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コラム連載 バーチャル発電所(VPP)とは何か?-その1:VPPが生まれた背景-

バーチャル発電所(VPP)とは何か?-その1:VPPが生まれた背景-

2018年4月19日 中山琢夫 京都大学大学院経済学研究科特定助教

 ヨーロッパにおける最も成功したバーチャル発電所(VPP)の例として、ドイツのネクスト・クラフトべルケ社のモデルがあげられる。同社は、2009年に設立された会社である。ケルン大学エネルギー経済研究所で研究員をしていた二人の博士課程の大学院生によって設立された。彼らは、再生可能エネルギーがスポット市場の電力取引に与える影響について、情報工学の視点から研究していた。

 この二人によるバーチャル発電所(Virtual Power Plant : VPP)の発想は実にシンプルである。再生可能エネルギーの導入が進む中で、分散化されていく発電所を再度集中させる、そのためにアグリゲートするというのが、アイデアの中心となっている。2016年の段階で、ドイツ国内に150万以上の発電設備が設置されている。その150万の多くは、小さな太陽光発電であるが、ここで注目すべきは、その数の大幅な増加である。

 バーチャル発電所について具体的な話に進む前に、1990年代後半からのドイツの進展について説明したい。1995年、ドイツには約800の発電所があった。これは再生可能エネルギーだけではなくて、石炭・褐炭・水力といった、従来型電源を含む全ての発電所である。これらはおおよそ大規模集中型の電源で、そのころのドイツ国内の電力は、こうした発電所からほとんど全て供給されていた。

 1995年から2016年の間に、発電所、とりわけ再生可能エネルギー発電所の数が増えたのと同時に、電力市場にも大きな変化があった。それは、電力市場の自由化である。それは、EUからの要求でもあったが、これによって、発電設備からの電力の供給が、独占的なものから自由な競争的な市場へと移行した。

 たとえば、1990年代には、一般家庭は一つの電力会社からしか電力を購入することができなかったが、現在では、地域によって違いはあるものの、数十から数百の電力会社・メニューから選べるようになった。2016年4月の電力の小売全面自由化によって、日本における一般家庭・商店といった低圧需要家も、自由に小売事業者を選べるようになったのと同様である。

 もう一つ大きな変化は、発送電分離、つまり、発電事業と送電事業のアンバンドリングが行われたことである。このアンバンドリングによって、系統運営会社が、ゲートキーパーのように参入したいと思う発電事業者を意図的に排除したり、選択したりすることができなくなった。発電事業に参入したい者は、原則誰でも自由に参入できるようになった。

 2000年代の半ば、電源の分散化と電力自由化という二つの大きな変化の流れのなかで、電力市場がどういったものになるのか、その中で、新しいビジネスモデルとして、いったい何が可能になるのか、ということを考え始める企業が出てくる。ここで重要なのが、独立した系統運営者と、独立した電力取引市場である。つまり、大きな電力会社の影響を受けない、自由な競争的市場の創設が重要なテーマになる。

 それ以前も、電力の取引というのはもちろんあったが、原則的には、コンチェルンと呼ばれるような大規模な電力会社や、いくつかの都市公社との相対契約がメインで、誰もが自由で活発な取引ができるような市場は存在しなかった。それが今日に至り、先物とスポット市場の創設によって、自由に市場に参入して、電力を販売できるようになった。これが自由な市場の流れである。

 最近20年で、最も変わらなかったのは誰かと言えば、それは電力の最終需要家である。電力最終需要家は、安定した電力の供給されること、それが可能な限り維持されることを要求している。その意味では、最も変化のなかったアクターであるといえる。

 電力市場の自由化と分散型が進む発電事業者と、ほとんど変化のない電力最終需要家との間で、利益を上げられるモデルがあればどこにあるのか、ということで、この会社の創設者は、これらの真ん中にポジショニングするということを決断する。そのことを、この会社は創設以来、これまで7-8年進めてきた。

 もう一つ欠かせないことが、「市場のデジタル化」である。デジタル化が、彼らのようなビジネスモデルを可能にする。もちろん、彼らは150万すべての発電所に接続しているわけでないが、多くの設備に接続してコントロールできるようにするためには、すべての発電所に電話をつないでやりとりするわけにはいかない。そこで、このデジタル化が、彼のビジネスモデルにとって大きな影響を与えることになる。

 最も容易に想像できるのは、インターネット、つまりDSL回線を使ったものである。ただ、彼らが今、発電事業者との間で取り組んでいる情報通信は、無線、つまり携帯電話網を使った情報のやりとりである。そういう意味では、彼らは電力市場におけるデジタルプラットフォームとしての役割を目指している。

 たとえばFacebookがある。Facebookでは、彼ら自身は記事を書かないが、世界で最も多くの記事を配信するデジタルプラットフォームになっている。その他にAirbnbという宿泊予約サイトがある。彼らはホテルの部屋を一つも持たずに、宿泊予約サービスを行っている。

 現在のところ、彼らはFacebookやAirbnbに比べるとはるかに小規模であるが、発電所をひとつも所有することなく、将来的には、世界最大の発電所(バーチャル発電所)になれるかもしれない、というポテンシャルを秘めているのだという。

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