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コラム連載 蓄電池による変動調整の役割

蓄電池による変動調整の役割

2017年6月29日 内藤克彦 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 我が国では、蓄電池の技術が比較的に発達しているために、再エネの変動調整というと真っ先に蓄電の導入を提案する人が多い。一方で欧州では蓄電池の導入の検討はしているものの、蓄電池が必要になるのは電力需要の60~70%以上の再エネが入ってからのことで、それまでは電力グリッドで再エネの変動は吸収できるという議論が主流となっている。他方で、米国においては電力グリッドが脆弱であることもあり、わが国同様に、蓄電池の導入の議論が盛んになされている。蓄電池の導入、特に、分散型電源(DER)としての小規模蓄電池の活用には、どのような意味があるのであろうか。

 再エネ適地は電力需要の小さい地方部にあるために、電力グリッドの容量が自然体では小さく、グリッド容量を増強しない場合には、再エネのピ-ク出力時にグリッド容量を超え、出力抑制が必要となる。確かに蓄電池が入ることにより再エネのピーク出力の平準化により、出力抑制をせずに一定程度の電力は地方部の電力グリッドに吸収できることになる。上位の電力グリッドから見ると下位の末端電力グリッド内で変動調整がされるので、上位のグリッドの負担は小さくなる。

 蓄電池の導入により、電力グリッドの増強をせずに上位グリッドの負担は小さくなり、しかも、DER蓄電池の負担は一般にグリッド側ではないために、グリッド管理者から見るとメリットは大きい。再エネ側から見た場合にはどうであろうか。末端グリッドに接続できる再エネの量は、ピ-ク時に合わせて制約されていたものが、平準化された出力に対応して制約されるようになるので導入量はその分増加することになる。しかしながら、この場合の導入量のMAXは、所詮は当該地方グリッドにおける電力需要の量に制約されることになる。

 再エネ適地の地方部の電力需要は、全て合わせても全国の電力需要の中で小さなシェアしか持たないので、仮に、ここで限界まで再エネを入れることが可能となっても、電力需要の大宗を占める都市部の需要に結びつかなければ、全国ベースでの再エネシェアは所詮はたいして伸びないということが容易に想像つく。つまり、欧州のように全国の電力需要に対して大きな割合で再エネ電力を導入しようとすると、再エネ立地点周辺で蓄電池を入れることは余り意味をなさないということが理解できる。

 都市部の電力需要が全国の電力需要の過半以上を占めるとしたら、再エネ電力を都市部まで持って来ない限り、欧州のように総需要の50%を超える再エネの導入を計画することはできないということであろう。再エネ電力が過半を超えたときに、出力抑制を減少させるために各地のDER蓄電池を活用するということは意味があるが、全国ベースで再エネ比率を高めるためには、蓄電池よりもグリッドの増強の方がまず必要となるということである。

 都市部に地方部の再エネ電力を持って来るには、この経路に当たるグリッドの増強は不可欠で、再エネ接続される地点から上位のグリッドに送電する送配電線の増強、上位のグリッドへ受け渡す変電所のキャパシティの増強、通過地点の変電所で上位のグリッドに再エネ電力を送り込むために変電所でバンク逆潮流ができるようにするための変電所の双方向化、上位のグリッドにおけるキャパシティ管理の柔軟化、電力融通の広域化といったことが必要となる。これを行わないで、地方部にDER蓄電池を導入しても大規模な再エネ導入には所詮繋がらないということを認識しておく必要がある。

 欧州においては、ここ十年くらいの間にこのようなグリッド増強に計画的に取り組むことによって、今までの少数の大規模発電から一方通行で電力需要地に送電するという電力グリッドシステムを地方部の膨大な数の分散電源から電力を集電し大都市を含む電力需要地に再配分するという電力グリッドシステムに抜本的な改革を行ってきた。当然、グリッドの運営方法もシステム概念の改革に応じて抜本的に変わってきたわけである。この結果、DER蓄電池や電気自動車の蓄電池を再エネ出力抑制減少策として活用する場合においても、膨大な分散電源に適応した新たな電力グリッドシステムは有利に機能することになっている。欧州では、ここにさらにAI技術を導入して、より高度な電力グリッド運営を模索するという動きがあり、わが国の電力グリッドが旧来型のシステムの温存に汲々としている間に、欧州は、さらに大きな改革の方向に進んでいる。ちなみに、電気自動車を抱える自動車産業を見ると、欧米においては、今や電力グリッドと情報グリッドに接続したエネルギ-・情報端末として自動車を位置づけ、AIを駆使して高度な運用を行うという方向に自動車各社が邁進している状況となっており、電力グリッドは交通システムとも連携を深めつつある。

 世界の趨勢が以上のような方向性を持って激動しつつあるという認識の下にわが国のエネルギ-政策も考えないと、わが国の産業界だけ、またしても「ガラパゴス列島」の中に取り残されるということになりかねない。

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