1. HOME
  2.  > コラム連載 廃炉費用等負担問題の本質 -政府の信用を維持するために-

コラム連載 廃炉費用等負担問題の本質 -政府の信用を維持するために-

廃炉費用等負担問題の本質 -政府の信用を維持するために-

2016年11月24日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

【福島事故関連費用と通常費用】
 原子力発電に係る費用負担の問題が年末にかけての最大の焦点になった。複数の委員会等で議論されているが、例によって分りにくい。福島事故に係る補償、中間貯蔵施設、廃炉(メルトダウン処理)に係る費用は、いずれも当初想定額を大幅に上回る。また、福島以外の廃炉費用も評価額を大幅に上回る。誰がどのような形で負担するのかが議論の焦点だ。現状は、原発設備所有者が電気料金にて回収する。これを、新電力を含む利用者が託送料金にて負担する形に変えようとしている。なお、本稿では、旧東電関連の会社を「東電」と記述する。

【福島関連費用増と負担者】
 福島第一発電所の事故に伴う負担が増大している。東電救済スキームとして法的に整備された「原子力損害賠償支援機構」による国債等を利用したファイナンス・スキーム、電事連が試算した負担見通しを前提に整理すると、以下のような処理になる。地元補償金は当初予定の5.4兆円から8兆円へ増えるが、これは東電と他の電力会社が負担する。放射性物質を中間的に貯蔵する施設に係る費用は2.5兆円から7兆円へ増えるが、これは国が所有する東電株式売却益を当てる。メルドダウンした発電設備を含む廃炉費用は、年間800億円から年間数千億円に増えるが、東電が負担する。

 東電は、責任を取るために、大胆(非連続的)な改革を実行し、大規模な経費節減を行うことで生じる収益で長期間に分り負担を返済していく。その計画の前提として、新潟の柏崎刈羽発電所の再稼働による収益を織り込んでいる。ところが、先の新潟県知事選にて、再稼働慎重派の候補者が当選し、近い将来の再稼働は不可能になり、東電負担論の前提が大きく揺らいでいる。負担増の具体的な数字が表に出るようになったのは、その直後からである。「新電力にも負担」という表現にて、全ての電力消費者が負担する方向性が垣間見えるようになる。なお、新潟の再稼働如何に拘らず、東電だけの負担で乗り切れるかは、疑問がもたれていた。

【原発廃炉費用の増加と負担者問題】
 東電だけではなく、廃炉費用全般が当初評価よりも大幅に増えることも明らかになり、原発費用負担全般の議論に拡大する。これは、小委員会やワーキンググループ(WG)レベルの議論ではないだろう。検討の場は「電力システム改革貫徹のための政策委員会」の下に設置され財務会計WGであるが、経緯のある根の深い問題であり、この場がいいのか疑問である。なお、東電と福島原発に関しては、「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)にて議論されている。

 9月以降生じたこの話は、このように複数の委員会等にて議論されているが、東電と他社、福島事故と原発一般事項が混合し、分りにくくなっている。原発全体の話として、廃炉費用を考えてみる。膨らむと予想されていたが、実際海外では大幅増となっている。廃炉費用には発電設備の残存簿価、解体処理に要する費用の2種類があるが、どちらも増加する。稼働年数が想定よりも短くなる、解体処理費用が想定よりも大幅に増える等の事態が生じる。日本では、まだ前者の議論だが、後者も確実に議論になる。廃炉費用の評価は、他の原子力関連費用と同様に、官民で検討された。原子力発電では、特別の会計制度が法令で定められている。廃炉費用過少評価の責任は官民双方にある。

【国策民営事業の責任所在】
 原子力発電事業者は、高くなる費用を発電コストに乗せることで、責任を取るべきだ。その電気を買うかどうかは市場が決める。卸市場、相対、常時バックアップ等で原子力由来電力を購入した事業者と顧客が、購入した分だけ負担をする。一方、政府案は送配電線使用料金にて「新電力も負担」とするものである。この託送料金に紛れさせる方法は、原発電力の利用度合いに拘らず、使用電力量全体に掛かる。これでは、原子力事業者は責任を取ったことにならない。

 一方、官の責任はどうなるのか。安いとされていた原子力は実は高かったということで、エネルギ-政策の前提が崩れる。基本計画や長期見通しを迅速に見直す必要がある。政策の責任は政策でとるしかない。廃炉を例に取ったが、「バスタブカーブ」と称されるように、原発は最初と最後のコストが高い。アイゼンハワー大統領の1953年「アトムズフォアピース」スピーチから64年、初期の原子力発電が廃炉の時期を迎えるなか、最後の上昇カーブが現実となり、想定以上の急勾配を示してきている。

 原子力発電事業は「国策民営」と言われるが、責任の取り方を誤ると、国家的なモラルハザードを招くことになる。それ以上に、政府を国民や企業が信用しなくなったら、政策が機能しなくなる。政府の(政策の)総括が不可欠である。いずれにしても廃炉負担を託送料金にて徴収するのは、極めて問題が大きい。

このページの先頭に戻る