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コラム連載 再生可能エネルギー発電所の流動化の進展について

再生可能エネルギー発電所の流動化の進展について

2017年5月18日 松井泰宏 政策投資銀行

 最近、再生可能エネルギー発電所、特に稼働済みのメガソーラー発電所を中心として売却や流動化の相談を受ける回数が増加している(本稿では、売却と流動化をまとめて「流動化」と呼ぶ)。1件毎の個別の売却案件もあれば、いくつかの案件をまとめてポートフォリオとしての売却の案件もある。大規模な案件となると、いくつもの投資家が関心をもち、オークションになる案件も見受けられるようになっている。

 この傾向自体は望ましいことであり、開発能力のある事業者が開発を行い、開発終了、稼働開始後数年を経て第三者に売却し、売却により得られた資金を再投資に充当することにより新たな再生可能エネルギー投資を促進していけば、再生可能エネルギーの導入が促進されることにつながる。

 一方で、稼働済みのメガソーラー発電所は安定した収益が見込まれることから、従来の発電事業者だけでなく、一部の機関投資家にとって、不動産に次ぐ中長期の投資対象として認識されつつあり、投資家数も徐々に増加しつつあると見受けられる。こうして再生可能エネルギー投資に対する参加者の裾野が広がり、市場規模が拡大することは、更なる導入促進が求められている国内外の再生可能エネルギーの投資促進にもつながり、また、中長期的にみれば期待利回りの一層の低下による再生可能エネルギーの導入コストの削減にもつながりうるものとして評価できる。なぜならば、期待利回りの低下により、設備投資資金の調達金利等の低下が期待され、トータルでの導入コスト削減につながるからである。

 そもそもこのような流動化商品は割賦債権やリース債権等の債権の流動化からはじまり、次いで不動産の流動化が隆盛してきた。

 再生可能エネルギー発電所の流動化は不動産の流動化と類似点が多いと思う。例えば、再生可能エネルギーの販売価格は、FIT価格に基づき固定されていることに対し、賃料単価が中長期的に一定水準以上保たれることが期待される不動産の価格メカニズムと類似している。他方、販売数量面で一定のリスク(発電電力量リスクと、入退去リスク)を負う点や、債権の流動化とは異なり、投資物件の維持・管理が必要であり、維持・管理リスクがある点も類似している。 ただし、管理・運営はオリジネーター(原資産の当初の所有者)等に委託が可能であり、購入者が必ずしも直接管理・運営する必要はない点もまた共通している。

 再生可能エネルギーと不動産との一番の相違点は私見では使用可能期間/耐用年数の違い、にある、と思っている。すなわち、不動産は法定耐用年数が50年(建物のみ)、実耐用年数はそれ以上、と言われているのに対して、発電所設備の法定耐用年数は17年、実耐用年数は、最近は延びてきている、と言われているものの、十分なメンテナンスが行われたとしても25年程度ではないだろうか。

 耐用年数が短いことの問題点は、一度稼働済みの発電所を購入した場合、数年経過後に再度第三者に売却することは難しくなる可能性が高いことになる。そのため、稼働済み資産への投資を検討する場合には、使用期間中および使用期間終了後について一定のリスク・責任を有することを念頭において購入を判断する必要がある、ということである。

 このことはつまり、使用期間終了後の廃棄や現状復帰を行う必要があることを考慮した上で、投資判断をする必要がある、ということになる。具体的には、将来の廃棄・現状復帰費用を見積もる必要があることになる。もちろん、使用期間終了後に新たな再エネ設備を導入する、いわゆるリパワリングによるアップサイド(超過利益が発生する可能性)も期待できるため、一概にダウンサイド(損失を被る可能性)リスクのみを織り込む必要があるわけではない。

 再生可能エネルギーは主として環境配慮の観点から導入促進が図られているが、それにとどまらず、ESG (Environment, Social, Governance) 全ての観点から優れた投資であることが求められている。その観点においても、再生可能エネルギーの開発や購入にあたっては、初期コストや維持管理コストだけでなく、使用期間終了後のコストも加味した、ライフサイクルコストの考え方がさらに浸透していくべきではないか、と思っている。

 購入者はそれだけの責任を負っていることを十分自覚した上で投資判断を行う必要があるとともに、開発事業者自体もライフサイクルコストを考慮の上で開発を実施するとともに、売却の際にも、将来にわたり信頼して任せることのできる投資家を選択することが求められるのではないだろうか。

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