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コラム連載 変動性再生可能エネルギーは調整電源として活用できないのか

変動性再生可能エネルギーは調整電源として活用できないのか

2018年6月21日 中山琢夫 京都大学大学院経済学研究科特定助教

【はじめに-変動制電源と調整電源 】
 太陽光・風力の変動性再生可能エネルギーについても、大量導入されれば、それらの間で調整メカニズムが働くのではないかという考えも生じよう。しかし、変動性電力は蓄電しにくい。出力抑制した結果、その電気が無駄になってしまうという問題の方が大きい。

 ドイツでは、バイオガス、水力、病院や工場等の緊急用電源は、すでに調整電源としての機能を有しており、これらを利用する方が無駄がない。ドイツでは、緊急時に再生可能エネルギーを遮断できるのは、バーチャル発電所(VPP)の運用者ではなくて系統運用者(TSO)である、と法的に定められている。VPP事業者が遮断できる、あるいはした方が良いとされるのは、卸売市場でネガティブプライスをつける時である。

【変動制電源とネガティブプライス】
 は、太陽光と風力が多く発電し、需要の少ない春のある一日の当日市場価格を示している。太陽光や風力が多く発電すると、価格が急激に低下してくる。一番上の薄い灰色の線は、従来型の電源を示している。出力調整を行っているのだが、十分な柔軟性がないために、出力を落とし切れていない。

風が強い日に発生したネガティブプライス(当日市場)

 このような場合、取引価格が下落し、場合によってはネガティブ価格をつけることになる。この図では、12時前から16時過ぎにかけて、ネガティブプライスが発生している。この時間帯に電力を消費すると、その分市場から料金を受領できることになる。こういう場合には、発電事業者、VPP事業者のような直接市場取引を行う側も、風力や太陽光発電を自主的に遮電することが認められる。

 しかしながら、これは、VPPを運営するプレーヤーにとっては、制御可能な柔軟性を有するとは言えない。この遮断は、緊急の最終手段としての柔軟性であり、予見して確保しておくものではないからである。彼らは、より確実な調整電源をもっているので、敢えて風力を調整電源として取り扱う必要もない。

【柔軟性(フレキシビリティ)とは何か】
 柔軟性(フレキシビリティ)という製品とは何か。それには何を含むのか、誰がどうやって判断するのだろうか。TSOなのか、VPP事業者(発電事業者の集合体)なのか。非常に複雑ではあるが、とりあえず調整電源市場と卸売市場とに分けて考えてみる。調整電源として、周波数調整用の電源市場がある。

 ドイツ国内での調整電源市場は、4つのTSOが運営する一つの市場で取引されている。TSOが調整力に対して求めるのは、最低限の出力を設けその規模で一週間発電してください、ということである。それ以上の部分は取引しない、発電をしてはいけないということになる。これが、TSO側が発電事業者に求めてくることである。

 風力発電事業者としては、変動性する発電の多くを捨てざるをえなくなるため、インセンティブとはならない。最低ラインの安定的発電量は、TSOによって決められる。BNetzA(連邦ネットワーク庁)とTSOが協力してトランスミッションコードと呼ばれる枠組みを作るが、それが条件として設定される。法律ではないが、いわゆるデファクトスタンダードとして運用されるルールとして用いられる。

 技術的には、風力が調整電源を提供することは不可能ではない。しかしこのルールでは、風力を使って調整電源を供給することは、発電事業者やVPP事業者にとって割に合わないビジネスになる。捨てる電力量が多すぎるのだ。

【変動性電源は、調整電源として活用できるか】
 将来的には風力も調整電源になるようにしようと、5年前から言われている。しかし、ドイツではそうはなっていない。現在のルールの中では、VPP事業者が風力を調整電源で売る動機は全くない。調整電源市場の価格も高くはない。

 トランスミッションコードは、風力が調整力市場に売れることを考慮して作られていない。風力に関しては具体的な出力制限ルールは書かれていない。2017年3月現在では、一つのTSOと大規模ウインドパークの運営者が、実験的にそれを進めているところである。

 パイロット事業の段階であり、今後の法的な規制やルールについては、まだ未定の部分が多い。大規模に直接市場取引を行うアグリゲーターが実証実験を行った。しかし、ルールに従って、定められた量まで削減された状況で運転している。さらに、そこからの下げ幅を売る実証実験であった。

 技術的には可能であることを示すために行ってみたが、経済的ではないということで結局諦めた。捨てる部分が大きいだけでなく、調整電源市場での価格が低いからである。

【まとめ-発電事業者にとってのインセンティブとなるか】
 現在ドイツにおいては、発電事業者やVPP事業者にとって、変動性電源とりわけ風力発電は、ある程度まとまった規模であっても、調整電源としてTSOと取引するのは現実ではない。実際の発電量(kWh)を、スポット市場をはじめとする卸売市場で取引する方が、インセンティブが高いといえる。

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