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コラム連載 エネルギー基本計画考察その3:2030年の資源評価

エネルギー基本計画考察その3:2030年の資源評価

2018年5月10日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 今回は、4月27日に総合エネ調基本政策分科会で提示された「エネルギ-基本計画骨子案」のなかで、中心となる2030年目標について整理・考察する。

【第2章にて2030年目標を整理】
 2030年の姿は、「第2章 2030 年に向けた基本的な方針と政策対応」にて示されている。「各エネルギ-源の位置付けと政策の方向性」は「第1節 基本的な方針 骨格維持」にて登場する。各エネルギ-源とは、再生可能エネルギ-、原子力、石炭、天然ガス、石油、LPガスのことであり、1次エネルギ-の分類に沿っているが、発電用としての位置づけが前面に出ている。

 また、「第2節 2030 年に向けた政策対応、アップデート」にて、11項目に分けて解説がなされている。最初の5項目はエネルギ-資源に焦点を当てた分類で①資源確保、②徹底した省エネルギ-社会の実現、③再生可能エネルギ-の導入加速、④原子力政策の再構築、⑤化石燃料の効率的・安定的利用となっている。

 このように、各エネルギ-源は、位置付け・政策の方向性と政策対応とが微妙に範疇を変えながら解説されており、分かり難くなっている。

 資料は、上記の資源に係る2つの解説を統合したものである。2030年目標をエネルギ-資源毎に、位置づけと方向性、政策対応、政策対応・具体策に分けて整理してみた。縦軸(最左列)のエネルギ-資源は、政策対応で登場する順に配置している。最初の「資源確保」は、省エネ以下の全項目を総括しているともみえるし、枯渇性の化石資源を総括しているようでもある。最後の「火力・資源」は、電力用の化石燃料がイメージとなる。

 横軸(最上行)は、第3列「政策対応」で第1列に対応している。第4列は第3列の政策対応の具体的な項目を挙げている。第2列の「位置づけと方向性」は、電力ミックスを念頭に、より具体的な資源について簡潔に記している。即ち化石燃料については、石炭、LNG、石油に区分している。ここでは見やすさの観点から一つの表にまとめた。

資料 2030年目標(案)の整理:主要エネルギ-資源
資料 2030年目標(案)の整理:主要エネルギ-資源
(出所)「エネルギ-基本計画骨子案」(2018年4月27日)を基に筆者作成

 以下、上から順に解説・考察していく。

【資源確保:海外調達にフォーカス】
 エネルギ-安全保障の基本として、政策対応の筆頭に位置付けられている。電力用燃料に限定されずに、1次エネルギ-の視点である。具体策を見ると、専ら海外産化石資源が念頭にあることが分かる。国産資源は、メタンハイドレートは登場するが、自然エネルギ-は見当たらない。資源確保には国産資源は基本含まれず、自給率上昇への意欲が窺われない。再生可能エネルギ-、原子力が別建てになっているがその理由かもしれない。しかし、火力発電用燃料も別途の分類となっている。

【省エネ等:最終消費にフォーカス】
 省エネ等以下の分類と順番は、これまでの事務局整理案の通りである。IoT・AI・ビッグデータ活用により需要家およびその周りの効率化を進め、社会的なシステムに昇華することを目指す。また、業務・家庭、運輸、産業の行うべき省エネ対策を列挙する。従来路線を踏襲し、最終消費を念頭に置いたものとなっている。変換・送電に係る膨大な発電ロス、運輸の走行時ロスの解消は、本質的・抜本的な省エネ対策、脱炭素対策となるが、それは触れられていない。

 熱効率ベースで、発電効率4割の火力から同効率10割の再エネへの転換は、抜本的な省エネ対策となる。2050年ゼロエミへの実現を迫られているグルーバル企業は、この最終消費に焦点を当てることの問題に気が付き始めている。自力でできる削減だけでは不可能で、多額のコストがかかるからだ。

【再生可能エネルギ-:当面対策は首肯も主力電源化は期待】
 再エネより以下の分類にて、発電用資源としての位置づけ、政策の方向が出てくる。現基本計画でも議論になった表現である。再エネは「重要な低炭素の国産エネルギ-源」であり「導入を加速し主力電源化」していく。コスト、接続制約、調整力を要する等の課題があるが、内外価格差是正、系統制約の解消、調整力の確保等の対策を取っていく。大量導入の主役となる太陽光は分散型電源としての利用促進、風力については環境アセス迅速化、洋上風力の導入促進等の対策をとる。

 再エネに関しては、大量導入・ネットワーク委員会等で普及対策に係る真剣な議論が行われてきており、当面の具体的な対策は見えてきている。骨子案もそれに沿った表現になっている。しかし、「主力電源化」との表現は、途上のニュアンスを感じる。50年断面等長期になると、不透明であるとの理由の下に、逆に歯切れが悪くなる。長期になるほど再エネ時代到来はより明確になるのではないか。

【原子力:楽観できない環境下の現状踏襲】
 原子力の位置・方向性は、重要なベースロード電源、安全確認後再稼働、依存度は可能な限り低減との表現を踏襲。原子力政策の再構築を引き続き掲げるが、安全および防災・事故、サイクル推進、立地対応および対話・広報、技術・人材・産業維持等対策は多岐に渡る。3.11福島第一原発事故以降7年が経過するが、国民の理解が進まない現状を反映したものとなっている。

【火力・資源:環境悪化なるも現状踏襲】
 化石燃料の種類ごとの位置・方向性は、従来の表現を踏襲している。石炭は重要なベースロード電源の燃料、天然ガスは役割拡大の重要なエネルギ-源およびミドル電源の中心的役割、石油は喪失電源代替が可能な重要エネルギ-源および調整電源となっている。

 しかし、この従来の構図は崩れてきている。太陽光の普及が著しい九州電力が代表だが、石炭を含む火力発電の調整電源化が進んでおり、揚水が存在感を増している。天然ガスは燃料価格や需給動向如何によりべースからピークまで柔軟な役割を演じている。これは、再エネの拡大に伴い、定型化は難しくなっていく。

 一方、政策対応は「化石燃料の効率的・安定的利用」を掲げ、引き続き高効率火力発電の有効活用を進める。高効率に絞る制度的担保としては、エネルギ-高度化法よる非化石比率44%、省エネ法による発電効率44.3%を継続する。クリーンコール技術としてIGCCやCCUSの開発・実用化を挙げ、高効率発電技術の海外支援を継続する。

 化石燃料、特に石炭火力に関しては、国際金融機関、国際NGO等より日本は厳しい批判を受けている。火力発電技術の実力をつけた中国も、一路一帯政策等にて石炭火力の支援を行う。日本ほど批判を受けないのは、再エネ開発において圧倒的な実績を示すなどCO2削減に前向きな印象を持たれているからである。

【環境が激変する中での現状維持の違和感】
 今回は、4月27日に発表されたエネルギ-基本計画骨子案について、2030年断面のエネルギ-資源毎の記述に焦点を当てて、整理・考察した。再エネへの期待が少し高まっているが、基本的に現行の考え方が継続されている。世界では再エネの爆発的拡大、石炭火力を主とする化石燃料の投資抑制、国内でもベース電源たる原子力の稼働がままならず、九州電力をはじめとして揚水・火力の役割の変化が顕著になってきている。ステレオタイプの認識と表現を改める時期に来ている。

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