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コラム連載 回転系vsインバータ系

回転系vsインバータ系

2018年3月8日 内藤克彦 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 今回のコラムは、少し根源的な問題意識を提起してみようと思う。

 我が国では、デマンドレスポンスの議論が官学民で盛んに行われているが、そのニーズの主たる理由として系統周波数維持のために必要であるという議論がある。テスラの交流による給電が世の中の主流となるに従い、100年以上の間、周波数の維持・安定化は、発電機の物理的な慣性に依存してきた。

 電力需要が増え、発電機に懸かる負荷が増えると発電機の回転は遅くなり、遅くならないように発電機に新たな回転エネルギーを外から注入しなければならなくなる。逆に負荷が減ると、発電機は空回りするように回転数が上がるので、回転数維持のためにはエネルギーの注入を減らさなければならない。これは単純な物理法則である。巨大な電力用の発電機は何トンもの重量があり、その慣性モーメントは巨大で、少しくらいの負荷変動では回転周波数は直ぐには変わらないところに着目して長い間周波数の安定化にこの慣性モーメントを利用してきたわけである。

 一方で戦後急速に発達した電子回路の世界では、周波数の維持は、発振回路の調整や水晶振動子等の基準振動数を用いて回路的になされ、力学的な慣性モーメントに頼らなくとも厳密に周波数管理がなされている。電子式の腕時計と同じである。

 太陽光発電や風力発電は、直流を交流に電力系統と同期するように人為的に成形し直して系統に流すように設計されているが、このような再エネのシェアが高まるに連れて、回転系の発電機のシェアが小さくなり、周波数の維持が難しくなると危惧する電力の専門家が多い。これは本当なのであろうか。

 テスラ以来の回転系依存方式は、需給の変動があると敏感に発電機にフィードバックされ、発電機回転数すなわち周波数の変動につながるので、発電機の手元で周波数管理するには好都合である。一方で、回転系に頼るから逆に需給の変動が周波数の変動として影響してしまうという見方もできる。回転系の場合は、需要の変動は電圧と周波数の両者の変動として現れることになる。インバータ系で電子的に周波数が調整されている場合には、需要の変動は電圧の変動になることはあっても、周波数の変動になることはない。インバータ系の場合の方が周波数の維持は容易ではないかという見方もある。

 そもそも周波数の維持とはどのような意味があるのであろうか。周波数の維持には、周波数自体を利用する利用者の便宜を図るという面と電力システムの安定度の維持の両面があると考えて良いであろう。テスラの時代から数十年程前までは、大電力機器の周波数制御は難しく、例えばモータの回転数を一定に保つのには電源の周波数に依存するのが効果的であった。

 また、現在の電力会社のシステムは、テスラの時代以来の発電機の回転力による周波数管理をしているために、発電機の制御範囲を超える過度の周波数の擾乱が発生すると発電機が自動的に解列する安全システムが組み込まれている。どこかで発電機が解列されると周波数の擾乱はさらに拡大され連鎖的な解列に繋がり、広域の停電につながる。つまり、現在の回転系依存型のシステムを「安定的に」維持するためには、電源周波数の大きな擾乱は発電側に取って「ご法度」であるということになる。

 しかしながら、時代の流れにしたがって、技術も大きく変わってきている。需要側について考えてみると、現在でも電源周波数に依存する機器を備える中小工場等があり、製品の品質管理の観点から電源周波数の緻密な管理は必要となるが、確かにそのような古いタイプの施設が残存していることも事実であろう。

 しかし、良く考えてみると厳密な周波数管理が必要な施設では、インバータ化により、より品質が向上し、恐らく省エネにもなると考えられる。技術は進化し大電流の電子的コントロールが可能となると、モータの回転数を精密にコントロールする必要がある場合には、むしろ、一度直流に直してインバータでコントロールする方が効果的となった。数十年前とは異なり、恐らく今日では、一部の老朽施設を除くと周波数の管理が必要なところではほとんどインバータ管理が投入されているのではないかと想像される。

 昨今では、回転系の無い電気製品はもとより、モータを利用する製品のほとんどは交流を直流に直し回転数制御を行っている。電源の周波数をそのまま利用して回転系を駆動するのは掃除機など多少周波数がずれても本質的な問題を生じない製品である。つまり、今日では、数十年前とは異なり、多数派が逆転しているのではないかと思われるのである。良く考えてみると例外的に残存している少数者の側の方を改善する方が社会的コストは少なくなると予想される。

 発電システムの安定化についてはどうであろうか。発電側が周波数の変動による発電機の解列を恐れるがために周波数の安定化を主張するとしたら、自らの回転系の安定化のために顧客や他電源に負担を掛けているということになる。

 つまり、テスラの時代から続いている回転系に依存する周波数の安定化システムの制御範囲の限界から発生する問題を他のグリッド参加者の負担の下に解決するというのは、他に解決手段がなかった時代や、ユーティリティ側の「上から目線」の時代には許容されていたということであろう。一方で、インバータ型の周波数制御は、負荷の変動でも周波数が影響を受けることはないので、周波数の変動による発電機の解列、停電を恐れる必要はない。

 今は、欧州のようにインバータ型の発電機が主力になりつつあるという時代である。虚心坦懐に見れば、100年前の発電機の慣性モーメントに頼るという古典的な方法から、例えばデジタルグリッドなどを用いた新しい周波数管理の方法を検討すべき時期にそろそろ来ているのではないかと思う。

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