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コラム連載 自然エネルギー業界が、送電線運用と導入可能量の見直しを要望

自然エネルギー業界が、送電線運用と導入可能量の見直しを要望

2018年1月18日 竹内敬二 エネルギー戦略研究所株式会社 シニアフェロー

 日本の自然(再生可能)エネルギーの導入がうまく進んでいない。さまざまな原因があるが、「送電線に空き容量がないこと」が大きな問題として浮上してきた。太陽光や風力といった事業者団体が、送電線運用と自然エネ・導入可能量の見直しを求め始めた。資源エネルギー庁はどう答えるか?

《風力協会、入札実施の延期を要請》
 日本風力発電協会と風力発電推進市町村全国協議会は、昨年12月22日、合同で、資源エネルギー庁に、「電源接続案件募集プロセスについて」という要望書を提出した。

 内容は「現在実施中の2件の募集プロセスについては、全体スケジュールを1年程度延長し、募集内容の見直しをして欲しい」というもの。

 現在、北海道と東北北部で、国の指導のもとで、自然エネルギー発電所をつくる権利を入札で決める「募集プロセス」が進んでいる。

 東北北部は、青森県、秋田県、岩手県、宮城県の一部。昨年行われた第一段階の募集では、280万kWの募集枠に対して1545万kWの応募が押し寄せた。うち半分の786万kWが、日本ではほとんどない洋上風力での申し込みという点が目を引く。陸上風力も446万kW、太陽光は165万kW。その後、東北電力は350〜450万kW程度は可能と表明している。

 北海道では新設する風力発電所に、通常の接続費のほか、蓄電池を設置(設置費用の95%を事業者が負担)することで、100万kWの風力を募集している。第1期として昨年、60万kWの枠で募集したところ、250万kWの応募があった。第2期として40万kWの募集を考えている。

 これらは今年2月にも入札が行われる予定だが、風力発電協会はそれを「待って欲しい」と要望した。理由は、接続(導入)可能量などがまだ流動的で、近い将来に拡大するからだ。

《コネクト&マネージに期待》
 日本では、送電線が空いているか、満杯かは、その送電線周辺のすべての発電所がフル運転(定格出力で運転)していると仮定して考える。そして1年のうち、1時間でも計算上で「満杯=混雑」となれば、もう新規の電源は接続できないと考える。既存の発電事業者には送電線使用の完全な既得権が与えられる一方、新規事業者に大きな負担を強いるルールといえる。

 「すべての発電所がフル運転」とは、過剰な仮定だ。日本では今、いたるところで「満杯で自然エネはもう入らない」と言われる。しかし、実際の電気の流れ(実潮流)でみると、ほとんどの時間は「ガラガラ」という状況になっていることが、最近、研究で指摘され始めた。欧州や米国では実潮流で送電線の混雑をみるので、こんなことは起こらない。

 実は、いま日本ではOCCTO(電力広域的運営推進機関)の下で、送電線の運用方法を欧州などで採用されている「コネクト&マネージ」に近づける議論が行われている。コネクト&マネージは、新規の発電所は基本的にすべて接続し、送電線が混雑する場合には、一部電源の出力制御などの運用で対処する方式だ。既存系統の能力を最大限利用するものといえる。前提は、実潮流で送電線の混雑状況を考えることだ。

 この結果によって、導入可能量も接続費用も大きくかわる。風力発電協会の要望書は次のように書いている。
日本版コネクト&マネージの議論のかなめは、系統運営の基本的な考え方(従前の、単純に各電源の最大出力をベースとして系統増強の必要性を判断する考え方)や系統運用ルールを大きく転換し、既存系統設備を最大限に活用して、系統の増強は真に必要な内容に限定することで、再生可能エネルギーを含む新規電源の系統接続を実現し、併せて国民負担の抑制を両立させることにある

 したがって、新しい「日本版コネクト&マネージ」のやり方がはっきり決まった後で、入札をして欲しいと求めているのである。導入可能量などが変わるのだから、当然だろう。

《入札なりたたず、太陽光発電業界も焦り》
 2012年のFIT(固定価格買い取り制度)スタート以降、太陽光発電は大きく増えた。この仕組みがスタートしたのは2012年。この間、「増えたのは太陽光発電だけ」と言われるほど太陽光発電は増えた。しかし、最近はやはり「空き容量の壁」にぶち当たっている。

再生可能エネルギーによる設備容量の推移
(出典)資源エネルギー庁

 資源エネルギー庁は昨年11月、全国で50万kWの枠を用意して、入札方式で太陽光発電所の新規建設を募った。入札で買い取り価格を下げながら、新規導入を順調に増やし続けることが目的だった。

 しかし、異常なことが起きた。入札する事業者が少なく、たった14万kWしか落札・成立しなかったのだ。さらに翌12月末までに、落札者の中から辞退者が続き、結局4万kW分しか残らなかったのである。

 理由は、落札しても送電線に接続できないのである。地元の電力会社から「送電線が満杯で接続できない」といわれれば、どうしようもない。

《送電線増強の負担も公平に》
 太陽光業界も焦り始めた。昨年12月8日、太陽光発電協会は、記者を集めて、「系統制約の解消並びに送配電網の費用負担の在り方」について説明し、業界の考えを主張した。実質的な国への要望である。

 まず、系統制約は大きく分けて2種類あると説明している。
(1)
ローカル系統の制約。末端の送電線の容量が不足し、新規の自然エネ発電所が送電線につなげない状況。
(2)
エリア全体の系統制約。全体の需給バランス(周波数維持)のために自然エネ発電所の出力が抑制される状況。


 そして協会は、主に(1)の解決策として以下の提案をしている。
「コネクト&マネージ」の考え方を歓迎し、その仕組みの一刻も早い導入を希望する。導入後、増強工事が系統制約解消の合理的手段であると判断される場合、基幹系統の一部を除き原則として新規電源が増強工事の費用を負担する現行ルールを見直し、一般負担を原則とするべき

 風力と太陽光、2つの事業者団体は同じことをいっている。キーワードは「実潮流」と「コネクト&マネージ」だ。資源エネルギー庁は「日本版コネクト&マネージ」をつくろうとしている。「日本版」という余分な形容詞がついているところに躊躇が見えるが、それでも、導入可能量は増え、送電線増強費用は減ると期待されている。どうなるか。

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