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コラム連載 エネルギ-基本計画考察⑥プルトニウム削減でも基本方針は不変

エネルギ-基本計画考察⑥プルトニウム削減でも基本方針は不変

2018年7月12日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 第5次エネルギ-基本計画が7月3日に閣議決定された。政府案とほぼ同様の内容であるが、「プルトニウム削減」が唐突に登場した。この重要な論点が、特に委員会等での議論を経ることもなく盛り込まれ、事実上政府方針となった。一方で、原子力全体の方針は不変である。今回は、この問題を取り上げる。

【トランプ政権の翻意?】
 6月10日付日経新聞朝刊第一面に「米、プルトニウム削減を日本に要求 核不拡散で懸念 -政府、上限制で理解求める-」との見出しが躍って以降、本件はメディアで度々取り上げられた。その都度日本政府の対応を含む内容が具体化し、情報の信ぴょう性は高まってきていた。これは指摘するまでもなく大きな論点である。また、この7月に期限がくる日米原子力協定は、トランプ政権の下で自動延長される見通しとされていたので、なおさら意外感があった。同協定は、使用済み核燃料の再処理を認めるなど、日本の核燃料サイクル政策の根拠となっている。 以下に報道内容に沿って整理する。
  • トランプ政権が日本に対して、プルトニウムの削減を要求してきた。
  • 背景は、北朝鮮に核兵器廃絶実施を迫っているなかで、核兵器の原料となりうるプルトニウムが相当量生産・保管され(47トン)、六ケ所再処理工場の稼働に伴い今後も積みを上がる状況を見過ごせなくなった。
  • 日本政府は削減方針の方向で検討。原子力委員会も近々結論を出す。
  • 削減策としては、消費できる発電所にて他社保有分を含めて消費する(原子力委員会意見)、国内再処理施設の稼働を調整する等を検討。



【分かり難い電力会社間消費協力】
 削減の実施に関しては、報道でも指摘されているが、容易ではないと思われる。まず、プルトニウムの電力会社間による「消費協力」であるが、ハードルは低くない。もんじゅ廃炉により、高速増殖炉で消費する方式は破綻しており、プルトニウムを軽水炉で消費するプルサーマル方式しか残っていない。これは、プルトニウムとウランとを混合したMOX燃料を1/3程度装荷して通常の原発(軽水炉)で消費するものである。これまで海外で製造されたMOX燃料を、安全審査承認および地元了解が得られた発電所にて消費した実際がある(玄海3号、高浜3・4号、伊方3号)。

 プルトニウムは、原発を稼働すると装荷したウラン燃料の1部がプルトニウムに転換して生成される。日本は使用済み燃料を再処理してウランとともにプルトニウムを抽出し再利用するいわゆる「再処理方式」を取っている。生成されたプルトニウムは燃料所有者すなわち発電所所有者に帰属する。各電力会社がMOX燃料を(委託)製造し、それを自身の発電所にて、安全審査や地元了解を前提に消費する。これを他社の発電所で消費するためには、地元了解を含めてタフな手続き要するであろう。

 そもそもMOX燃料を譲渡される(燃焼の委託を受ける)事業者は自身のプルトニウム消費で手一杯だと思われる。自身の発電所で消費できるように努力するのが筋でもある。削減は個別会社ではなく我が国全体の責務だと思われるが、そうであればプルサーマルが可能な発電所を増やしていくしかない。

【再処理施設稼働調整がもつ大きな意味】
 再処理施設の稼働を調整することでプルトニウムの生成量を制御することに関しては、これは大きな論点を抱える。下北半島六ケ所村の再処理施設は、まだ建設中であり稼働していない。同施設は、総工事費7600億円の予定で、1989年に事業申請、1993年4月に着工した。しかし、竣工時期は当初予定の1997年から2021年上期に延びている。また、総事業費も2兆9500億円に増加している(2017/7時点)。

 再処理施設はまだ運転開始前であるが、今回のプルトニウム削減方針により、運開後どの程度稼働できるかは不透明になった。再処理工場の最大処理能力は800トン・ウラン/年で、これは100万kW級原子力発電所約40基分の使用済燃料の処理能力に相当し、核分裂性のプルトニウムは約4~5トン/年分離・生成される。一方、電事連は、プルサーマルは16~18基にて実施するとしており、この場合は、プルトニウムは年間5.5~6.5トンの消費が見込まれる。使用済みMOX燃料の再処理を前提としなければ、プルトニウムは減少していくことになる。

 しかし、どれだけの基数が再稼働しプルサーマルを実施できるかは不透明である。また、使用済みMOX燃料の「処理・処分」の方策については、基本計画では「引き続き研究開発に取り組みつつ、検討を進める。」と歯切れが悪い。

 再処理施設は、運開できたとしても低稼働を余儀なくされる可能性が出てきた。また、六ケ所村では、MOX燃料加工工場も建設中であるが、竣工時期は2022年上期の予定である。2017年12月に再処理施設およびMOX燃料工場は、竣工時期がそれぞれ3年間延期された。延期は、再処理が24回目。MOX燃料は6回目である。両施設は前後の工程となっており、1年程度竣工に間隔が設けられている。どちらかが原因で延期となっても、その影響を受けると思われる。

 プルトニウム削減方針の明記は、再処理路線の在り方議論にも繋がり、大きな節目となる可能性がある。バックエンド事業は、原子力遂行および電力会社の経営に関わる大きな問題であるが、冒頭に記したように、唐突感があり、十分な議論がなされた気配はない。原子力全体としては直前のエネルギ-基本計画を踏襲しているが、大きな違和感が残る。

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