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コラム連載 エネルギー基本計画考察その4:再エネ目標値とエネルギ-自給率

エネルギー基本計画考察その4:再エネ目標値とエネルギ-自給率

2018年5月17日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 4月10日に2050年断面を予想するエネルギ-情勢懇談会の報告案が、4月27日には総合エネ調基本政策分科会の骨子案が提示された。目標値、各資源の位置づけは従来の議論と大筋は変わらないが、雰囲気が少し変わってきた。「主力電源」と方向づけられた再エネは、トーンダウンしてきたように感じる。情勢懇では「大きく拡大」という文言が無くなり、総合エネ調の報告案では、表現が複雑になった。3月末の論点整理を受けて、守旧派の巻き返しがあったのであろう。

 今後計画の素案は5月中旬に示され、8月に閣議決定される予定であるので、まだ内容が変わる可能性はあるが、骨格は変わらないと考えられる。今回は、数値目標について考察してみる。

1.再生可能エネルギ-目標値について

【4年間の環境変化は再エネ増加を促すもの】
 4月27日の総合エネ調基本政策分科会にて、エネルギ-基本計画の骨子案が提示された。現状は「着実に進捗している一方で途半ば」との評価の下で、2030年度目標値は据え置かれている。

 この4年間でどのような状況変化があったか。最大の変化は再エネの大幅コスト低下と爆発的な普及である。再エネは、世界の2016年電源開発量(容量)の8割を占めた。無限に存在する資源が低コストで入手できる可能性が出てきた訳で、まさにエネルギ-革命である。

 原油価格は100ドル台から大きく低下した。再エネ普及およびシェール革命をも背景として、今後も低めで安定的に推移するだろうとの予想も根強い。一方政府は、燃料費と再エネ賦課金の合計を「電力コスト」と称し、これをある範囲内で収めることとしている。これは、再エネ開発に事実上の枠をはめている。燃料費負担は2013年度より3.5兆円減少し、2030年度見込みを3~3.3兆円下回る水準となっている。即ち、3兆円程度再エネ賦課金を増やせる余地が出てきている。

 パリ協定の締結も非常に大きな環境変化である。2050年までにゼロエミッション目標を掲げるグローバル企業が多くなった。CO2削減に真剣に取り組む中で、エネルギ-調達を再エネで賄おうと考える日本企業が増えている。また、3.11大震災後7年を経過したが、原子力への国民理解は進んでおらず、その目標達成が危ぶまれている。もう一つのゼロエミ電源として再エネがより前に出なければならなくなる。

 こうした環境変化はいずれも再エネ増加を促すものである。それにも拘らず、30年目標値である22~24%は変わらない。再エネは「主力電源へと期待」されるが、高コスト、間欠性、事業安定性等の「明らかになった課題」を克服する「目安」を得る時期としている。4月12日に提示された2050年断面見通しですら、数値が出ていない。

【2050年時点の再エネ比率、8割は必要】
 2050年時点では、日本は温室効果ガス8割以上削減を公約している。ネットでゼロエミが実現されている必要があり、エネルギ-のなかで実現しやすい電力は100%近く達成されなければならない。その意味で環境省が9割超のゼロエミ(低炭素電源)を想定しているのは当然である。ここまでは、議論の余地はない。ゼロエミ電源としては再エネ、原子力、CCS(Carbon Capture & Storage)火力となるが、経済・技術等の蓋然性からして再エネが主役とならざるをえない。ところが、情勢懇報告案では、長期であるがゆえに不確実性が高く、決めつけない方がいいとの理由の下に、数値を出していない。

 基本計画を巡る議論においては、最終的にはエネルギ-全体(1次エネルギ-)に係る目標となり、資源の切り口での議論となるが、それでも2次エネルギ-である電力の位置づけは大きい。電力の100%近くが再エネ主導でゼロエミとなると、1次エネルギ-は大きく縮小し、省エネ化がすすむ。最終エネルギ-も効率的な電動化等により大きく縮小するのである。

 全体の予想が難しいのであればEU等のようにCO2、省エネ、再エネの目標だけでも示すべきである。

2.エネルギ-自給率は最重要目標値

【エネルギ-自給率は最大の目標】
 全体を通した基本的な違和感は、脱炭素化が喫緊の課題に浮上している一方で、資源確保が一番手の政策対応となっていることである。セキュリティ上エネルギ-調達が重要であることは否定できないが、石油危機当時の考えが強く出すぎており、脱炭素化の奔流、それを支える技術・システム革新の登場・普及の扱いが小さくなっている。過去のエネルギ-基本計画とほとんど同じような表現が多く登場する。

 いつの時代もエネルギ-セキュリティが最重要課題であるのは論を待たない。エネルギ-政策目標である3Eの筆頭に位置している。その達成手段の基本は国産資源を開発・利用であり、即ち自給率を上げることであろう。EU指令等においても、再エネ普及の目的は、温暖化対策よりもセキュリティが上位にあり、産業競争力確保も明記されている。四方を海に囲まれ、雨量が豊富で、森林資源や地熱にも恵まれた日本は、自然エネルギ-大国である。メタンハイドレードも膨大な埋蔵量を誇るとされる。

 食料と木材は、それぞれ45%、50%の国家目標を掲げ、その実現に向けて政策を整備してきている。木材は最低水準であった2002年度の19%から2016年度は35%に上がってきた。絶望的に見えた自給率向上であるが、地道な路網整備、機械化、高効率な製材工場の整備、FIT適用等バイオ燃料の活用等により着実に上昇している。

【資源自給率、技術自給率を強調しているが】
 基本計画骨子案で登場する自給率は、「資源自給率」および「技術自給率」である。結果としての(国内エネルギ-)自給率の数字は出てくるが、ターゲットとして掲げられていない。資源自給率は海外の自主開発資源を含んでいる。自給率が上がれば自主開発へのプレッシャーは低くなる。海外資源は化石燃料とほぼ同義であるが、脱炭素化の奔流の中で、シェール革命、再エネ・省エネ革命とも相まって、資産価値の縮小が議論を呼んでいる。いわゆるストランドアセット(座礁資産)の議論である。投資のリスクを慎重に見極める必要が出てきている。資源メジャーや大規模エネルギ-会社が資源投資に慎重になってきている。評価損に苦しんでいる日本企業も少なくない。

 骨子案では、中国を念頭に置いていると思われるが、新興国の購買力、資源取得力、流通ルート掌握力等が我が国の安定調達を脅かす可能性に警鐘を鳴らし、対策を講じることの重要性を強調している。これは、かねてより存在し予想できた事態である。脱炭素化の流れはむしろこの懸念を弱める方向に働くとも考えられる。

 中国・印度等は、化石燃料だけでなくむしろ最近は再エネ開発に注力してきている。中国は、ブルームバーグ等の試算によれば、2017年の世界の再エネ開発投資の1/2以上を占め、米国の3倍を記録した超再エネ大国である。膨大な電力需要の中で2017年度は電力に占める割合は26%に達した。印度も急速に再エネ開発を進めており、2022年度には電力設備容量の5割は再エネとなる見込みである。

 骨子案では、この事態も触れているが、新興国を巻き込んだ技術競争という認識の下で警鐘を鳴らしている。「技術自給率」という表現がその象徴である。残念ながら我が国は再エネ開発に出遅れてしまったが、その奔流に追い付き・追い越すのが本筋であろう。技術のある我が国が本気になれば十分に可能だと思われる。

 「技術自給」は、聞き慣れない言葉であるが、技術を他国に握られると、いざという時に製品輸出を止められる懸念があることからキーテクは確保しておく必要がある、との趣旨のようである。これに関しては、まず再エネの主役であるソーラーパネルは中国メーカーが世界を席巻しつつあり、風車、蓄電池等も存在感を増している。しかし、これに輸出規制がかかることで窮地に陥る事態は考えにくい。どちらも工場で作られるコモデティであり、枯渇性資源に比べて遥かに代替可能である。いざとなれば国内生産で対応できる。また、パネル、風車等の耐用年数は30年程度であり、豊富にありタダの国産エネルギ-を長期間利用し続けられる。

 骨子案は競争力を有する蓄電池、水素関連に中長期的視点で強化すべきとしているが、技術は市場が生む側面が強くなっており、一定以上の市場規模と生産を保証する制度こそが技術競争を後押しすることになる。

 今回は、エネルギ-基本計画を策定する上で再エネ目標値、エネルギ-自給率の掲げることの重要性ついて考察した。現状の骨子案では不十分である。

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