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コラム連載 【エネルギー基本計画 ~ プルトニウムを減らしながらの発電は簡単ではない】

【エネルギー基本計画 ~ プルトニウムを減らしながらの発電は簡単ではない】

2018年7月19日 エネルギー戦略研究所(株) シニアフェロー 竹内敬二

 7月3日に閣議決定された「エネルギー基本計画」に、「プルトニウム保有量の削減に取り組む」という1項目が急遽入った。これまでも日本は「余剰プルトニウムをもたない」政策をもっていたが、核燃サイクル政策がうまく進まない中で保有量は47トンにまで膨らみ、「核不拡散の観点からみて問題だ」との批判が大きくなっていた。これに答えた形だ。具体的には、原子力委員会が電力会社に対し、「プルトニウム量の上限値を決め、今後も量を増やさない事業活動」を求める方針だ。

 しかし、日本には高速炉がなく、原発の再稼働数も少ない。これらは「プルトニウムを消費する」ものだ。一方で、プルトニウムを「増やす」再処理工場が操業間近だ。こんなちぐはぐな施設状況の中で、プルトニウム量を制御し、減らし、かつ発電コストも管理しながら民間会社としての発電事業ができるのかどうか。大きな疑問だ。

◇米国の厳しい姿勢
 世耕弘成経産相はエネルギー基本計画にプルトニウム削減項目を入れたことについて、「削減に取り組む姿勢をより明確にした」と説明した。この項目は、経産省が5月につくったエネルギー基本計画の原案にはなかっただけに、あわただしさが浮き彫りになった。

 削減を求めてきたのは米国といわれる。日米の間には、日米原子力協定があり、この中で、日本は使用済み燃料の再処理が認められてきた。協定は今年7月16日に自動延長になる。これまでトランプ政権は、日本のプルトニウム政策について、あまり厳格な要求はせず、協定は問題なく延長になるだろうと思われていた。しかし、そうではなかった。

【主な国の余剰プルトニウム】
(ジョーシャン・チョイ氏の資料から。2018年6月28日のシンポジウム「北東アジアにおけるプルトニウム」の資料)
【主な国の余剰プルトニウム】

◇原子力委員会の方針とは
 原子力委員会が出す方針は次のような内容だと予想される。
プルサーマルで使う分だけつくる。;
再処理計画はプルサーマルの着実な実施に必要な量だけ再処理されるように認可する
保有を最小にする。;
再処理から「燃料として運転」までのプルトニウム保有量を必要最小限にし、再処理工場の運転を必要な水準まで減少させる。


 日本のプルトニウムはフランスに約16トン、英国に約21トン、日本国内に約10トンある。外国にある分は外国でMOX燃料に加工して日本に運び、原発で燃やすプルサーマルで消費する予定。

 電力業界は16~18基の原発でプルサーマルを計画していたが、これまでに再稼働となったのは9基。うちプルサーマルが可能なのは4基だけで、減らす能力が小さい。

2013年12月のシンポジウムにおけるフォンヒッペル氏の資料
(図;2013年12月のシンポジウムにおけるフォンヒッペル氏の資料。六ケ所再処理工場が完成すれば日本の保有プルトニウムが大きく増えることを示している)

◇再処理工場は、当面動かず?
 六ケ所再処理工場の再処理で生まれたプルトニウムは、近くに建設中のMOX工場で燃料に加工し、国内のプルサーマルで消費する予定だ。国内のMOX工場ができるまでは、再処理工場の運転開始が難しくなりそうだ。いまから数年かかるかもしれない。

 そして再処理工場とMOX工場が完成したとしても、プルサーマル実施の原発が少なければ、再処理工場の稼働率は低く抑えられることになる。同時に、外国にあるプルトニウムも減らさなければならない。こうしたいろいろな制限は、発電事業のコスト上昇要因になるだろう。

 そのほかにも問題がある。例えば東電は、再稼働した原発を持たない。そこで「ほかの会社への委託」を考えている。

 東電HDの広瀬直己副会長は、ブルームバーグのインタビューに「関電や九電など動いている原発をもつ他社に対し、プルトニウムを提供する可能性がある」と答えている。お互いに融通して、早く減らそうという考えだ。外国に置いてある分を融通しあうことを考えているのだろうが、簡単にできるかどうか。

 海外に関しては、フランス国内にはMOX燃料工場があるので、MOX燃料への加工が可能だ。しかし、英国にはMOX工場がないので、燃料加工の見通しがたたない。

 結局、「フランスにあるプルトニウムについては、少しずつ、日本国内でのプルサーマルで減らす」「六ケ所再処理工場は当面動かない」「英国内のプルトニウムについては削減の見通しがたたない」となる。

◇英国のユニークな政策「引き取りましょうか?」
 そこで、英国のユニークな政策が注目されている。それは「英国内にある外国所有のプルトニウムを引き取ってもいいですよ」というものだ。1994年に操業を始めた英国の再処理工場ソープ(THORP)は今年閉鎖される。その間、自国や外国の使用済み燃料を再処理し、その名残で、いくつかの国のプルトニウムをもっている。

 これに対して、英国政府と所有国の政府が合意すれば、英国政府が引き取る姿勢を示している。「所有権の移転」「タイトルのスワップ」と言われる。すでに英国はスウェーデン、ドイツ、オランダなどの少量のプルトニウムを引き取っている。引き取られた方は、輸送したり、これからプルサーマルをしたりする煩わしさがなくなる。

 一方、英国はプルトニウムを引き取ってもその処理方法は決めていない。英国には自国分として110トンの余剰のプルトニウムがあるが、MOX工場もなく、プルサーマルに使える原発もない。当面、長期の保管をしながら処理方法を考え、処理方法が決まったら、他国から引き取ったプルトニウムもそのとき一緒に処理する方針だ。

◇「処理費用」を渡す
 英国には21トンの日本のプルトニウムがある。いくらかを英国に渡せば、形の上では「所有プルトニウムの削減」になるが、問題は「お金」だ。英国側に渡すとすれば、お金を一緒に渡さなければならない。プルトニウムは、MOX で使うにしても、処分にしてもコストがかかるので、当然、英国はその費用を求めてくる。

 日本は戦後、多くの年数と、莫大なお金を使って、プルトニウムをつくってきた。「処理費」をつけて他国に渡すことは、難しいだろう。とはいえ21トンを預けている今も、毎年相当の「保管料」を払っている。何をするにもお金がいる。

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