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コラム連載 30基の建設計画が2基に ~米国・原子力ルネサンスの顛末、原発新設の難しさ~

30基の建設計画が2基に ~米国・原子力ルネサンスの顛末、原発新設の難しさ~

2017年10月12日 竹内敬二 エネルギー戦略研究所株式会社 シニアフェロー

 約10年前、米国で「原子力ルネサンス」という言葉がうまれ、「原発復活」の機運が世界にひろがった。米国での新設構想は一時約30基まで積みあがったが、その後、計画の凍結・撤退が相次ぎ、いま建設工事が続いているのは2基だけになった。あっという間のルネサンスの消滅は、先進国における原発新設の難しさを示している。

 今年8月末、米国の電力会社サザン・カンパニーは、ウエスチングハウス (WH) に発注していた原発2基について「建設を続行する」と発表した。ジョージア州で建設中のボーグル3, 4号機である。

 この発表に多くの人が胸をなでおろした。7月には、同じWHに原発2基を発注していた電力会社スキャナが、追加工事費の高騰などを理由に、進行中のVCサマー原発2, 3号機の工事中止を決定したばかりだった。ボーグルの2基が中止になれば、ここ10数年で生まれた計画のうち、実際に建設が進められているのが、「ゼロ」になるところだった。

◇大規模な優遇政策がきっかけ
 ボーグルの2基は米国では「30年ぶりの新規原発」といわれる。米国では1979年のスリーマイル島原発事故のあと、新規の発注は長い間ゼロだった。昨年、ワッツバー原発2号機が営業運転を始めたが、これは1973年に着工したあと長い間工事が止まっていた古い計画だ。

 原子力ルネッサンスという言葉をさかのぼると、2005年にできた「米国エネルギー政策法」にたどりつく。エネルギー自給率の向上をめざしてできた法律で、新設原発への大きな支援策が有名になった。新たに建設される最初の600万kW(約6基分)については、8年間、1 kWhの発電あたり1.8セントの優遇(税金控除)をするというもの。さらには政府による80%の債務保証もついた。

 「これで原発ができないわけがない」と言われる内容だったので、あちこちの電力会社が建設構想を打ち出し、「ルネサンス」の言葉が生まれた。2008年ころには約30基にも積みあがった。

 2005~06年といえば、原発への追い風があった。英国が20年近く続いた「原発を作らない政策」を見直した。日本の経済産業省が「原子力立国計画」をつくったのも2006年。55基も原発を持ちながらさらに13基を増設する積極策だった。東芝が54億ドルという高い値段でウエスチングハウスを買収した。

 しかし、2010年を過ぎると、米国では計画の凍結や撤退が続いた。2017年4月段階では、11基がCOL(建設運転一括許可)を取得していた。しかし、建設に入っていたのは4基だけで、あとは着工を止めていた。残りの多くは手続きを止めたり、計画を白紙に戻したりしていた。

図 「米国原子力市場の見通しレビュー」
図 「米国原子力市場の見通しレビュー」
(村上朋子氏による)

◇ガスや風力にコストですでに負けていた
 建設に入った4基は、13年に着手したVCサマー原発の2, 3号機と、ボーグル原発の3, 4号機のである。いずれもウエスチングハウスが受注したもので、のちに東芝の重荷になったことで有名になった。
ルネサンスが消え失せた原因は、次のようなものといわれる。
  • 2008年のリーマンショック。
  • 2011年の東京電力福島原発の事故。
  • 2014年のシェールガス革命。これによって既存原発も発電コストの面で、運転継続が危うくなった。

 電力会社からみれば想定外の面もたしかにあった。しかし、今では「そもそも当時の米国にルネサンスとよぶような内実はあったのか」と見られている。

 ルネサンスといわれた2006年ごろのデータをみれば、米国では新設原発での発電コストはすでに天然ガスや陸上風力に負けていたとみられるからだ。エネルギー政策法で、あっと驚く支援策が登場したことで、電力各社は新規建設に手を挙げたが、本気度はそれほどでもなかった。計画を精査する中で建設への着手を躊躇した。「将来の原発市場は大きく伸びる」という予測は多かったが、これらの多くは世界の原子力関係の機関がだしたもので、過去もそうだったように、「願望」が含まれていた。

 そして新しい支援策についていえば、「ほとんど役立たなかった」といえる。1.8セントの補助は、原発が完成して発電を始めたあとでもらえる。そこまで進まなかったので役立たなかった。

 結局、ボーグル原発の2基だけが残ったが、これも安閑としてはいられない。政府はこのほど、建設コストの増大への対処として37億ドルの追加の融資保証を提案した。2010年にすでに83億ドルが承認されている。もう国を挙げて支える形になっている。

 時間との闘いもある。「1.8セントの補助」を受けるには、「2021年1月1日までには運転開始」という条件がある。間に合わないかも知れないので、また何らかの救済策が必要になるだろう。

◇原発は「1基1兆円」の時代に
 「原子力ルネサンス」の消滅は、コストが原因だった。ほかの電源に負けたのである。安いシェールガスには、米国では原発は絶対に勝てないし、世界的にみても風力や太陽光など自然エネルギーの発電に勝てなくなりつつある。

図 世界の運転中の原発数と発電電力量の推移
図 世界の運転中の原発数と発電電力量の推移
(The World Nuclear Industry Status Report 2017 より)

 ある資料では、米国の原発建設コストは1998年に2,065ドル/ kWだったが、福島原発事故を経た15年には5,828ドルになった。計画されている英国のヒンクリーポイント原発では「発電コストは1 kWhあたり18円」との予測もある。先進国の原発の新規建設は「1基1兆円」時代に入っている。日本のこれまでのコスト計算では「1基4,400億円」という数字で計算しているので、今後の計算で原発の競争力を強調するのは難しくなる。ただ既存原発では話は別だ。

 米国がルネサンスに沸いていたころ、ドイツは脱原発に向けて走り始めていた。2006年にベルリン自由大学のマルティン・イエニッケ教授(当時、環境政策学)に聞いた言葉を思い出す。

 「民主主義社会で完全に自由化された電力市場をもつところでは、原発の新規建設という選択肢はない」。これは電力自由化に重きを置いたコメントで、まだ福島原発事故も起きていなかった。

 原発に批判的な研究者(マイケル・シュナイダー氏ら)が毎年「世界の原子力産業」という報告書を出している。9月に出た2017年版報告書の前文で、米国のテネシーバレー開発公社(TVA)元会長のデビッド・フリーマン氏は「もう議論は終わった」と書いている。「原子力は太陽光と風力によって日食のように覆い隠されつつある」

 原発は、建設・発電コストの上昇、事故の脅威、電力自由化、自然エネルギーの伸長によって、建設が難しくなっている。

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