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コラム連載 「実用化は2080年ごろ」という大幅な先おくり~高速炉アストリッドに見える核燃サイクルの足踏み

「実用化は2080年ごろ」という大幅な先おくり~高速炉アストリッドに見える核燃サイクルの足踏み

2018年6月7日 竹内 敬二 エネルギー戦略研究所株式会社、シニアフェロー

 戦後、多くの国が原発の導入だけでなく、核燃料サイクルの実現をめざした。原発が世界中に普及してウランがひっ迫し、原発の使用済み燃料中にできるプルトニウムを利用することが経済性をもつようになると予測したからだ。そのサイクルは「21世紀のエネルギー危機を解決する」と思われたが、今は、原発も伸びず、サイクル計画から撤退する国が増えている。

 そんな中でフランスは、アストリッド(ASTRID)という新しい高速炉をつくる計画をもち、日本はその建設費をかなり負担することで開発研究への参加を考えている。サイクルを簡単にはあきらめない2国が手を結んだ開発協力ではあるが、このほどフランス側が明らかにしたアストリッド計画の現状をみれば、それも簡単ではないことがわかる。なにしろ「実用化するとしたら2080年ごろになる」というのである。

◇規模縮小、建設の判断は2024年に決める
 6月1日、フランスの原子力・代替エネルギー庁の担当者が日本を訪れ、方針を経済産業省の会合で説明した。

建設するかどうかは未定。判断は2024年にする。
従来、60万kWを予定していたが、10万~20万kWに大幅に小型化する。
小規模炉の限界を補完するため、シミュレーションなどを駆使して研究する。
高速炉は原発に比べて経済性がない。現状のウラン市場では、高速炉実用化に、それほどの緊急性はない。
実用化するには、大型炉をつくる必要があるが、その主体は仏電力会社EDF。EDFは実用化に向けた投資をするか(大型炉をつくる)どうかを2060年までに判断する。
したがって、高速炉が実用化されるとしたら2080年ごろをめざすことになる。


 これは、驚くべき内容だ。建設は未定、つくったとしても小さいし、順調に進んでも実用化は2080年ごろというのである。「とりあえず遠くへ先送りした」ということだ。フランス国内でもこの計画がうまく進んでいない、ということを示している。

 10万~20万kWはずいぶん小さい。フランスはこれまで124万kWのスーパーフェニックスでも研究を積み、日本でも、運転期間は短かったが、28万kWのもんじゅをもっていた。「こんなに小さくて次の段階の研究ができるのか」という批判もでてきそうだ。

◇膨れる予算規模。実用化の判断は2060年
 こうなった第一の理由は、「高速炉は当面、急いで開発する必要はない」からだ。高速炉の実用炉をつくり、社会の中にたくさん建設し、大量のプルトニウムを使う核燃サイクルを実現するには、前提条件がある。ウランの値段が上がって、プルトニウム利用に経済性がでることだ。

 しかし、現実は、原発自体が再生エネや化石燃料との激しい発電コスト競争の中にあり、プルトニウムを利用する高速炉が経済性を得る見通しはまったくたたない。フランス側は2024年、2060年、2080年という数字を出したが、その意味するところは、「何も決まっていない、うまくいってもまだまだ先のこと」ということだ。

 2つ目はお金の問題だ。アストリッドは60万kW規模で60億ユーロ(7800億円)と言われていたが、今や1兆円超ともいわれる。このため、小型化されたとみられている。共同研究へは日本、ロシア、中国、米国などが参加する可能性があるが、建設費負担では日本への期待が大きい。

 アストリッドは、実用炉の一つ手前の「実証炉」という位置づけなので、本来は、使用者である電力会社がお金を出し、所有するはずだが、仏の実質国営の電力会社であるEDFが、乗り気でなく、お金を出したがらない。「実用化に向かう大型炉をつくるかどうかは2060年に決める」というのである。電力会社ではなく、役所(原子力・代替エネルギー省)が熱心な計画といえる。

フランス・マルクールにあるMOX工場
【フランス・マルクールにあるMOX工場。プルサーマル用の燃料をつくっている。
円筒形の容器に、材料のプルトニウム粉末が入っている。撮影・竹内敬二】

◇サイクルは不確実、電力会社は負担を渋る
 結局、アストリッドは、今のところ「だれもお金を出したがらないプロジェクト」だ。実用化を急ぐのではなく「高速炉の研究開発を絶やさず続ける」という意味が大きいプロジェクトになりそうだ。

 日本側もお金の問題をかかえる。高速炉の原型炉である「もんじゅ」は研究開発ということで、国がお金を出したが、次の実証炉は電力業界が出す予定だった。莫大な費用がかかるアストリッドはどうするのか。

 日本の電力会社も乗り気ではない。電力会社は、「再稼働」や電力自由化への対応に必死で、東電は原発事故の賠償を抱えている。「2080年に実用化」という長い時間軸の話だが、そもそも数十年後に日本の原発がどうなっているのか。現在議論が続いているエネルギー基本計画では、「原発の新規建設があるのかどうか」もはっきりしない。明日の原発が不確かなままでは、その次にあるサイクルは語れない。

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