1. HOME
  2.  > コラム連載 我が国における揚水発電所のありかた −可変速揚水発電の価値をもっと評価すべき-

コラム連載 我が国における揚水発電所のありかた −可変速揚水発電の価値をもっと評価すべき-

我が国における揚水発電所のありかた −可変速揚水発電の価値をもっと評価すべき-

2016年12月1日 長山浩章 京都大学国際高等教育院教授

1.揚水発電所の使われ方に変化が
 これまで我が国において、揚水発電所は、電力需要の少ない夜間にベース電源である原子力や、石炭発電による余剰電気を使って下部ダムにある水を上部ダムにくみ上げ、電力需要が急増する昼にその水を落とすことで、発電電動機を回し、発電していた。揚水発電機で発電できる電力は揚水ポンプアップに使う電力の7割程度であり、東日本大震災以降原子力発電所の多くが止まったことによりポンプアップを行う電力の原資が失われ、その位置づけが課題とされていた。

 ところが、ここ数年で揚水発電を取り巻く環境が2つの意味で大きく変わった。1) 太陽光を中心とする変動性のある再生可能エネルギーがFIT制度の導入から急増したこと、2) 2016年4月以降、新電力の拡大や、実同時同量から計画値同時同量への運用の変化から、ゲートクローズ後の需給バランス調整が揚水発電機、特に可変速揚水発電機にかかるようになってきた、ことである。

 1)により、太陽光電力は、昼間に大きく増加した。この環境変化により、揚水発電は、夜間揚水・昼間発電から昼間揚水(本州では特に春、秋の需要が多くない昼間)・夕刻発電へとパターンが変わった。図1はこのような変化を図示したものである。2)により需給バランス調整の必要から数秒から数分の時間領域で調整を行うため、30分、1時間といった発電機の稼働をより頻繁に行うように変化してきている。


図1 1日の電力の使われ方のイメージ
図1 1日の電力の使われ方のイメージ
(出所:左図は電力会社各種資料より京都大学長山作成、右図は京都大学長山想定)


 揚水発電のメリットは上記のような再生可能エネルギーの変動吸収の他にも原価の高い火力機の運転削減、原価の安い火力機の最大出力運転が可能になることで、燃料費やCO2排出量の削減ができる。これに加えて、周波数の調整に優れた可変速揚水発電の役割が高まってきている。

2.可変速揚水発電の価値と現状
 可変速揚水発電が定速揚水発電と異なるのは、上部ダムに水をくみ上げるときのポンプ水車の回転数を変えることができるため、発電時だけでなく揚水時でもAFC(自動周波数制御装置)が利用でき、周波数調整ができることである。

 さらに可変速揚水発電の定速揚水発電機に対しての経済メリットは、以下4つあり、1)揚水運転時の入力調整によるガバナフリー運転、LFC(負荷周波数制御)運転の向上による周波数変動への対応力の向上、2)水車運転時の水車の回転速度の最適化によるタービン効率の向上、システム全体の効率性向上、3)水車運転範囲の拡大によるLFC運転範囲の拡大、4)電力系統の安定性の維持、である(以上は、電気学会技術報告「水力発電機器の設計技術の動向」第1338号, pp.114-116を参考)。

 2016年11月時点では、世界で16機の可変速揚水発電所が稼働しているがそのうち、13機が日本で運用されている。しかし、我が国の揚水発電所は約27,000MWであるが、可変速揚水は、まだ3,941MWと15%程度に過ぎない。

 九州地域で可変速揚水発電システムが稼働しているのは九州電力の小丸川1,2,3,4号機であり合計1,320MW、九州電力を除く西日本では、関西電力の大河内発電所3号機、4号機で合計776MW、2019年までに建設が完了する関西電力の奥多々良木1,2号機を合わせると合計で、1,088MWである。これに対し、北海道では、北海道電力の高見2号機、京極1,2号機で合計600MW、北海道電力を除く東日本の50Hz地域では、東京電力の矢木沢2号機、塩原3号機、葛野川4号機、電源開発の奥清津第二2号機で合計1,245MWである(図2)


図2 我が国における可変速揚水発電及び電力用蓄電池の配置と周波数制御方式
図2 我が国における可変速揚水発電及び電力用蓄電池の配置と周波数制御方式
(出所:京都大学長山作成)


3.可変速揚水をもっと有効に使うには
 我が国においては平成28年4月から第2弾の改正電気事業法が施行され事業ごとのライセンス制となったことから、これまで一般電気事業者が担ってきた周波数維持等のアンシラリーサービスは、各エリアの一般送配電事業者が担うことになった。このため各エリアの一般送配電事業者は、発電事業者等から調整力を公募により調達することとなった(注1)。

 発電事業者は可変速揚水発電を電源Iとして入札することが考えられる。しかしその募集要項における対象電源は「当社の系統に連系するオンラインで出力調整可能な電源等」とされているため、他のエリアにある地域の可変速揚水の周波数調整機能は使わないのである。すべてのエリアの電力会社が可変速揚水発電システムを保有しているわけでないことから、広域での地域的効率的な利用の観点からは例えば、関西電力の可変速揚水発電機を、周波数調整のために、中部電力、北陸電力や中国電力エリアで活用する、東京電力の可変速揚水発電機を東京電力エリアだけでなく。東北エリアで活用するほうが国全体としては効率がよい。

 またエリア各社の周波数制御方式も今後問題となる可能性がある。我が国では、西日本では、沖縄電力以外は周波数バイアス連系線電力制御(TBC)方式(以前は定周波制御(FFC)方式)、東日本では、北海道電力と東京電力がFFCで東北電力がTBCである(注2)。

 TBCとFFCの違いは、FFCは例えばBエリアの負荷が上昇し、周波数が低下した場合、AエリアでもBエリアでも発電機の出力を上げて対応する。連系線潮流はAリアに流れる。これに対して、TBCではBエリアの負荷が上昇し、周波数が低下した場合、各エリアで需給バランスをチェックし、Bエリアでのみ発電機の出力を上げるため連系線への影響はほぼない(定義は関西電力資料より)。つまり西日本の各社でとられているTBC方式では、他エリアの周波数変化に対し、各社が自エリアだけで対応するため、例えば関西電力の可変速揚水の周波数調整機能は他エリアでは使わないが、他方でこれまでは東日本では東北電力で起きた電源脱落による周波数低下には東京電力の可変速揚水機を使うことができるということである。FFCは本州東日本地域で、東電のような系統規模の大きい地域と、東北電力のような規模の相対的にかなり系統か小さい地域が隣り合っている場合に適用される。このため、関西電力のFFCからTBCの変更は電力の自由化というよりも中西日本エリアの系統需要が拡大し、関西電力の占める割合が1/3になったので、TBCにかわったという背景があるが、可変速揚水の価値という観点から関西電力はFFCに切り替えを戻すことも考えられるのではないか?

4.可変速揚水発電の今
 欧州と我が国を比べると欧州は系統が大きいので周波数が安定している。一方、我が国では、系統が相対的に小さく、大きく動くうえに中西日本、東日本、北海道で直流連系にて分断されているため周波数が同期(シンクロナイズ)しておらず、エリアの電力会社の運用も独立して行われる。このように我が国の電力システム独自の法的、設備的、そして歴史的に構造的な問題があり、我が国に技術優位性がある可変速揚水を十分に活用した電気事業体制への軌道修正をすべきではないか?

 蓄電池との競合もあり、英国のように定速揚水発電よりも先に応答するリチウムイオン電池を主に想定した1秒以内に応答(15分継続)の「エンハーンスト市場」を立ち上げた事例もあるが、蓄電池はコスト面の問題、充放電を繰り返すことによる劣化の問題がある。

 他方、可変速揚水は、アンシラリーサービス(周波数・電圧調整)へのメリットはより長い期間、電力システムに便益を与えることになる。我が国に多く存在する定速揚水発電について、地下発電所を拡張し励磁装置を大きくするだけで済む。

 またドイツのように、TSOごとの調整力が、順次統合されて共通市場になったように我が国の現状のエリアごとの調整力市場の統合が進んでいく場合、可変速揚水の価値は一層高まることになる。

 定速揚水機から可変速揚水発電への転換もより検討されるべきではないか?
(注1)
「電源I」として一般送配電事業者があらかじめ確保する調整力、「電源II」として一般送配電事業者からオンラインでの調整ができる電源等、「電源III」として一般送配電事業者からオンラインでの調整ができない、もしくは調整が可能であってもオンライン指令を受ける契約をしていない電源である。

(注2)
FFC(Flat Frequency Control)定周波数制御。連系線潮流に無関係に系統の周波数変化量だけを検出して、規定周波数を維持するように発電機出力を制御する方式。この方式は、 50Hz系統では北海道、東京、 60Hz系統では沖縄の電力会社各社で採用されている。また、TBCを採用している電力会社が連系線の事故により単独運転となった場合はFFCとなる。出典)電気学会技術報告「給電用語の解説」, 第977号(平成16年8月)
TBC(Tie line Bias Control)周波数バイアス(偏倚)連系線電力制御。周波数の変化量と連系線潮流の変化量を同時に検出して、負荷変化が自系統内で生じたと判断した場合にのみ、自系統の発電機出力を制御する方式。自系統内の負荷変化量を地域要求量(AR)といい、(系統定数)×(系統容量)×(周波数変化量)+(連系線潮流変化量)で表される。この方式は、 50Hz系統では東北、 60Hz系統では沖縄以外の各電力会社で採用されている。出典)電気学会技術報告「給電用語の解説」, 第977号(平成16年8月)


このページの先頭に戻る