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コラム連載 コネクト・アンド・マネージ

コネクト・アンド・マネージ

2017年11月16日 内藤克彦 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 コネクト・アンド・マネージの議論が本格的に始まったことは意義深いことであると思う。これを契機として我が国のグリッド・キャパシティ管理も欧米並みに効率化することを期待したい。しかしながら、コネクト・アンド・マネージと一言で言っても内容は千差万別ではないかと思う。

 再エネ関係者の中には、コネクト・アンド・マネージという言葉に踊らされて、これで全て解決するように思っている人も多いように見受けるが、例えば、「電力会社の指定の接続点に取りあえず接続はさせるが、問題があれば後は無制限の出力抑制で対応させる」というのもコネクト・アンド・マネージの一つかも知れず、この場合は、現状は余り改善されないことになる。コネクト・アンド・マネージと言ってもその内容は、「どのように接続させるか」という問題と「接続した後どのようにグリッド・キャパシティ管理を行うか」の二つの問題に分けることができるのではなかろうか。

 最初に「どのように接続させるか」については、欧米では、どのような制度になっているのであろうか。既にこのコラムの読者であればご承知の通り、EU指令やドイツのEEG(再生可能エネルギー法)では、「グリッド・キャパシティの欠如を持って接続拒否してはならない」旨が法定されている。これは字義どおり「コネクト・アンド・マネージ」そのものであるが、単に接続させれば良いという規定とはなっていない。EU指令においてもドイツEEGにおいても、単に接続するというのではなく、どのように接続するかということが、きちんと規定されている。

 ドイツのEEGの例では、「再エネ発電施設をグリッドの電圧及び最短距離の観点から最適の点において接続しなければならない」ことが法定されている。我が国の場合、直近の配電用変電所ではなく遠方のより高圧の変電所への接続を指示されるケースがあるという話を聞くことがあるが、この場合は、再エネ事業者は長い接続線を引きかつ高圧への変電設備を自前で設ける必要がある。これらのコストが高いと立地を断念することになる。ドイツではこのようなことは法律上禁止されているわけである。

 洋上風力のような数十万kWクラスの再エネ発電を除くと多くの再エネ発電は、配電線レベルの電圧で直近の配電線に接続するのが経済規模から相応しい接続となる。このような接続を欧州では法律によって保証しているわけである。このようにどのようにコネクトさせるかも重要なファクターである。
 この場合に、例えば、再エネ接続される最寄りの配電用変電所のキャパシティが不足している場合はどうするのか。欧米の場合、まずグリッド・混雑・キャパシティ管理の合理化を行い、次に、キャパシティの増強を考えるということが行われている。

 変電所に接続された再エネの電力は、当該変電所に繋がる需要でまず吸収され、需要量を超える場合は、当該変電所から上位系統に逆潮して広域需要で吸収させることになる。ドイツでは電力会社の境界を越えて全国ベース、国際間で需要・供給のマッチングが行えるように全ての変電施設は、上下双方向で機能するように改善されている。

 次に、変電所等のキャパシティ不足で上位系統に上げられないということが、我が国では発生するようであるが、ここで問題となるのが、キャパシティ管理の方法である。我が国では、恐らく最悪のケースとして、最小の需要で最大の再エネ発電が重なった場合の逆潮電力とグリッド・キャパシティを比較しているのではないかと想像されるが、欧米では、このような方法は取らない。

 需給の状況はリアルタイムで常に流動的に変化しているので、常に需要最小と全ての発電最大が重なっているわけではない。また、実潮流は指定されたルートに限定されて流れるわけでもない。欧米では、このようなリアルタイムの実潮流の計算を全ての時間区分で行うことにより、キャパシティの判断を行っている。この「フローベース」の計算は、例えば、欧州では、前日市場の閉場後に欧州全体で毎日行われ、当日市場の成約に応じて逐次微修正される形で実施されている。

 したがって、我が国のように何か月も前から「変電所のキャパシティはゼロ」などという事は意味をなさない。空キャパシティの公表値は、時々刻々と変化しているからである。欧州においても出力抑制や再給電指令による調整は行われるが、このようなリアルタイムのキャパシティ管理の中では、キャパシティの限界に達する瞬間があったとしても、一般的に大きなシェアを占めることはない。

 需給の相対契約で一定のキャパシティを継続的に占有するような場合でも、実際の潮流に基づいてキャパシティは割り当てられるので、例えば、計画上は送電することになっているが実際には送電が行われなかったとすると、その分はTSOに対する計画値違反として全てインバランス・ペナルティの対象となる。したがって、いわゆる「空抑え」という現象は発生しない。

 このような「フローベース」によるキャパシティ管理の合理化を徹底したうえで、更に、キャパシティ不足の場合に、グリッドの増強を検討することになる。我が国においては、配電グリッドへの再エネ接続に伴うグリッドの増強経費は、再エネ側に「付け回し」することが行われているが、ドイツではグリッド側に負担させることとしている。グリッドの増強をどのようにすれば最も経済効率的になるのかは、専門家たるグリッド側が熟知しているが、「付け回し」では経済合理性は逆ベクトルで働くことになり、社会全体での経費は増加することになる。グリッド側が負担することで最も経済合理的な増強が実現することになる。また、グリッド増強は、グリッド所有者の資産の改善であり、グリッド所有者の負担となるのは当然という考え方も根底にはあるであろう。その代りに、グリッド増強経費は、グリッドタリフで十分に手当てすることにより、グリッド整備のインセンティブを与えるということが欧州では行われている。

 なお、グリット増強、再給電のどちらの手段を取るかについては、欧州においても様々な議論が行われているようであるが、再エネの出力抑制については、EU指令等において、恐らく再エネ普及の経済基盤を守るという観点から、数%以内という上限値が定められている。さらに出力抑制については金銭補償すべきことが法定されている。

 以上に述べたように、コネクト・アンド・マネージは、単に「接続すれば良い」という問題ではなく、「どのようにグリッド管理するか」というグリッド・オペレーションの問題であるということをここで改めて注意喚起しておきたい。

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