1. HOME
  2.  > コラム連載 Point to point の送電管理

コラム連載 Point to point の送電管理

Point to point の送電管理

2018年4月26日 内藤克彦 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 2年ほど前にサクラメントの市民電力会社に行った折に聞いた話では、市民電力会社のガスコンバインドサイクル発電の燃料は、コロラドの牧場のバイオガスプラントとの相対契約で調達しているバイオガスであるのでゼロエミッションであるという説明であった。欧米には我が国には存在しないGas-TSOの幹線ガスパイプというものがある。コロラドのバイオガスプラントで作られたバイオガスは最寄りのGas-TSOラインにINPUTされ、サクラメントの市民電力会社のガスコンバインドサイクル発電所の最寄りのGas-TSOラインから引き出されて利用されるというわけである。もちろんコロラドのバイオガスの現物が直接、サクラメントまで来ているわけではない。コロラドではGas-TSOラインへの受け入れ基準まで前処理をしたガスをGas-TSOラインに注入し、カロリ-換算で注入量を計測する。サクラメントでは、Gas-TSOラインからカロリ-換算でガスを取り出し利用することになる。欧米では、Gas-TSOラインの受け入れ基準に合致したバイオガスのことを「バイオメタン」と称して、一般のバイオガスと区別している。Gas-TSOラインの中には、天然ガスとこのバイオメタンが混在しているわけである。欧州においても同様なGas-TSOラインの管理が行われており、ドイツやデンマ-クではこのような形でバイオメタンの全国市場が形成されている。これは、ガスの場合のPoint to point の管理の分かり易い例である。Gas-TSOライン全体を一つの巨大なガスタンクと見なして、そこへのINPUTとOUTPUTという形で幹線ガスラインの運用を行う。この場合のGasグリッドの利用料金は、距離に依存しない均一料金となる。これは、銀行を用いた現金の送金に類似している。東京から京都に現金を送金する場合に、東京支店で入金し、京都支店で出金するが、銀行全体の帳簿として収支が管理されていれば、銀行は、全額を現金輸送車により高速道路で現金輸送しなくとも良いわけである。

 電力の場合の、Point to point の送電管理も同様で、市場・相対契約で需給マッチングされたINPUT(発電)、OUTPUT(需要)を全て集めて、TSOグリッドに収まるかどうかの潮流計算をN-1ル-ルを前提に実施し、収まればOKということになる。この場合も、ガスの場合と同様にグリッド全体でうまく収めることは考えても特定の送電線毎に分解して議論するようなことはしない。したがって、利用料金もグリッド利用料金として均一料金となるのが合理的という事になる。電力の場合も、送電グリッド全体を一つのパワープールと考えて、そこへのINPUT、OUTPUTで送電管理を行うわけである。市場で決定された発電セットでは、TSOグリッドに収まらない場合には、市場価格より少し高い発電施設まで視野に入れて最も低コストでTSOグリッドに収まるように計算し直し、この結果に応じて発電セットを微修正することになる(Re-dispatch)。

 電力グリッドの場合も、先に示したサクラメントのガスの例と同様に、相対契約でINPUTとOUTPUTがペアになっているケ-スであっても、INPUTの現物電力がそのままOUTPUTされるわけではない。

POINT TO POINTの考え方は、PowerPoolへのIN、OUT

 実潮流は、物理法則に従い最もエネルギ-ロスの少ない経路で、全体としてINPUTとOUTPUTの収支が取れるように潮流が流れる。例えば、上図に模式的に示しているように、A⇒Bの相対契約であっても、AでINPUTされた電力は、最寄りの需要点から順番に消費され、B需要点からOUTPUTされる電力は、Bの最寄りの供給点から順番に調達されるように潮流は流れ、AでINPUTされた電力がそのまま全量BでOUTPUTされるわけではない。また、この方が全体としてエネルギ-の有効利用となる。これは、グリッドが櫛形か網目型かに拘われずどちらでもいえることである。実潮流べ-スではなく、人為的にAからBに特定のル-トで電力全量が移動すると仮定してキャパシティ管理することは、先の例で言えば、現金輸送車で全額を輸送するようなもので、現実的とは言い難い。

 我が国における送電キャパシティの議論を見ていると既存電力側も再エネ側もどちらの側も、ほとんどの人は未だに「送電線によりA⇒Bに電力を全量送り届ける」という「託送概念」から抜け出せておらず、欧米で通常考えられているような「グリッドへのINPUT、OUTPUT」という「グリッド使用概念」に至っていないように見受けられる。実際の潮流を考えれば、「グリッド使用概念」の方が物理法則に即した合理的な概念であることが理解できよう。

 我が国においても、政府レベルで「実潮流の送電キャパシティ管理」の議論が本格的に為されるようになったことは、大きな前進であり、高い評価に値する。さらに一歩進めて、いわゆる「託送概念」から抜け出し、「グリッド使用概念」に進むことで、電力市場が本当に機能するようになるのではないかと考える。

 最後に蛇足。「パワープール」のイメ-ジが掴みやすいのでガスの例を挙げたが、欧米・中・韓が既に随分前からGas-TSOによる合理的な市場運営を行っている状況で、先進国では唯一我が国だけにGas-TSOが存在していない。ガスシステム改革において、是非、Gas-TSOが我が国にも創設されることを期待して、本稿の筆を置くこととしたい。

このページの先頭に戻る