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コラム連載 再生可能エネルギー事業の収支モデルについて

再生可能エネルギー事業の収支モデルについて

2018年1月25日 坂東信介 日本政策投資銀行

 日本政策投資銀行では、2008年の株式会社化以降、投融資一体の金融サービスを推進しており、再生可能エネルギーのプロジェクトに対し、融資だけでなく、出資という形でも関与している。いずれの場合も論点となるのは、収支をどのように見るかという点であり、日射量や風況から予測される収入、建設コスト、運転開始後に必要となるメンテナンス、保険などの諸費用を織り込んで、長期(ほとんどの場合はFIT期間中)の収支予測を行うことになる。そのうえで、融資の場合は、貸し付けた資金の償還確実性を、出資の場合は、出資金の期待利回りを見て、出融資の可否を判定している。

 売電単価などは契約で決まっており、そのまま収支モデルに投入するのだが、いくつかの数値は、収支モデルを作成あるいは査定を行う組織それぞれの方針や見方に基づいて設定方法が決まっていたり、コンサルタントや共同事業者と相談のうえ、プロジェクト毎に相応しい数値を設定したりと、それぞれの主体で議論し見直しながら、時には手探りで決めて、事業期間中の収支を予測しているのが現状ではないか。今回は、そのいくつかを紹介してみたい。

 まずは「設備の劣化率」がある。例えば太陽光の場合、パネルメーカーの性能保証が付く場合もあるが、保証値で収入を予測すると、かなり保守的になってしまうため、収支モデルに採用している例は見たことがなく、筆者が関係者と意見交換する中では、1年当りの劣化率を0.3%という人もいるし、0.6%~0.7%と堅実に見込む人もいる。0.5%くらいが多数派だろうか。20年間の太陽光発電の稼働実績も多くなく、技術も日進月歩で、採用するメーカーにも左右されるので、高い人にも低い人にもそれぞれに分があるように思えてしまう。

 次に「設備の撤去費用」だ。自らの保有地だし、FITの期間が終了しても、市場価格で売電を続けるので見込まないという考え方もあるかもしれないが、借りている土地であれば、FIT期間は20年、民法上の賃借期間も20年で終わるので、その時点での撤去費用を見込んでおきたい。では、その時点の撤去費用はいくらかと問われると、これが難しい。調達価格等算定委員会で建設費の5%としているので、これを目安にしている例が多いと思われるが、20年先であり、実際の撤去事例にも乏しいので、何とも悩ましいところである。いずれにせよ単価40円/kWhの太陽光プロジェクトの売電期間が終了する頃には、廃棄のメカニズムも整っているものと思われ、動向を見ながら収支モデルを適宜見直していく必要があろう。(太陽光パネルのリサイクル処理については、社会的な意義もあり、大きなビジネスチャンスになるのではないかと思ったりもする。)

 最近では、発電量が送電系統側の受入可能量を上回った際の「出力抑制の影響」も論点となる。FIT導入当初はそれほど議論にならなかったが、北海道や九州など、再エネ導入が進んだ地域では徐々に出力抑制の対象となる発電所も出てくるのかもしれない。融資の場合は、30日等の無補償の出力抑制期間の上限までストレスを見込んで、それでも償還可能という結論もあるが、ベースケースをどのように見るかは、各組織で判断が分かれるところであろう。また、最近では、所謂「無補償無制限案件」と呼ばれる、無補償の出力抑制に30日等の上限のないプロジェクトも増えており、立地地域の電力需要や原発の再稼働時期の見通しを置いたうえで、コンサルタントにお願いして、予想される抑制率を算出してもらったりしている。バイオマス発電所だと、多くの場合、太陽光や風力よりも先に抑制されてしまうルールなので、出力抑制の影響は、より慎重に検討することになる。

 そのほかにも、「除草費用」など、迷う数値はいくつかあり、加えて、我々が投資をしている発電所では、熊本地震の影響で暫く発電が止まったし、他の発電所でも落雷や高潮の被害もあった。細かいところでは、ネズミに送電ケーブルをかじられたという損害も経験した。2012年7月のFIT制度開始から5年以上が経過する中、実際に建設して、運営してみて、得られた知見やノウハウを適宜収支モデルに反映し、それぞれの組織で試行錯誤しているというのが実態ではないか。考え出すときりがないが、驚いたり、悩んだりしながら、再エネ事業の収支をいかに見るか、日々学んでいるところである。

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