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コラム連載 「需給調整市場」、全国の揚水発電所を有効利用できるか。

「需給調整市場」、全国の揚水発電所を有効利用できるか。

2018年3月29日 竹内敬二 エネルギー戦略研究所(株) シニアフェロー

 2020年の発送電分離を機に、日本でも電気の「需給調整市場」が生まれる。議論の遅れで、市場の開設は21年になる可能性も高いが、この市場がうまく機能すれば、再生エネルギー大量導入への後押しになる。とくに全国に点在する揚水発電所の有効利用に期待したい。原発の夜間発電の消費を主な目的としてつくられ、日本には計約2,600万kWもあるが、今はあまり利用されていない。

◇揚水発電は大きな調整力
 近年、春や秋の好天の日になると、各電力会社は、昼過ぎに増える太陽光発電による電気の扱いに頭を悩ませる。

 例えば、昨年4月23日の日曜日。九州電力管内では午後1時、電力需要790万kWに対して太陽光と風力発電の合計が505万kW(需要の64%)に上った。ほとんどが太陽光発電だった。

 火力発電の出力をできるだけ絞ったが、限界がある。絞れない原発も稼働中だった。このとき余剰電力を吸収したのが揚水発電だった。九電では午前中から水の汲み上げを始め、ピークの午後1時の汲み上げによる電力消費は、210万kW以上。九電の揚水能力(230万kW)の9割以上を使った。

 日照が弱まるにしたがって汲み上げを弱め、午後6時ごろからは、夕食時の電力需要増加に対応して、水を流下させての「発電」に切り替えた。太陽光による発電を見事に吸収した。

◇ΔkWを売買、「需給調整市場」がスタート
 こうした電力の需給調整は、今は各電力会社が行っている。1つの会社が発電所、送配電線、調整機能のすべてを持っているからできる。しかし、電力会社から送配電部門が分かれる発送電分離(法的分離)が実施された後の売買は、大きく変わる。

 電気は事前に、発電会社と小売り事業者によって、「卸売電力市場」で売買される。その取引は実際に電気が使われる(実需給)の1時間前に終わる。「ゲートクローズ」という。その後の1時間の細かい需要と供給をバランスさせるのは送電線会社だ。送電会社は発電所をもたないため、新設される「需給調整市場」(リアルタイム市場)から需給力を調達して行うことになる。

 電気は普通、卸売市場で「kWh」で売買されるが、 需給調整市場は「短時間で需給調整できる能力」を売買する。いわば「ΔkW」の機能だ。発電機のもつ「出力を早く上げる力」「出力をゆっくり下げる力」などの機能が商品になる。需給調整市場は、米国、英国、ドイツ、北欧諸国などにすでにある。

 (図参照=資源エネルギー庁。2020年以降の主な市場は「卸売市場」「需給調整市場」「容量市場」になる。後ろの2つは新設。容量市場は「国全体で必要となる供給力(kW)を維持するための市場」)

図 容量市場と需給調整市場との関係
図 容量市場と需給調整市場との関係

◇揚水発電所。大きな調整力と高いコスト
 調整力としてみれば揚水発電所の価値は高い。「発電や停止の切り替えが早い」「発電所であり、巨大な蓄電池でもある」が長所だ。

 しかし、電気を使って水をくみ上げるため、30%のエネルギーロスが発生し、単に発電所としてみた場合は運用コストが高い。弱点だ。

 揚水発電所は全国に41カ所、計約2,600万kW分がある。発送電分離後は、発電会社が揚水発電所を所有し、その調整力を市場に売りに出すことになる。発電会社の「稼ぎの一手段」になる。問題は、売れるかどうかだ。

 現在、電力広域的運営推進機関(OCCTO)などで、「需給調整市場」をどう設計するかの議論がつづいている。

◇調整力を広域で使う、連系線を使いやすく
 市場の仕組みで言えば、まず、調整力を広域的に使える制度にすべきだ。揚水発電所は全国41か所(計約2,600万kW)にある。揚水だけでなく、全国に散らばる「調整力」をだれもが、安くつかえるようにして欲しい。そのためには、今議論されている「全国で1つの市場」が望ましい。

 その市場を機能させるためには、連系線を簡単に安く使えるようにすることだ。連系線を「関所」にしてはならない。日本では北海道電力・東北電力、東京電力・中部電力、九州電力・中国電力の間の3か所の連系線が比較的混雑しやすいといわれるが、工夫の余地はあるだろう。

 そして、揚水発電の積極利用。ある電力会社の試算では、「揚水発電をすべて活用すれば、しない場合に比べて再生エネルギーは2倍導入可能」になるという。

 揚水発電所はコストが高いが、有用で、すでに建設されているものだ。日本全体の資産として有効に使いたい。

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