消することと同時に、電力の相互融通のために相互接続する電力グリッドの展開にある。将来的には海底延長が1000kmを超える先駆けになる可能性があるHVDC事業となるものであり、電力網のバランシングに寄与するものである。
注1) 目的は「エネルギーの確実で安定した供給の確保」、「手ごろな価格を保証するエネルギー市場の創出」、 「持続可能なエネルギー社会の実現」。
注2) IEA (2012), IEA-RETD: Renewable Energies for Remote Areas and Island (REMOTE),
IRENA(2015), Off-Grid Renewable Energy System: Status and Methodological Issues,
Siemens, IRENA, UNEP(2015), Renewable Energy in Hybrid Mini-Grid and Isolated Grid.

図-1 ノルウェーを“核心“にした北海洋上風力グリッドとGIFSN東西ベルト
   - ENTSO-E下27国際連系線の半分超(17)を占める北海・バルト海 -
図-1 ノルウェーを“核心“にした北海洋上風力グリッドとGIFSN東西ベルト
資料:ENTSO-Eの基本資料に筆者の関係分を記載・描画、2016.

新しいコリドーの主要事業IceLinkとノルウェーのエネルギー戦略
 各国・諸島の頭文字を取った“極北GIFSN東西ベルト”についてはEUの優先課題(EU Energy2020)である多くの電力コリドーと同様な位置づけ(コリドー)が期待されている。特にアイスランドは長期間にわたり電力の孤立系統(情報通信系統網はデーターセンターのハブ化といわれ顕著に発展中)からの離脱を目指している。その中心事業はIceLink という高圧直流(HVDC)型超長距離国際連系線(USLDIs) 注3)事業であり、半世紀を超える調査となっている。この東西ベルトの延長は、北海を縦断、南下しEU電力単一市場に統合させる。これは「Energy Roadmap2050」の趣旨に沿っている。この極北GIFSN東西ベルトの“核心”は西端のノルウェーであるが、ノルウェーは石油ガスや電力取引市場ノルドプールなど先進的なポジションを国際社会に築いている。再エネの大量導入が進む今日、EU全体の電力のバランシングを期待され、柔軟性豊かな水力発電を持つノルウェーとの連系は欠かせない。ノルウェーが緑のバッテリーと称される由縁であるが、エネルギー・資源の国家主権を大事にするノルウェーの公正な戦略が息づいているようにも思える。
注3 超長距離国際連系線:Ultra-Super Long Distance Interconnectors

再生可能エネルギー大量導入の時代と“極北GIFSN東西ベルト”の意義
 ところで、最近の世界のエネルギーの動向をみると、顕著な変化が示されている。IEAの世界のエネルギーの発電設備容量実績(2015)は再生可能エネルギーが初めて化石燃料を超えた。また、電力需要の増大が進み電化率も向上しつつある。図-2に明らかなようにヨーロッパも同様の時代を迎えている。この変化の先導役はヨーロッパの時代を引っ張る力に負うところが決して少なくない。そのヨーロッパの原発は足踏み状態で微減。再生可能エネルギーによる発電は2013年以降逓減中の化石燃料発電を初めて追い越した。WEO(2016)によれば、今後、表-1に示すように電力需要は増大し、“電動社会”の到来か、ともいえる未来展望が描かれている。地球温暖化対策に関する「IEA450シナリオ」はこの基本方向に基づいているものととらえられる。だからこそ再生可能エネルギー由来の電力供給が期待される。少し内訳を見ると、2050年に向けて、石油を燃焼させる“贅沢かつ貧困”な初歩的発想と陰口を叩かれた内燃機関(ICE: internal-combustion engine)、これを下地にしたメカトロ技術体系ICEは非常に大きな役割を果たしてきたとはいえ、撤退を余儀なくされる未来である。電気自動車の大転換へと進まざるを得ない。2040年までには、7億1500万台が普及(表-1)することは時代の新しいうねりである。

図-2 初めて化石燃料を超えたヨーロッパの再エネ導入
   -新しい段階に入った再エネの役割-
図-2 初めて化石燃料を超えたヨーロッパの再エネ導入
注)赤(原発)、灰色(化石燃料発電)、水色(水力)、緑(再エネ)
資料:ELECTRICITY IN EUROPE 2015,entso-e,2015より筆者作成。

表-1 「IEA WEO 2016」の基本的視点は“電動社会?”の到来か
表-1 「IEA WEO 2016」の基本的視点は“電動社会?”の到来か
資料:IEA WEO、2016より筆者作成。

 今後、一層再生可能エネルギーの導入が急速に進み、地域間で自然変動電源である再生可能エネルギーのグリッド統合、相互接続により再生可能エネルギーの大量導入が進み始める。一方、問題も生じる。この結果、既存グリッドへの統合はヨーロッパの系統全体が短期的にとどまらず、中・長期的に窮屈さが発生することが予測される。EUの優先課題への対応を踏まえつつ、長期的な「Energy Roadmap2050」やヨーロッパ・ルネッサンスを標榜する「Europe 2050」に対応した整備を進めることが基本潮流となる。従って、極北GIFSN東西ベルトに眠る再生可能資源については開発可能資源として、今から位置づけを明確にする必要がある。言うまでもなく、自然変動電源が主流になることは、今後既存の電力体系に大きな構成率を占めることを意味し、従来の電力の調整方法では追従ができなくなり、新しい仕組みを電力網にビルトインしなければならない。例えば、柔軟性が大きい発電施設である揚水型水力との連系が必要になる。このことは同時に新しいタイプの市場を揚水発電所側に持つことになる。これは“電力システムの進化”であり、一言でいうと「パラダイムの転換」の動きである。既存の電力網はその転換を迫られている。この様なパラダイム転換に対応する一つとして“極北GIFSN東西ベルト”の存在にも関心を深め、意義があることと、とらえるのが筆者の意図である。

膨大な水資源が眠っている“極北GIFSN東西ベルト”に必要な相互接続のチャンス
 基本的に自然変動電源である風力、太陽光発電の大量導入に十分対応するエネルギー政策の整備は待ったなしである。結論としていえることは、一つには柔軟性ある発電施設の整備、二つには電力貯蔵、三つには自国内の問題に終わらせない相互接続であり、そのための送電線のアップグレイドや新規の施設整備をおこなうこと、そして四つには電力網の負荷管理(混雑対応)を行うこと等である。この様な状況に柔軟性の大きい発電施設である水力発電は非常に効率がよく安価であることからその期待は大きい。EUの電力の単一市場化に向けて、各国は特に再生可能エネルギーの統合化を進めることが必要になっているが、“極北GIFSN東西ベルト”(図-1)には膨大な水資源等が存在しほとんど未使用で眠っている。ここはEUの優先課題の対象から外された政策的な空白地域であるが、極北GIFSN東西ベルトは再エネ開発(風力を含む)を期待でき、将来の再生可能エネルギー大量導入・統合、そして同時に柔軟性の確保の役割を十分果たす可能性を持っている重要なベルトである。その可能性の発揮には相互接続(インターコネクション)こそが求められる。そのためにも周辺の関係状況の把握・検証等を行うことが必要である。関連して、(その2)は、GIFSN東西ベルトにおける豊富な再生可能エネルギーとノルウェーの柔軟性のポテンシャルについて触れる。

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