1. HOME
  2.  > コラム連載 「原発を新設する」と書くか? ~エネルギー基本計画改定の課題~

コラム連載 「原発を新設する」と書くか? ~エネルギー基本計画改定の課題~

「原発を新設する」と書くか? ~エネルギー基本計画改定の課題~

2017年8月3日 竹内敬二 エネルギー戦略研究所株式会社 シニアフェロー

 国のエネルギー基本計画を3年ぶりに見直す作業が始まる。経済産業省は審議会「総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会」を近くたちあげる。エネルギーの長期政策を考える有識者会議も同時につくる。いよいよ2050年にいたる長期のエネルギー戦略が議論される。

 日本は2011年の福島第一原発事故でエネルギー政策の抜本的見直しを迫られたにもかかわらず、以後、深く議論することなく、従来路線を継続する形で今に至っている。

 しかし、そうした「なんとなく過去を継承する」はもう限界にきている。世界の発電は自然エネに大きくシフトし、21世紀後半までを展望した温暖化対策が求められている。日本が21世紀後半にどんなエネルギーの国をつくるかは、現在の政策判断で決まる。日本が決めるべきことは多いが、最大のテーマは「今後、新規の原発をつくるのか、つくらないのか?」である。どちらの道を選ぶかによって、将来のエネルギー地図は大きく変わる。

《「2030年に原発20~22%」を維持へ》
 国の基本方針を示すエネルギー基本計画は、エネルギー政策基本法によって政府が策定を義務付けられている。少なくとも3年ごとに見直す。現在の計画は2014年4月(第2次安倍政権)に改定された。

 前回の改定でも原発の扱いが議論になった。福島事故の記憶が生々しい中でも、政府は原発を「重要なベースロード電源」と高く位置づけた。その一方で、「原発依存度を可能な限り低減する」という文言も入れてバランスをとった。そうしてできた基本計画に基づいて、翌2015年につくられた電源構成の将来目標は「2030年時点で原子力20~22%、再エネ22~24%、火力発電56%(天然ガス27%、石炭26%、石油3%)」とされた。

 その後、原発の再稼働はあまり進まず、2016年度の原発の発電割合はわずか1.7%だが、経産省は今回の改定でも「2030年に原発20~22%」程度の数字を維持しようとしている。

 しかし、この数字は達成が難しい。いま原発の寿命は原則的に40年とされている。特段の理由があれば60年に延長することもできるが、「40年寿命」を守れば、原発数はこれから急激に減っていく。今後原発をすべて再稼働したとしても、2030年時点では「約20基が稼働、発電割合は12%」になってしまう。

 20~22%を得るには約30基の原発が必要とされる。多くを再稼働させ、かなりの数の寿命を60年に延長しなければならない計算になるのでかなり難しい(図1参照)

図1 利用可能な原子力発電所がすべて稼働した場合の発電電力量の予測
図1 利用可能な原子力発電所がすべて稼働した場合の発電電力量の予測。
「寿命40年」では原発の発電割合は急速に低下する。
 (主要原子力施設設置者の資料から)
左の線は原発すべてを再稼働させ、寿命40年の場合の発電割合。
右の線は原発すべてを再稼働させ、寿命60年の場合

《新設を求める決議で雰囲気づくり》
 重要なのは、2030年時点の数字だけではない。中長期的に、一定数の原発を持ち続けるかどうかだ。新規の建設がなければ、いくら再稼働をしても、あるいは寿命を60年に伸ばしても、日本の原発数は今後急速に減っていく。

 今年6月、エネルギー調査会社のブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンス(BNEF)がエネルギー予測を発表した。日本は「原発の新設なし」で考えている。今後再稼働はかなり進むとみており、2023年にはピークとして発電の14%を原発が占めるようになる。しかし、その後は減って、2030年には10%になり、40年にはたった1%になってほぼ消える。新設がなければ、このあたりが妥当な予測だろう。

図2 日本の発電割合の実績と目標、予測
図2 日本の発電割合の実績と目標、予測
左の棒グラフは2016年の実績値。
概算で石炭30%、天然ガス46%、太陽光5%、原子力1.7%、水力8%、石油6%、
残りは「その他の自然エネ」。
中央は現行のエネルギー基本計画に基づく2030年の政府目標。原子力21%(20~22%)。
右のグラフはブルームバーグによる2030年の予測。太陽光が15%で原子力が10%

 日本の政府、電力業界は、今後も原発重視の政策を維持する考えなので、その方向でエネルギー基本計画をまとめようとするだろう。

 7月18日には自民党・電力安定供給推進議員連盟が「原子力発電所の早期再稼働に向けた決議」をした。その中で「新増設、リプレースについても国が前面に立って取り組むこと」とした。

 また7月20日には、内閣府の原子力委員会が、国の原子力政策の長期的な方向性を示す「原子力利用に関する基本的考え方」を決定した。ここでは、地球温暖化や電気料金の上昇への対策として「原子力発電の安定的な利用が必要」としている。いずれも「新設」への雰囲気づくりだ。

《「新設」には社会の反発必至》
 しかし、福島事故は3基の原子炉が炉心溶融するという未曽有の大事故であり、故郷に帰れない人がまだ数万人もいる。事故以降の日本社会は、ほぼ原発なしで動いている。世論調査などをみても、再稼働への反対が多く、日本社会は新規の原発建設を許容するような状況にはないといえる。

 そこで、エネルギー基本計画では、「新設」をあいまいに表現する可能性が高い。例えば、「新設する」とも「しない」とも書かず、「温暖化対策に有効」などを強調する。あるいは「原発依存度を可能な限り低減する」という言葉を消すなどで、将来の建設に向けた地ならしをすることだ。

 しかし、今の日本に本当に必要なのは、そんな弥縫策で従来路線を続けるのではなく、福島事故で示された課題を直視して政策を大きく変えることだ。それは①原発を大きく減らす②自然エネを大きく増やす③電力制度の自由化を進める、を同時に進めることにほかならない。これらの議論と政策変更は行われているが、いずれも中途半端だ。

 また日本には三菱、日立、東芝という巨大な原子力メーカーがあり、業界再編の時期を迎え、東芝は大きなトラブルを抱えている。「将来、原発の国内市場があるのか、ないのか」は業界には大問題だ。

《核燃サイクル政策も整理が必要》
 今のままの原発政策が続けば、矛盾だらけの核燃料サイクル政策はさらに混乱する。日本では昨年12月、政府の「原子力関係閣僚会議」が、「高速炉開発の方針」と「『もんじゅ』の取り扱いに関する政府方針」を発表し、核燃サイクルの方針を確認した。

 しかし、この内容は「もんじゅは廃炉にするが、高速炉開発を継続し、その実用化をめざす」というもの。これは無理な内容だ。

 もんじゅの廃炉決定で、高速増殖炉開発は止まった。一方、再処理工場はほぼ完成ずみ。MOX工場は建設中だ。この3つの主要施設が同時期に存在しなければ、サイクルは回らない。当面、その状態が続く。日本が戦後一貫して掲げてきた「使用済み燃料を全量再処理し、多くの高速増殖炉をもつサイクル社会」が実現すると思っている人はほとんどいないだろう。これが現実だ。

 もんじゅの弟分、高速増殖実験炉「常陽」も止まっている。常陽は熱出力が14万kWだが、所有者の原子力機構は「10万kW以下での運転」を申請して原子力規制委を怒らせた。原子力機構は、14万kWでは、半径30km圏内の自治体において避難計画が必要になるが、10万kWだと5km圏に狭まるので、「運転再開が簡単」と考えた。

 これに対して規制委の田中俊一委員長は「ナナハン(大型バイク)を30km/h以下で運転するから、原付バイクの免許でいいのでは?といっているようなもの」と激怒した。サイクルのこんな混乱状況をみても、原子力政策全体を本格的に見直す時期だということがわかる。

このページの先頭に戻る