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コラム連載 広域的なエネルギ-資源の活用

広域的なエネルギ-資源の活用

2017年7月27日 内藤克彦 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 改正前の電気事業法の世界では、一般電気事業者は、自社の電力線を他社エリアに設置してでも自社エリア外の遠方に水力や原子力、石炭火力の電源を確保するということも行われてきた。これらのエリア外の発電施設は、「自社」の施設として一体的に運用されてきたわけである。つまり、自社の延長線としては、結構、広域運用していたわけである。

 改正電気事業法では、統計上これらのエリア外の電力は、エリア外からの調達として「広域的運営」としてカウントされているのではないかと予想される。例えば、関西電力は、北陸電力管内から調達していることになっているが、これは黒四ダムの水力ではないかとか、四国電力管内からも調達しているがこれは、電源開発の橘湾火力からの調達ではないかとか、容易に想像がつく。

 送配電会社が分離された世界ではどのようになるのであろうか。各社が他社エリアに設置した送電線がどのような扱いとなるのか筆者にはわからないが、いずれにしても送配電会社から見ると他エリアの発電施設は、全て分け隔てなく扱うことになるので、これらの施設はエリア外の施設という位置づけになるはずである。これらの施設は、既に運用されているので電力広域的運営推進機関が取りまとめた供給計画にエリア外調達として当然組み込まれることになる。
一方で、再エネ関連のエリア外施設は、どのように扱われることになるのであろうか。

 欧州においては、風力発電に適した北ドイツ・デンマ-クや北海・バルト海の風力を中・南ドイツ等に送電し、また、ノルウェ-の水力を調整力として活用するなど、資源の広域的有効利用が図られている。また、需要の少ない北ドイツに対して需要の大きい中・南ドイツが「下げ代」としての発電受け入れを行っていると見ることもできよう。このために、欧州においては、送電会社(TSO)間はもとより国際間でも供給計画の作成に際しては、最初からTSO間・国際間の「常時の」やり取りの存在を前提とすることが義務付けられている。

 我が国で盛んに主張される「下げ代」問題も需要規模の小さい地域のみで再エネ適地としての大出力を吸収しようとするところから発生している問題であり、適地に豊富に産出する資源の有効利用と変動吸収のためには、欧州のように広域的な需給管理が必要である。これを実現するための仕組みとして改正電気事業法では、電力広域的運営推進機関に供給計画の取りまとめが任されていると見ることができよう。

 このような目で電力広域的運営推進機関が取りまとめた供給計画を見ると、先に述べたような昔ながらの域外大規模発電施設は計画にエリア外からの調達として組み入れられ、対応する送電線の増強計画まで組み込まれているように見受けられるが、国内資源の活用の観点からの再エネの立地計画、これに対応した送電線の増強計画は計画から読み取ることができない。まだまだ、旧来の電力会社の枠の中で需給を賄うという考え方から抜け出していないように見受けられる。本来、再エネも「域外の自社等発電」も公平かつ同様の扱いで検討の俎上に上るべきものであるが、電力会社で作成される各社エリア別の供給計画には直轄や大手卸電力の事業以外は入ってきていないのではないか。

 今回の改正電気事業法では、「電気の供給の状況が悪化した他の・・指示」を行うのが電力広域的運営推進機関の仕事で、そこまでの権限はないのかもしれないが、我が国の国内エネルギ-資源の有効活用の観点から見たエリア別の役割分担を踏まえ、具体的再エネ立地計画をエリアを跨る需給計画として供給計画や送電計画に組み込む方針を電力広域的運営推進機関が示した上で、各エリアに供給計画を作成させる必要があると思う。

 この場合電力広域的運営推進機関が示すのは、マクロ・抽象的なものではなく、具体的な計画目標数量である必要がある。各エリアの送配電事業者には基本的に各エリア内の情報しか入らない。再エネ適地の電力に入った再エネの立地計画は需要の小さい再エネ適地の送配電事業者にとっては手に余るものとなり、当該送配電事業者の固有のニ-ズの観点からは供給計画に組み入れる必要のないものとなるが、一方で大電力需要地の送配電事業者にはこのような立地計画の情報は入らないので、需要地側の供給計画に組み込まれることもない。

 欧州における北ドイツから南ドイツへの風力電力の送電のようなことを実現するためには、広域的な需給政策として電力広域的運営推進機関が、両地域に対してこのような再エネ立地計画と関連する設備計画の供給計画参入を予め指示する必要があるのではないかと思われる。先進各国の経験では、このような計画作成に際して、送配電事業者だけで作成すると送配電事業者の内部的ニ-ズのみで計画が作成されることになり、また、再エネ側の弱い立場もあり、外部の再エネ立地計画が反映されないため、計画作成には広く関係者を参加させることが制度化されるに至っている。さらに欧州では、TSO間の調整機関としてENTSO-eも設置され、広域的な需給調整の議論がされている。

 各エリアで基本的に閉じた計画のホッチキス計画から脱して、昔各電力会社が水力発電で行ったように広域的な観点からの再エネ資源の有効利用の計画を供給計画にインプットすることができれば、会社間連携線の位置づけも自ずから変わり、会社間連携線利用の間接オ-クションも有効に機能するようになるであろう。長期・国益的な観点からは、北海道、東北、九州といったエネルギ-資源が豊富な地域は、地域内の需給だけではなく広域的な供給を考え、関東、関西、中部の大需要地は、積極的に全国のエネルギ-資源適地のエネルギ-の開拓を考え、広域的なグリッド運用でこれらを繋ぎ、計画熟度に応じて供給10年計画に順次書き込むような方向で行く必要があろう。

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