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コラム連載 今こそ、“規制”影響分析(RIA)の実質的、機敏な展開を!

今こそ、“規制”影響分析(RIA)の実質的、機敏な展開を!

2017年11月24日 加藤修一 京都大学大学院経済学研究科特任教授

規制影響分析(RIA)の意義 - Regulatory Impact Analysis
 電力システム改革は、規制の緩和・強化そのものである。再生可能エネルギーの導入についても種々の規制がある。規制に関係する法律案の国会提出には、事前にRIAを行ない開示しなければならない。法的義務である。日本の各省は、規制影響分析に関する「政策評価実施要領」を定めている。例えば経済産業省は、「規制の新設・改廃を行う際、想定される影響(費用や便益)を客観的に評価・公表し、規制の政策決定過程における客観性と透明性の向上」と記している。RIA では規制政策の最適選択のための定量・定性分析、特に定量分析が中心的な課題となっており、費用便益分析がその中心的な技法と位置づけられている。しかも義務化以前の初期のガイドラインとは異なり、定量的評価を駆使し政策決定の客観性と透明性を高め、規制の質を向上させることが求められる。言うまでもなく、「規制」とは、国民の権利を制限し、又はこれに義務を課する作用(租税、裁判手続、補助金の交付の申請手続その他を除く)を意味する。

法的に義務化されたRIAであるが、・・・
 2007年10月に「行政機関が行う政策の評価に関する法律施行令(平成13年政令第323号)」の一部改正によって、規制の事前評価は、法律又は政令における規制の新設又は改廃に係る「規制の事前評価」の実施が義務化された。一方、義務化の対象外となる省令、命令、通知等についても、規制の事前評価の積極的な実施が求められており、省令等において「規制」を行うことを検討している場合は、政令と同様にRIAに努めるものとし、「法令等 規制の事前評価実施予定表」に登録と登録報告の努力規定がある。政令は内閣が発する命令で法律の委任を受けた「施行令」であり、省令は大臣が発する命令で法律の委任を受けた「施行規則」である。両者は法律の委任を受けており、広い意味では法律と同等である。しかしRIAの実行は政令/省令によって大きく異なる。例えば、太陽光や風力発電等は出力制御の要請に無制限・無補償で応じなければならないルール(規制)が定められたが、これは「再エネ特措法施行規則の一部を改正する省令」(2015年1月)である。RIAの義務はない。今日、電力改革のなかで規制が緩和・廃止、新規制が生まれるなかでのRIA義務は重要である。更に規制の事後評価は「政策評価法」の法律に基づいた「政策評価に関する基本方針」の修正(閣議決定)によって、義務化された(2017年10月)。

気になる省令の使い方―法改正の余地はないのか?
 2005年~2020年間にバックエンド費用が託送料金に加算され電気料金として国民は負担を強いられている。更に過去分を含めた賠償費用や事故処理費用など総計2.4兆円が託送料金に加算され2020年から40年間にわたり、国民は電気料金の一部として負担を強いられる。これは省令改正による。この様な大規模な国民への負担義務は関係法の改正について、国会で十分議論し国民の理解を得ることが合理的である。省令で行われたことに不自然さを感じる。しかもRIAの対象外である。

OECD勧告と競争評価ツールキット
 OECDは、1995年、2008年、2012年などとRIA導入勧告を続けてきた。日本はRIA導入の閣議決定を行った(2007年)が、既に後発国である(図-1)。OECDは、RIAを進めるにあたり、合理的である成案が競争に与える影響を事前評価するためのツールを策定した(2007年)。これは、政府・行政の規制立案者のためのガイダンス等を含めたものであり、評価手法を取りまとめた競争評価ツールキット(Ver1.0)を策定し、Ver2.0(2010年)、Ver3.0(2015年)と改善した(図-2)。この様にRIAを行う条件整備は進んでいるが、詳細な競争評価は、特に具体的に示すことが求められる。何よりも日本の省庁にはエコノミストの存在が薄いといわれることからも、「例示」の多用による理解促進、「評価様式」の整備による実務負担の軽減などになった。OECDの「競争評価に関する理事会勧告」(2009年10月)の採択は、各国のRIAにおける“競争評価”の導入等を目的としている。また加盟国に対して競争を必要以上に制限する公共政策の特定と改善、そのための制度の整備を促している。2016年には、「規制産業における構造的分離に関する理事会勧告(2001年)」の改正が承認された。これによって、構造的分離を考えるべき対象が、伝統的な規制産業であるネットワーク産業(電力、通信等)に加えて、その他の産業の構造的分離も明確化された。これらの勧告は、日本にとっては改革を進めるチャンスであるに違いないが、日本は積極的な姿勢が期待されたが、RIA実施の改善は進まず評価を損ねている。

図-1 RIA導入後発国の日本 図-2 競争評価ツールキット

40年に迫る欧米のRIA実践史 - スタート時から重視された定量分析
 そもそも、RIAに関しては、既に1980年頃からアメリカ、英国等で実施され始め、40年近くの歴史があり、現在ではOECD加盟国で実施されている政策評価手法である。できるだけ定量分析を行い、どのように客観的分析を行うか、多くの実証的研究がなされてきた。特に英国の取り組みは高い評価を受けている。英国は、規制の目的を明確にし、実現に向けたオプションを特定し、オプション別に可能な限り費用便益分析、費用効果分析等を行い、RIAを完結させるが、その前段階のコンサルテーションを通じて、広く国民から意見を集め政策決定過程に国民等を参加させることを重要視している。別の言い方をすると、パブリック・ガバナンスの観点から政府・行政の改革を促進し、行政の“あらゆる過程”において透明性、説明責任、一貫性を確保することにある。従って、政策の経済的・社会的・環境的影響を客観的に評価し、より良い政策を実現するツールとなっている。英国は、1998 年、ブレア首相により、企業等に影響を及ぼす規制を伴う新政策の提案等にあたっては、必ずRIA を行うことを表明し、毎年150程度のRIAが行われた。英国内閣府および各省にはRIA 担当部局が置かれ、RIA 実施国のなかで最も先進的な取り組みを行ってきた。一方、後発国・日本は、政府組織と仕組みの改善に基づくRIA実施の強化・拡充が求められている。

総合スコアー方式によるRIAの実施評価
 OECDによるRIAの実施による評価は、4指標に(1)監視・品質管理、(2)透明性、(3)システムの採択、(4)方法論を選定し合成指標で4分野をカバーしている(OECD REGULATORY POLICY OUTLOOK 2015)。総合スコアーの最大値は、4.0である。
■RIA実施国の評価(法律) 
 日本はOECDの平均より低く、1.5未満(4.0に対して35%の位置)であり、OECD諸国の中で第29位と非常に劣っている。

図-3 RIA実施国の評価(法律分野) ・・・ 日本は低評価の29位

■RIA実施国の評価(下位法令)
 日本はOECDの平均以下であり、1.4程度(4.0に対して35%の位置)である。日本の評価は低い。電力改革を世界に先駆けた英国(UK)が首位である。日本は著しい遅れである。OECDは、既にネットワーク産業に対する構造的分離の理事会勧告(2001年)を行って久しい。日本の電力自由化は現在進行中であるが、全体としての規制状況の把握に向けて、4指標やOECDの「2014 Regulatory Indicators Survey results」を含めて、評価が低い理由を精査し対応すべきである。

図-4  RIA実施国の評価(下位法令) ・・・ 日本は低評価の25位

日本におけるRIAの問題点
 「規制影響分析入門」の著作のある山本哲三は、「毎年100件前後のRIAが、法律・政令・省令の各レベルでなされているが、ほとんどが定性分析であり、費用便益(費用対効果)分析は全体の1割に満たない。日本の各省のRIA を読むかぎり、定量化への道は遠い」と歴然とする遅れを指摘している。先進各国の実例をみると、RIA の定量分析は、初期の英国のRIAは初期段階にもかかわらず定量化に腐心している。英国は、RIAの見直しに際して特に定量分析を議題としてきた。欧米のガイドラインでは便益/費用の比較や純便益の評価において、数値化や貨幣価値換算は「できる限り最大限に」行うことの重要性を指摘している。日本がRIA の定性分析に終始することは、科学的な規制行政という観点から許されることではない。日本の初期のガイドラインを見ると「定量分析にとらわれない幅広い影響・便益の整理」(下線は筆者)とある。日本の定量分析が後ろ向きである理由の一つはここに根差しているともいえるだろう。英国のRIA事例研究は、より良き展開を行う上で不可欠であることを肝に命ずるべきではないだろうか。このような地道な積み重ねが政府の機能向上と信頼感を増すことにもなるが、事態は機敏な展開を要求している。

電力システム改革こそ、精緻なRIAの対象!
 日本のRIAは課題が少なくない。電力システム改革こそ、直接・間接に多くの規制が関わっている。「発送電分離の4類型のメリットとデメリットについて」は、電力システム改革専門委員会(第4回、平成24年4月25日)に提出された政府資料である。これは、法的分離などの4類型を示し具体的な5論点(広域運用や送配電システム移行費用など)を提示している。最終的に法改正により「法的分離」の導入が決定した。規制に関する論点が多いにもかかわらず、(私の不勉強でしょうが)RIAに基づいた総合的に“精緻な定量分析”を行った形跡は、現在のところ見当たらないようである。

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