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コラム連載 制度改正とファイナンスとの関係

制度改正とファイナンスとの関係

2018年7月26日 金子 三紀雄 日本政策投資銀行

 電力プロジェクトに対するプロジェクトファイナンスは、着工時点で組成される事例が多く、事業終了の直前、太陽光・風力といったプロジェクトであれば着工時点からFIT終了時期の直前まで、20年超に亘る長期のファイナンスが組成されることとなる。その意味では、ファイナンスを提供する金融機関はスポンサー企業等とともに、プロジェクト関係者の中でも長期間、当該プロジェクトに関与し続けることとなる。

 他の先生方のコラムでも触れられているとおり、国内電力・エネルギー事業に関しては、現在、さまざまな制度改正に向けた議論が行われており、一金融機関担当者としては、正直、技術的な側面も含めてなかなか全容を詳細に把握するのは難しい状況である。
一方で、現在検討されている制度改正の中には、長期的なプロジェクト採算に影響を与える可能性のある制度改正項目も見受けられる。

 その中でも、「発電側託送基本料金の導入」「日本版コネクトアンドマネージによる再エネの導入拡大」の2項目が電力プロジェクト、特に再エネプロジェクトの長期的な事業採算をみる上で重要な改正となりうるため、その動向を注視している。

 1点目の「発電側託送基本料金の導入」に関しては、「2020年以降の可能な限り早期に導入」「FIT電源への導入及び具体的な料金水準(FIT買取期間中の調整措置が必要か)については今後調達価格等算定委員会等にて検討」とされており、まだまだ不明確な項目も多い一方、当該帰趨は事業者及び金融機関の作成する事業計画に大きな影響を与える可能性がある。新規のプロジェクトについては、「系統接続費用が高い」との声に応える形で一般負担上限の見直しと発電側基本料金の導入をセットで行うことには一定の論理性があるものと考えられる。

図1 再エネの初期投資減、分割払い化(出典:経済産業省開示資料)
図1 再エネの初期投資減、分割払い化(出典:経済産業省開示資料)

 他方、既存のFITが導入されている再エネプロジェクトに対して遡及的な影響が発現する場合には、期待されるプロジェクトキャッシュフロー、及びそれに基づいたプロジェクトファイナンスの返済計画等に対し重大な影響を及ぼす可能性があることから、具体的な内容を早期に固め、周知徹底が図られることが期待される。

 2点目の系統の利用効率化に伴う「再エネの導入拡大」については、既に当コラムにおいても諸先生方により再三採り上げられており、その内容について筆者から特に追加すべき項目はない。一方で、実際に新ルールに基づき再エネ導入拡大が図られた場合には、優先給電ルール上、既に事業を開始しているプロジェクトと同順位となると想定されるため、出力抑制率が上昇するプロジェクトが出てくることも想定される。またN-1電制やノンファーム型接続が増加した場合には、系統混雑に伴う出力抑制も発生することになるため、出力抑制の予測方法の確立も求められる。

 現在、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会において議論が為されている情報開示の一層の促進が実現された場合、専門家による出力抑制のシミュレーションの精度が向上すると期待されることから、金融機関にとってはより将来リスクの算定が行いやすくなることが期待される。

図2 情報公開・開示の基本的な考え方(出典:経済産業省開示資料)
図2 情報公開・開示の基本的な考え方(出典:経済産業省開示資料)

 その一方で、想定される出力抑制率の上昇はプロジェクトの総借入可能額にも影響を与えうる。また、せっかく発電が可能な再エネ電源を出力抑制により有効活用しないことも不経済であろう。今後も制度設計については様々な議論が尽くされると思われるので、継続的に注視して参りたい。

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