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コラム連載 COP23、米国抜きで本格削減時代へ突入/ひろがる「脱石炭運動」

COP23、米国抜きで本格削減時代へ突入/ひろがる「脱石炭運動」

2017年11月30日 竹内敬二 エネルギー戦略研究所 シニアフェロー

 11月18日までドイツ・ボンで国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP23)が開かれ、国際的枠組み「パリ協定」の運用ルールの交渉加速などに合意した。米国のトランプ政権にとっては、6月の協定脱退宣言後、初のCOPだったが、米国の態度を見る限り、「米国は当面協定には戻らない」ことがはっきりした。米国の脱退によるマイナスの影響も大きいが、一方で、温暖化対策の新しい時代がいよいよ始まるという節目感の強い会議になった。その新時代のキーワードは「米国抜き」「脱石炭」「大幅削減」だ。

表1 地球温暖化対策の最近の経緯

《京都議定書に続く「米国抜き」》
 COP23で最大の注目点は米国だった。2年前の「パリ協定採択」では、協定成立に中心的な役割を果たした中国と米国がそろって拍手を受けた。「温暖化対策にやっと主要国がそろった」と世界を喜ばせたが、トランプ政権はいとも簡単に、協定を脱退した。米国は京都議定書にも加わらなかったので、結局、同じ形で新たな温暖化対策の時代に入る。

 そのトランプ政権はCOP23で、「高効率な化石燃料と原発利用」という挑戦的ともいえるテーマで関連イベントを主催した。そこには環境NGOらが押し寄せ、大声で批判し、会議がしらばく中断する騒ぎになった。最悪の「歓迎」だった。米国が早晩、パリ協定に戻るような雰囲気はないことが分かった。米国はパリ協定の親条約・気候変動枠組み条約のメンバーなのでCOPに参加できる。米国はCOP23で、交渉担当者を大きく格下げし、「やる気のなさ」を印象付けた。

 「米国抜き」の影響は大きいが、「米国抜きでも前へ進もう」という動きが強かったのもCOP23の特徴だ。米国内では15の州政府、多数の企業、自治体がパリ協定を守る運動を広げている。不確実なのは今後の中国の振る舞いだ。米国が抜けた中で、世界のリーダーとして世界の温暖化対策を牽引するかどうか。

 2001年、米国が京都議定書を離脱したとき、日本では米国に追随して「日本も議定書の批准をやめよう」という運動が政府部内や経済界で進んだ。ただ「京都議定書を守れ」の声も強く、かろうじて「日本も京都議定書脱退」という面目丸つぶれの事態には至らなかった。温暖化対策で日本はつねに米国の後を追う。今回は追随しないよう、日本の政策を監視しなければならない。

COP23の会場の外に設けられた「We Are Still In」(我々はパリ協定にとどまる)という運動のパビリオン
COP23の会場の外に設けられた「We Are Still In」(我々はパリ協定にとどまる)という運動のパビリオン。写真で演説しているのは、ジェリー・ブラウン米カリフォルニア州知事。(ドイツ、ボンで。提供写真)

《促進的対話でルールを決める》
 COP23の交渉では、いくつかの小さな前進があった。パリ協定の運用ルールは多くがまだ未決定だ。今回の会議で、あまり整理できていない約60項目を盛り込んだ文書を採択した。これを土台として来年の早い時期に議論し、来年末にポーランドで開くCOP24で採択をめざす。

 現在、各国が計画している対策を合わせても、パリ協定がめざす「温度上昇を2度未満に抑える」はとても無理だ。そこで削減の上積みを狙っての促進的対話(タラノア対話)など新たな試みを始めることになった。

 一方、途上国への資金援助は、米国の脱退で事態が深刻化する。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)への米国の拠出分についてはフランスが肩代わりを申し出たが、額が大きい途上国への資金援助については問題が解決していない。これが途上国の不満を生み、「先進国は約束を果たしていない」という従来型の「南北対立」を激化させる可能性もある。

表2 COP23の主な合意内容

《脱石炭 「高効率」使用ではなく使用をやめる》
 COP23の開催中、英国とカナダが「脱石炭火力発電同盟」を呼びかけたところ、会場に入れないほどの人が詰めかけた。この両国やフランス、オランダ、ベルギーなど20の国と、米オレゴン州やカナダ・ケベック州など7つの州政府が「石炭火力をやめる」と宣言した。

 「脱石炭」の運動が今年、大きく広がった。CO2を一気に削減するには、化石燃料使用の劇的な削減が必要だ。「石炭の高効率利用」ではせいぜい10~20%の節約にしかならないので、「使用そのものを減らそう」という運動だ。背景には、風力や太陽光発電の発電コストがどんどん安くなっていることがある。

 「使用自体を一気に減らす」という考えは、今年のもう一つのブーム、「車を電気自動車(EV)に一気に転換しよう」にもつながる。今年、英国、フランスが「将来は内燃機関(エンジン)の車の販売を禁止」というあっと驚く方針を出した。ドイツの連邦参議院も昨年、同様の決議をしている。中国も急速にEVへの切り替えを言い始めた。

 今や世界の石油需要の3分の2が車・運輸部門だ。エンジン車の燃費をいくらあげても10~20%しか変わらず、車の増加には太刀打ちできない。しかし、EVにすれば、その電気がたとえ化石燃料でつくられたとしても、化石燃料の消費は2分の1から3分の1になる。自然エネで発電すれば、CO2削減はいっそう劇的に進む。

 石炭火力といえば日本が有名だ。日本は、約40基の石炭火力の建設計画をもつ国として知られ、これがCOP23でも集中的に批判された。日本の石炭火力重視は米国の化石燃料重視の政策と似ている。

《大幅削減時代への突入》
 パリ協定では「21世紀の終わりごろCO2の実質排出をゼロにする」ことを目指している。ゼロというのは「排出した分だけ何かで吸収する」ことを意味する。日本でさえ「2050年までに80%削減」を掲げている。少し前ならば冗談にも聞こえる大幅削減だが、いまでは多くの人や国が本格的にめざそうとしている。

 いま世界のCO2排出は、多くの先進国で下降に転じ、世界ではほぼ横ばいになっている。温暖化対策の「武器」といえる風力発電や太陽光発電は伸び続けている。先進国では電力、エネルギー需要も伸びない。CO2排出は今が峠で、これから本格的な削減の入り口にいるともいえる。「脱石炭」や「EV化」、「省エネ」が広がれば、今後一気に下がり始めることもありうる。そういう雰囲気がでてきたのもCOP23の特徴だ。

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