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コラム連載 太陽光発電の価値は市場価格の2倍超 2019年問題の考え方

太陽光発電の価値は市場価格の2倍超 2019年問題の考え方

2018年6月14日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

1.2019年問題とルーフトップソーラーの価値

【2019年問題】
 2019年問題が注目を集めている。家庭用太陽光発電の10年間のFIT期限切れにより、2019年より余剰電力は市場での販売となる。最高でkWh当り48円で販売できた電力の販売価格は売り手と買い手との間の交渉で決まり、FIT価格から大きく低下することが予想される。卸市場価格は約10円である。回避可能費用として燃料費相当分との判断もあり得る。天候により変動することを評価しない買い手も出てこよう。あるいは、再エネ普及を快く思わない場合は購入しない可能性もある。誰も買い手がつかない場合は送配電会社がゼロ円で引き取る、ことも決まっている。最悪の場合、所有者は発電設備を撤去する、発電を止めてしまう可能性も否定できず、再エネ普及に黄信号が灯ることになる。

【ルーフトップソーラーの多様な価値】
 家庭用等ルーフトップソーラー(屋根置き太陽光発電)の価値を考えてみる。まず電気の価値がある。卸市場価格相当と考えられる。次にCO2を排出しない環境価値がある。FIT期限切れにより正式に環境価値を持つようになる。FIT電源に封じ込められている環境価値を市場に出す目的で、先月に非化石価値取引市場が始まった。入札最低価格はkWh当り1.3円に設定されている。また、ピーク時に出力が大きいので、ピーク需要削減効果(発電容量削減効果)がある。卸市場のピーク時価格が参考値となる。災害時に相当時間発電できる防災効果がある。卸市場は、正常に機能していれば高騰(スパイク)する。東日本大震災時には、何故か市場は閉じられた。

 さらに、オンサイト設備なので流通コスト削減効果がある。送電ロス5~7%を節約できるがこれは電気価値の増加も意味する。特に潮流を読んで混雑を解消するような立地であれば、供給側の投資削減効果がある。インバーターを少し高度化すれば電圧調整が可能となる。

 火力発電価格はボラティリティの大きい燃料価格の影響を受けて変動するが、燃料を要しない資本費のみのソーラーは長期固定価格での取引に向いており、価格変動ヘッジ効果がある。買い手だけでなく、本来売り手も燃料費変動リスクを負う。日本は燃料費調整制度と称する世界でも珍しい制度があり燃料費変動は需要家に転嫁できるが、当制度はいつまで続くか分らない。

 これらの価値を評価すれば、ゼロ円引き取りという発想はまず出てこない。分散型時代、分散型システム構築が必要と言われるが、言葉だけで真に認識されているか疑問である。系統への逆潮流は困る、余計な投資がかかる、天候次第の発電は迷惑等の思いが深層に存在するのではないか。

2.テキサス州オースチンエナジーのソーラークレジット

【米国でのルーフトップソーラー普及に伴う議論】
 米国では、州レベルでは再エネ普及に積極的である。ニューヨーク州とカリフォルニア州では、2030年までに電力消費シェアで50%が法律で義務付けでられている。ハワイ州では2045年までに100%としている。州政府等の支援策は主にRPSとネットメータリング(NEM)である。RPSは、小売り会社に一定の再エネ比率を義務つける制度であるが、30州(含むワシントンDC)が導入している。NEMは、ルーフトップソーラーに関して、小売りが自家消費を除く余剰分を購入し、その分を供給量から差し引いて料金を請求する制度であるが、44州で採用している。

 ルーフトップソーラーは、政策的な人気も高く、独自に補助金を設ける自治体もあり、各地で着実に増えている。それに伴い、様々な議論が生じている。NEMにより、請求できる供給量が減り、流通コストをカバーするべく料金が上がり、それがさらにソーラーの増加を招くとの所謂デススパイラルの指摘である。ソーラーを設置しない者に過度の負担がかかるとの指摘もある。一方、NEMはソーラーの持つ多様な価値の一部をカバーするのみであり評価は不当に低い、との反論もある。

【テキサス州オースチン市が考案した新制度VOST】
 テキサス州都のオースチン市と市営会社オースチンエナジー(AE)は、これらの課題解決を目指して、2012年よりVOST(Value of Solar Tariff)との名称で、NEMに替わる制度を導入している。独自にルーフトップソーラーの価値を評価し、全発電電力量をkWh当り10セント程度で購入する一方で(クレジット)、全販売電力量に見合う通常料金を徴収する(チャージ)制度を導入しており、モデル制度として全米の注目を集めている。メーターは系統との出入りを計るもの、太陽光発電量を計るものの2つを設置する。

 AEは、独自のアルゴリズムで多様なソーラー発電価値を計算する。前述した多様な価値の中で発電、送電ロス節約、ピークシフトによる電源投資節約、環境、オンサイト立地による流通投資節約、燃料価格変動ヘッジの価値を試算して、これを総太陽光発電電力量に係るクレジットとして需要家に提供する(資料1)。

資料1.ルーフトップソーラーの価値(整理表)
     (注)RPS:Renewables Portfolio Standard、REC:Renewable Energy Credit
        LMPs:Locational Marginal Prices、  PPA:Power Purchase Agreement
     (出所)筆者作成

 AE(オースチン市)は、2006年にこの考え方を提示し、2012年度より実施している。そのときに試算した価値を示したのが資料2である。西向き30度勾配が地域の一般的な設置形態であるが、この価値は12.8セント/kWhである。発電(Energy)価値は卸市場価格に太陽光出力の出現状況を加味したものである。なお、2011年の年平均卸価格は4.4セントであるが、ピーク時に多く発電する実態を織り込むと6.1~8.2セントの価値になる。市場価格の低下を主因に、クレジット単価は年々低下し、2018年1月現在で9.7セントとなっている(平均電力料金は10.3セント)。

資料2.ルーフトップソーラーの価値(要素別、配置別)
資料2.ルーフトップソーラーの価値(要素別、配置別)
(出所)Austin Energy、Clean Power Research(2012年)

 ソーラー等分散資源の便益測定と普及、既存インフラおよび配電会社(電力ユテリティ)の効率的な運営等の課題に直面する多くの地域のモデルケースになり得るとの評価を得ている。ミネソタ州政府は、VOSTの導入を選択肢の一つとして認めたが、ユテリティが実際に導入するには時間がかかる様である。筆者は、5月に米国を訪問したが、テキサス州公益事業委員会(PUCT)をはじめとして、複数の訪問先がオースチン市の取組みを評価していた。

 日本政府は、FIT期限切れに伴い設備が撤去され、再エネ普及の支障が生じることを懸念している。ルーフトップソーラーのもつ多様な価値を評価し、それを喧伝することに注力することを提言したい。

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