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コラム連載 時代の先端をひた走りはじめ、進化する“動くバッテリー”(その1)

時代の先端をひた走りはじめ、進化する“動くバッテリー”(その1)

2017年7月6日 加藤修一 京都大学大学院経済学研究科特任教授

都市内の“動くバッテリー”
 世界の再エネの累積設備容量が2015年に初めて火力発電を超えたことが2016年に驚きをもって世界中を駆け巡った。再エネ導入の主流化の予兆ともいえる。一方、自然変動電源が膨れ上がることは余剰電力や発電抑制が生じやすくなる。的確な対応がなければ系統はリスクを抱える。筆者はノルウェーの“緑のバッテリー”をコラムで取り上げてきたが、現時点の蓄電設備として低廉な貯水型水力をノルウェーは全ヨーロッパの約50%を保有しバランシング機能を発揮しているが、将来的には必ずしも十分とはいえない。各種のシナリオ分析が明確にしている。

 IEAは「Global EV Outlook 2017」において、世界のEVが2015年に累積100万台を超え、1年後に一挙に75万台増加し200万台の到達を歴史的記録(図-1)と指摘した。副題は“200万台、そして絶え間なく増加へ”と大きな期待表現である。この期待にはEVの増加は単に移動手段の増大や環境質の改善にとどまらずバッテリーを搭載した移動体にある。ノルウェーの“緑のバッテリー”を思うと、都市内の小さな、それも“動くバッテリー”を意味する。

IEAレポートの果敢な指摘 ―  時代を画するエネルギー転換の3技術
 小国のノルウェーの国内新車構成率の29%がEVであること、大国の中国が全世界のEV構成率の40%(2016)と急増中(PLDVベース)である。図-1には記載されていないが、中国は200万台を超える電動二輪車、3~4百万台の低速電動車、300万台超の電動バスを保有する。他の交通機関の電化率も高く、EVの実数台数は世界の先頭を走っている。中国は世界最大の電気自動車王国である。

 また、IEAの「Tracking Clean Energy Progress 2017」(6月にリリース)によると今日までに精査・究明してきた26の革新技術を取り上げて持続可能なエネルギー転換という時代の先頭を切り開く選りすぐった技術、時代の主流化技術は、(1)成熟技術化した太陽光・風力、(2)電気自動車、(3)蓄エネの3技術であると、指摘した。以上の3技術に関する我が国の状況はこれからともいえる。日本政府は「エネルギー基本計画2014」を見直し中である。再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議は省庁間の連携に係る再エネアクションプランを策定したとはいえ未だ不十分である。この際に2030年に向けた再エネ(22~24%)の意義を明確にするためにアクションプランを策定し再エネ関係産業の経営的予見性を高めるべきである。

図-1  2015 年に100万台を超え2016年200万台と“急速に進化するEV”
2015 年に100万台を超え2016年200万台と“急速に進化するEV”
   注)BEV: Battery-Electric Vehicles, PHEV: Plug-in Hybrid Electric Vehicles
   資料:Global EV Outlook 2017より筆者仮訳(2017.7)。

 同時に国際公約である2050年のCO2削減80%(閣議決定された「環境基本計画」)を踏まえた政府としての長期的な気候変動対策実行計画が未策定であることを考えると、経産省と環境省は歩み寄り人類益ともいうべき視点から策定すべきである。

EV大量導入のシナリオ - 450シナリオは7億1500万台(2040)
 話を戻す。電気自動車はCO2削減と密接である。既に指摘されている様に各国はパリ協定の誓約した削減量では2ºC未満に抑えるには不十分である。2ºC目標への道のりは非常に険しく、1.5ºCへの道は未知の領域ともいわれる。しかも450シナリオを達成するための課題は膨大であり、排出量の追加削減の最前線は電力部門であることからも全ての最終消費部門における電化を強力に進めなければならない。450シナリオでは、2040年の発電量の約60%を再生可能エネルギー由来と考え、普及を加速的にすべきと考えている。その半分は風力・太陽光である。しかも2040年までに7億1,500万台の電気自動車の普及を抱えたシナリオである。

 図-2は各種のシナリオにおけるEVの展開である。「IEA-B2DS」のシナリオは2030年までに25%EVシェア、EVI諸国は30%。同様の率はPLDV限定で30%、EVI諸国は35-40%。2020年までに2500万台である。「IEA-2DS」のシナリオは1億6千万台、平均シェアは18%、EVI諸国は25%(平均上昇温度2ºC抑制)である。「パリ協定」のシナリオは2030年までに1億台の閾値を超え2輪は4億台。2DSの1/3、B2DSの半分となる。最後の「RTS (Reference Technology Scenario)」 のシナリオはエネルギー効率や多様性、大気質、脱炭素を配慮し2030年までに5600万台である。

 製造各社が発表している世界OEM累積総量の数値を各シナリオ値と突き合わせてみる。OEM累積総量は2020年で9百万~2千万台、2025年には4千~7千万台である。IEA-RTSシナリオと突き合わせると、両年で超え、両年の最大値はパリ協定シナリオを超え、IEA-2DSシナリオの曲線にくる。

 (次週に続く)

図-2  2030年に向けた電気自動車の展開シナリオ
図-2  2030年に向けた電気自動車の展開シナリオ
注)E30@30Campaign:このEVI(EVイニシアティヴ)は2030年までにEVI参加国の電気自動車の新車総数の30%シェア を達成する率先行動。PLDV: Passenger light-duty Vehiclesは2輪車、3輪車等の電気自動車を含まない。
資料:「Global EV Outlook 2017」より筆者仮訳(2017.7)。

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