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コラム連載 透明で、非差別的な・・・。

透明で、非差別的な・・・。

2016年11月17日 安田 陽 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 筆者は海外(とりわけ欧州や北米)の再生可能エネルギー導入や電力系統の設計・運用に関する調査研究を行っていますが、海外の論文や報告書、法律文書などをつぶさに観察すると、「透明性 (transparency) 」「非差別性 (non-discriminately)」という表現に多く行きあたります。例えば、欧州連合 (EU: European Union) の指令 (directive) や米国連邦エネルギー規制委員会 (FERC) の命令 (order) では、表に例示するように透明性や非差別性という用語が多く登場します。

表 欧州および米国の法令における透明性と非差別性に関する言説の例
欧州および米国の法令における透明性と非差別性に関する言説の例

 ちなみに、EUにおける「指令」とは、加盟各国に拘束力を持つ法律文書のひとつであり、各加盟国内において関連法の整備を必要とするものを指します。「指令」というと日常用語に近く、あまり権威や権限がなさそうな軽いイメージですが、これは加盟各国の法令の上位に位置する強制力をもった法律文書です。同様に米国の「命令」も、普通名詞っぽいのでわかりづらいですが、連邦政府の規制機関が発行する通達であり、主権意識の高い各州(stateなので本来、国と言っても差し支えありません)を超えた強い権限を有する規制文書です。

 上記の表で取り上げたEU指令やFERC命令はいずれも、再生可能エネルギーや電力自由化を考える上で歴史的転換点とも評されるものです。欧州では、1990年代後半から電力自由化に関する議論と法令整備が進み、2010年には一応の発送電分離が完了しています。そのため、送電会社は需要家や発電会社を含むいかなる利用者に対しても差別してはならず、その手続きは客観的で透明かつ公正でなければならないという考え方が一般的になっています。

 また米国は、州によっては発送電分離が進まず垂直統合されたままの電力会社が存続しており、発送電分離が進んだ地域でも、送電線の運用は独立した第三者機関が行うものの、所有者は従来の電力会社や私企業になっています。しかし、米国はなによりも自由市場を重んじる国なので、透明性や非差別性の重視が法令文書で謳われることはある意味当然であり、この2つの言葉は米国の気風を表す象徴的な用語といえるでしょう。

 翻って、我が国では現在、風力や太陽光発電の系統接続制約の問題が大きな障壁としてクローズアップされています。また、原発の廃炉コストを託送料金に混ぜようとしたり、特定の電源のみを優遇する市場(ベースロード電源市場)を創設しようとする議論が現在進行中です。果たして、日本では「透明性」や「非差別性」が担保されているでしょうか? 透明性や非差別性が担保されていないとすれば、それは成熟した自由主義経済の国とは言えなくなってしまいます。我々の国は開発独裁の国なのでしょうか、あるいは社会主義国家だったのでしょうか。電力システムや再生可能エネルギーの問題は、単なる技術的問題に矮小化すべきではなく、実はこの国のあり方そのものに関わる根幹的問題なのです。この問題、産業界全体、国民全体でもう少し真剣に考えてみる必要があります。

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