1. HOME
  2.  > コラム連載 送電線空容量問題、その後の動向

コラム連載 送電線空容量問題、その後の動向

送電線空容量問題、その後の動向

2018年4月5日 安田 陽 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 昨年10月に当講座コラムにて問題提起して以来、送電線空容量問題がメディアなどで比較的大きく取り上げられてきていますが、ここ数ヶ月、経済産業省(以下、経産省)や電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)からの見解も少しずつ変化が見られてきています。本コラムでは、各機関の公開資料を元に、空容量問題に関する議論の進捗状況を整理したいと思います。

「送電線の最大限活用」の議論が進む
 経済産業省(資源エネルギー庁)は2017年6月頃から『スペシャルコンテンツ』をウェブサイトに公開しています。送電線空容量問題に関連する記事も見られ、例えば、
  • 「限られた既存の電線をうまく活用して、電源を最大限接続していくことが検討されています」(2017年10月5日付記事
  • 「現在の電力系統を最大限に活用するさまざまな方法が検討されています」(2017年12月26日付記事
  • 「2018年4月からは、送電線の容量の計算方法を抜本的に見直し、需要に応じて合理的な電源の稼働を評価することで、より実態に近い空き容量の算定をおこない、接続容量の拡大を図ることとしています」(2018年3月26日付記事

などの表現が見られます(下線部は筆者)。

 筆者の一連のコラムや書籍では利用率という指標で空容量問題を客観的に示しましたが、経産省自身もこの問題の深刻さを従前に認識しており、時を同じくしてその打開策を検討していることがわかります。既存の系統の「最大限活用」が繰り返し述べられ、それが徐々に具体的になっていることが読み取れます。

「更なる系統利用拡大」と主役の不在
 一方、広域機関でも、2018年3月12日に『基幹送電線の利用率の考え方及び最大利用率実績について』という公開情報を発表し、「更なる系統利用拡大に向けて」「空容量を拡大していく」「電力潮流の少ない断面の系統利用を促す仕組み」(いずれも同資料p.13)などいう表現を用いながら、利用拡大についての議論が進んでいることがわかります。

 同資料では、系統利用拡大の方策として「想定潮流の合理化」「N–1電制」「ノンファーム型接続」という手法が提案されています(図1参照)。これは短期的対処療法としては有効な手法だと考えられ、是非この議論が前進することが望まれます。しかし一方で、肝心の重要な「主役」がまだ登場していないことに気がつく方も多いかもしれません。そう、「間接オークション」です。

図1 広域機関による系統利用拡大の方策
図1 広域機関による系統利用拡大の方策

 間接オークションとは、現在、電力会社同士を結ぶ連系線で採用されている方式です。送電線の使用権が電力市場における電力取引と間接的に連動することから「間接」と名付けられており、ここでは「先着優先」や「既設」といった新規技術の参入障壁を生みやすい不公平で恣意的なカテゴリー分けはありません(図2)。現在考えられる限りでは最も公平かつ透明性の高い送電線利用ルールです。会社間連系線ではこのルールが導入されたのに、なぜ地内(電力会社管内)送電線ではほとんど議論されないのでしょうか?

図2 会社間連系線における間接オークションのルール
図2 会社間連系線における間接オークションのルール

 一方、前述の『スペシャルコンテンツ』でも、上記の問題点(主役の不在)に呼応する形で不思議な記述が散見されます。
  • 「もともとの電源や、今は動いていないものの先に申し込みをしていた電源を排除することになれば、これらの電源の「事業の予見性」、つまり、発電事業がビジネスとして成り立つかどうかの見込みが立てられなくなってしまいます」(3月26日付記事

 本来、事業の予見性を高めるためには、公平で透明性の高い市場設計が必要とされ、適切に設計された市場での予見性はひとえに経営者の能力に負うところです(「排除」されるのではなく単に市場競争に委ねられるだけ)。しかし、従来ルールの下でしか予見性を保てないプレーヤーの心配をするとしたら、これは決して公平な市場設計とは言えません。

「誤解を招く数値」と透明性
 透明性の観点からも、問題視される表現が見られます。広域機関の前掲資料では、
  • 「広域機関システムにおいて公開している系統情報について、以下のとおり誤解を招く数値が入力されている例があることを確認した 」(同資料p.14)

と大変重要な情報がサラリと目立たずに書かれています。本来適切に設計された電力市場では、系統情報は株価や証券情報と同じで、多くの市場プレーヤーがそれを参照しながら入札行動を行う重要なものです。空容量の判断にも大きく影響を及ぼすことが容易に予想されます。既に公開された系統情報に誤りがあるとしたら、これは重大な「事件」です。

 「誤解を招く」という表現自体が誠意あるリスク対応としてはNGワードですが、それが全体のどれくらいの割合で発生していたのか、修正された信頼性あるデータがいつどのような形で開示されるのか、なぜそのような事態になったのかなどの状況報告や原因調査はほとんど言及されておらず、リスク対応が完全に後手に回っています。これでは、電力産業全体でデータ開示や透明性の理念がまるで軽視されていると解釈されても仕方ない状況です。国全体でデータや資料の隠蔽や改竄が問題視されている昨今、透明性の重要さはより真剣に議論されるべきでしょう。

上記のように、空容量問題は問題解決に向け着実に議論が進んでいるものの、公平性や透明性の観点から後ろ向きな姿勢も散見され、これではせっかく3歩進んだ議論が2歩(下手したら3歩)下がってしまう可能性もあります。空容量問題に関する一連の筆者のコラムでは、単に「空いているか/いないか」「利用率が高いか/低いか」といった表層的な議論ではなく、透明性が重要であるということを重ねて強調してきました。透明性は単にデータを開示すればよいというだけでなく、意思決定の過程も透明であるべきです。公平で透明な議論が望まれます。

このページの先頭に戻る