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コラム連載 極北GIFSN東西ベルトの新展開とノルウェーの“緑のバッテリー”(3)

極北GIFSN東西ベルトの新展開とノルウェーの“緑のバッテリー”(3)

2017年5月11日 加藤修一 京都大学大学院経済学研究科特任教授

1500ヶ所を超えるノルウェーの水力発電施設
 その中でも水力王国であるノルウェーの役割は大きい。ノルウェーの国民一人当たりの電力消費量は24000kWh/年とOECD平均の約3倍に相当し、国内消費電力は96%が水力発電由来である。ノルウェーは地質学的台地状の高山に存在する多数の湖沼の豊富な水資源を利かしている。表-3が示すように国内に1510ヶ所(2015年)の水力発電所(日本の水力を含む全発電所数は約1400ヶ所、電事連統計)を保有し、山腹は無数の配水管が縦横に走り、“蟻塚”のようである。別のコラムで触れる予定であるが、純輸出量は発電量のほぼ15%、リザーブ量は後述するように約841億kWhである。また揚水設備容量は約170万kW(全容量の5.5%)程度注5)であり、貯水量の季節変動(図-5)の対応にも使用されているようだ。図-5にみるように貯水池の水準は季節によって流入量に変化がある。4月頃が低水位、9月・10月が高水位である。2010年は、氷河の融解水も降雨量も少なく低い水準である。冬は夏より熱需要は多く、照明への電気需要も大きい。2010年の冬の貯水水準が低いことからも2011年の冬は更に低い水準になっている。この様に貯水池の水準は自然の影響を少なからずある。
注5) (DG ENER Working Paper, The Future Role and challenge Energy of Energy Storage)。2010年に169万kW、2011~2015年導入量はゼロ。

表-3 水力発電規模―全国1500ヶ所超の約80%は1万kW以下
-揚水設備容量は全体の5.5%に過ぎない-
表-3 水力発電規模―全国1500ヶ所超の約80%は1万kW以下
注)設備利用率ρ=(B*10000)/(A*24*365)にて筆者計算作成、
資料:FACTS, Energy and Water Resources in Norway, 2015, Norwegian Ministry of Petroleum and Energy, 2015等に筆者修正加筆作成。

図-5 ノルウェーの貯水池の貯水レベル(1年間の週単位)
図-5 ノルウェーの貯水池の貯水レベル(1年間の週単位)
資料:Nord Pool Spot関係資料より。Prognos (2012), Report: The significant of International hydropower storage for the energy transition, 2012.

 今後、柔軟性の確保を含めた水力発電の役割向上のために、貯水池をもつ水力発電の揚水発電への転換活用を主体にし、現存施設のアップグレイドが基本になると考えられる。新規インフラ整備については消極的に見える。逆に貯水池型水力発電、揚水式水力発電のアップグレイド潜在量が大きいことからその柔軟性に期待が高まっているが、いうまでもなく、これらの潜在量を開発してこそ“緑のバッテリー”の役割を果たすことができる。

ヨーロッパの総貯水量の半分を占める抜群の柔軟性・バランシング
 水力発電世界第6位が持つノルウェーの柔軟性は大きいが、その細部を検討し根拠を明らかにしてみると、ノルウェーの“緑のバッテリー役割論”の出発点がより明確になると考えられる。水力発電の現存設備容量は3100万kW、平均的な年間発電量は1320億kWhであるが、ノルウェーの技術的開発可能な包蔵水力について検討してみると、図-6でみるように2000億kWhを超える大規模な発電可能量がある。既存開発水力は約1300億kWh、保護・禁止量は509億kWh。今後の利用が不確かであるが未開発水力が15億kWh、事業先が明確になっている水力が36+77=113億kWh、アップグレイド等が187億kWh。貯水能力は841億kWhとヨーロッパの総貯水量の半分程度を占める容量である(Statkraft資料)。更に図-7の統計によると、ノルウェーの柔軟性に相当する貯水量は歴然としている。ノルウェー(820億kWh)、スウェーデン(340億kWh)、スイス(90億)、オーストリア(30億)、ドイツ(0.5億)と総合計の貯水量は1280.5億kWhの内、820億kWh(64%)と半分超の貯水量(柔軟性)である。反面、風力・太陽光発電の導入が卓越するドイツは、きわめて希少である。インターコネクションによるドイツの期待がここに表れている。

 EUは再生可能エネルギーの大量導入によって、柔軟な発電、また蓄電を必要とする段階にきていることは今さら言うまでもない。貯水池による水力蓄電とポンプアップ蓄電は蓄電手段としては効率的、再生可能な方法であり、比較的安価に大規模対応が可能な技術である。EUの電力市場にとって、ノルウェーの水力システムが保有している潜在能力を如何に開発し、効果的に利用できるかである。2050年の電力市場を想定して、ノルウェーの水力発電によるバランシングと電力貯蔵がどの程度役割を果たせるか。現有貯水量の大きさ、また潜在力の大きさからも期待の声は止まない。

図-6 ノルウェーの水力発電(技術的開発)可能量(億kWh)
-大きい保護・禁止量509億kWh(24%)-
図-6 ノルウェーの水力発電(技術的開発)可能量(億kWh)
資料:Norwegian Ministry of Petroleum and Energy, 2015等資料より筆者作成。

図-7 5ヶ国の最大貯水容量(柔軟性)の中で抜群のノルウェーのポジション
―大規模な二大水力発電地域とドイツとのインターコネクション展開―
図-7 5ヶ国の最大貯水容量(柔軟性)の中で抜群のノルウェーのポジション
資料:[Nord Pool Spot], [E-Control 2012], [BFE 2011a], [SRU 2011], estimates by Prognos AG (2011実績)より。

期待されるバッテリー潜在量だが困難な水力の「新規開発」  ・・・・ PA問題
 ところで、ノルウェーにおいても水力の新規開発に関する反対が決して少なくない。それにどう対応するのか。環境インパクトや消費者の(国際間の相互接続の増大等による)電気料金の上昇に対する懸念など、パブリックアクセプタンス(PA)に関する課題も払拭されていないようである。この様な中でEU電力市場への統合の程度によって生じる柔軟的対応量の急増、またエネルギーバランシングの時間軸方向の必要量の増加に対応する役割が大きく求められているのであるが、既に環境インパクト問題等から保護・禁止開発量が約24%と大きな数字が示すように貯水池型、揚水型についての新規開発の選択は前述したように非常に慎重になっている。今後、優先される開発方式はアップグレイド、最新のイノベーションに基づく新方式にならざるをえないのではないか。このように“緑のバッテリー”の役割を果たすには超えるべき課題が少なからずある。資料に目を通していると、国民、環境保護団体等の事業展開に対するエビデンス(根拠)の要求は高いように感じられる。これに関連する費用便益分析、費用効果分析、RIA(規制影響分析)等に熱心に取り組んでいる状況については今後のコラムに取り上げたい。

新たな仕組みが期待される日本の揚水発電
 以上、極北の新展開、北欧の一部であるノルウェーの水力発電が持つバッテリー効果の概要に触れてきたが、極北の新展開には存在する水源と風力資源との相互接続(インターコネクション)、更にはスカンジナビアのバッテリー効果やマーケット技術の導入が求められるが、基本的なことは足下に眠るエネルギーを巧みに利用する“体系”を持っていることである。いうまでもなく水力発電の別称が“緑のバッテリー”であるが、ノルウェーはその体系に加えてEU大の範囲でその潜在量の役割発揮を期待され、その役割を努めようとしている。本コラム(3)の冒頭に触れたシナリオ分析はその現れである。一方、わが国は既に2700万kW前後の揚水発電施設を保有し総定格出力では世界一である。群馬県には完成時に世界一といわれる約290万kWの揚水発電施設があり一部稼働中である。国内に保有している揚水発電を含めた水力発電等施設の一層効果的な運用を通じて、国民経済的な便益が広がる仕組みが期待されている。北欧、EUの意欲的な仕組み(システム)による揚水発電の活用は積極的に評価できるものである。

 今後、継続的にノルウェーの“緑のバッテリー役割”について取り上げる。

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