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コラム連載 極北GIFSN東西ベルトの新展開とノルウェーの“緑のバッテリー”(2)

極北GIFSN東西ベルトの新展開とノルウェーの“緑のバッテリー”(2)

2017年5月11日 加藤修一 京都大学大学院経済学研究科特任教授

極北は再生可能エネルギーの宝庫 ・・・ 太陽エネルギーの貯蔵庫
 アイスランドと同様、EU非加盟国であるノルウェーはEEA(欧州経済地域)加盟国である。EU電力改革指令にもとづいて十分対応している。先進的に電力自由化を進め、1990年には電力の完全自由化を達成した。IEA加盟国の中で最速の電力改革であった。北海道程度の人口規模であるが、水力以外に天然ガス・石油関係も産出し輸出するエネルギー産出国である。第一次エネルギー自給率は586%(2013年)と世界一を誇る。図-3にみるようにノルウェーの水資源はほとんど開発されているがその優秀な開発技術のノウハウの蓄積は大きく、水力発電によるマーケット運用についても最先端を行くものである。一方、グリーンランド、アイスランドの包蔵水量は膨大であり、未開発である。ノルウェーとの連系は歓迎できるものであろう。一方のノルウェーの水資源開発は相当進んでいるとはいえ、EUに近接する南ノルウェーの潜在量についても調査研究が進み、現在のノルウェーの水力発電容量の2/3程度に匹敵する新たな潜在量がシナリオ分析の対象になり、国内は42万ボルトの中央送電網に連系し、海岸に近い水力発電はHVDCを通じて電力輸出が議論されてきた注4)。ハブ化に関係するシエットランド島のMaaliプロジェクトはこれに沿うものと考えてよい事業である。これらの大規模な潜在量に期待が集まっている。後述するノルウェーの揚水発電そのもの(潜在量)はこれから開発する段階にあり、この潜在量が前述の大規模潜在量として議論された。これらの議論がそもそも緑のバッテリー議論を強化する契機になり、現実的な役割を厳しく解析した調査研究の一つであるといえる。ともかく、多くの意欲的な議論が重ねられていることは事実であり、未来可能性を引き寄せる意思が伝わってくる。
注4) Eivind Solvang, et al. (2014), Norwegian hydropower for large-scale electricity balancing needs, SINTEF Energy Research, 2014.

図-3 GIFSN東西ベルト内の水資源の開発可能性
-水力発電の柔軟性と電力貯蔵等の役割が増々重要-
図-3 GIFSN東西ベルト内の水資源の開発可能性
資料:各国政府公表資料等より筆者作成

風力資源も優位にある極北GIFSN東西ベルト
 一方、水力資源以外に目を向けると、図-4にみるように、風力発電の開発潜在量についても“極北GISN東西ベルト”は非常に大きく、既存施設の設備利用率は、日本の2倍以上と高く、44%(アイスランド)、42%(フェロー諸島)、52%(シェットランド島)である。水力発電に必要な水資源の豊富さばかりでなく、風力資源の開発潜在量、設備利用率も卓越している。周辺状況を少し例示してみると、2017年にノルウェーにおいて建設中の陸上1 GW(Fosen Vind)は39%の設備利用率を想定している。また、2015年に世界の風力発電の42%を発電したデンマークについてみると、表-2に示されるように最近の平均設備利用率は30%を超えている。

図-4 GIFSN東西ベルト内の風力発電の優位な立地条件
-高率な風力発電の設備利用率(%)-
図-4 GIFSN東西ベルト内の風力発電の優位な立地条件
資料:Google Mapを下地に筆者作成, 2017.

表-2 デンマークの風力発電年平均設備利用率(%)
表-2 デンマークの風力発電年平均設備利用率(%)
資料:デンマークエネルギー公社統計資料より、筆者作成

 また2009年のスタート時に世界最大の規模(発電容量209.3MW)であったデンマークのオフショア風力発電所(Horns Rev 2)については、7.3年前の試運転以降の発電総量が6416GWh(2017年1月現在)に及び、年平均発電量に置き換えると、約875 GWh /年。その平均設備利用率は(875000MWh/(209.3MW×24×365)=)0.477と、約48%と高率である。これらの地域を離れて北米のカナダ・アルバータ―州は、南部(風力容量1114MW、2015)の平均設備利用率は32%、中央部(349MW)は33%である(AESO2015, Annual Market Statistics)。これらを突き合わせると極北GIFSN東西ベルトは優位な条件を持っていることになる。このように豊富な風力資源と高率な設備利用率を考え合わせると、逆に当地の風力発電が増加すれば、更なる柔軟性のある水力発電の必要性が期待されることになる。これ以外にも海洋エネルギーの開発も意欲的である。極北GIFSN東西ベルトは過酷な自然により機器の劣化が推測できる(精査必要)が、再生可能エネルギーの宝庫と考えられる。今後の利用拡大が期待される。

 次回、(3)において、“緑のバッテリー”に必要なノルウェーの水力の現況と潜在量等について触れる。

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