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コラム連載 送電管理システムで世界の潮流に乗れない日本

送電管理システムで世界の潮流に乗れない日本

2018年8月30日 内藤克彦 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 日本における送電管理の議論を見ていると、送電線増強や送電管理の方法等の状況の変化に伴い、送電キャパシティに空が出ると空キャパシティへの募集が行われ、そこで決まった送電権利者は、その時点から次の状況の変化で次の空キャパシティが出るまで固定される。状況の変化に応じた空キャパシティの割り振りに際しては、潮流計算が行われることもあろう。しかし、ここでは、一度、行われた空キャパシティの割り振りが、その後、固定され、新たな発電参加者は、次の状況の変化が起こるまでしばらくは接続から締め出されるわけである。潮流計算も新たな空キャパシティの割り振りに際して一度だけ行われるのではなかろうか。このような制度運用から伺えるのは、基本的に先着優先の考え方が形を変えて温存されているということであろう。

 今世紀の初頭から欧米等の送電管理の先進国で導入されてきた方法は、このようなやり方を改善し、先着優先的な考え方を改め、常に新たな参加者が公平に送電キャパシティの割り振りの機会を得られるようにしたわけである。具体的にどのように実現しているかと言うと、米国の例を示すと以下のような手順を「毎日」踏むことでこれを実現している。

翌日一日の時刻毎の需要予測等の基本デ-タを送電管理者が公表する。
翌日一日について、発電側から送電管理者へ時刻毎の「給電offer」が提出される。これは、発電の新旧を問わず公平に受け付けられる。ちなみに、公平性を担保するために、発電所のグリッドへの物理的な新規接続は、基本的に全て送電管理者に受け付けられることになる。ここで「給電offer」とされているのは、この後のプロセスで実際に給電指令が出される発電所が選別されるからである。この後の選別のプロセスで利用するために、offerの内容として、提供できる電力とそのコスト、可能な増減の幅とそのコスト、増減に要する時間などが発電側から送電管理者へofferされる。
翌日一日について、需要側(小売事業者等)から送電管理者へ時刻毎の「需要bid」が提出される。ここでは、電力を買う側の時刻、電力量等が示されるわけである。
相対契約の処理。毎日の市場調達とは別に、短・中・長期の相対契約による需要側の電力の調達ということも当然行われている。この相対契約は、送電管理者の拘わらないところで話が進むわけであるが、契約当事者の話がまとまる段階で、送電管理者に対して送電線キャパシティの予約をすることになる。送電管理者は、このような事前に予約された送電キャパシティを給電INPUT地点での「相対offer」と需要OUTPUT地点における「相対bid」の形に形式的に分解する。
前日市場のoffer、bidの締切の後に、送電管理者は、まず、全ての需要を満たすに際して、送電制約を考えずに最もコストが安くなる「offer」を選別する。いわゆるメリットオ-ダ-による選別である。
 この時に相対契約の方は、どうなるかと言うと、そもそもメリットオ-ダ-から外れるような高額な相対契約は成立しないということであろう。また、送電予約の段階で送電管理者はFirm、Non-Firmの選択を当事者に行わせる。これは、送電制約を考慮して最終的に当該需要点において送電管理者が給電指令を出す一群の発電所からの電力調達コストを相対契約に拘わらず受け入れる場合はFirmの送電予約となり、需要点における電力供給は相対契約通りの量が保障されるが、価格は状況により高くなることを受け入れるものである。Non-Firmを選択したものは、価格の変更を受け入れない代わりに、給電の優先順位が落ちることになる。つまり、送電制約等で需要点における給電コストが上昇すると真っ先に送電予約が無効になるわけである。

図

 この辺の事情をもう少し詳しく解説すると、A発電→B需要に送る相対契約を結んでいても、途中で送電混雑により送電制約が発生すると、実際に潮流計算を行った結果B地点に供給される電力は、制約が無い時間帯では必要のないB地点最寄りのA2発電の電力を動員することとなり、「A発電価格」<「B発電価格」であれば、相対契約よりも高額の電力が供給されることになる。このような一種の電源の振り替えを許容しても供給を確保したい場合には、Firmの契約を結ぶことになる。
送電管理者は、⑤で選別されたoffer、bidの組み合わせを用いてグリッド全体で一挙に潮流計算を実施し、これらの全てのoffer、bidが、送電グリッドに上手く「収容される」かを判定する。この時に送電キャパシティ、気象条件や信頼性等の様々な観点からのチェックがなされる。
送電管理者は、⑥の潮流計算の結果、送電制約等によりoffer、bidが「うまく収まらなかった」場合には、なるべくコストが上昇しないように一部のofferの入替え調整を行い、グリッドに上手く収まるようにする。この時、⑤で選別されたofferの一部が高コストのofferに差し替えられるので、需要点での市場価格は当然高くなる。これが、いわゆる「再給電指令」(re-dispatch)である。
以上により、セットされた翌日の時刻毎のoffer、bidを前日市場の結果として送電管理者は、確定・公表する。米国のISO・RTOでは、この結果に対する修正の機会をさらに設けているところもある。
当日になって、基本的には前日市場で選定されたofferに対して、送電管理者から「給電指令」が出されるわけであるが、その際に、リアルタイムで、現実の需要・再エネ発電量等の変化を踏まえた微修正がリアルタイム市場において行われる。米国では、通常給電される電力の95%は前日市場で決定され、5%程度がリアルタイム市場で調整されている。このリアルタイム市場の結果に従い、5分間隔で前日市場の潮流計算の結果が修正され、「給電指令」に反映される。


 以上のように、送電管理の先進国では、毎日、潮流計算を行い、その時々の時々刻々の需給を反映して言わば「毎日、空キャパシティの配分を行う」という公平なグリッド運営が行われている。これを見れば理解されるように、ここには、固定的な空キャパシティの割り振りによる先着優先的な送電権利者という概念は存在しない。また、グリッド全体で毎時の「収容可能性」を判断しているので、「特定の送電区間」の管理というイメ-ジも無いことが理解できる。

 このような運営が我が国で理解されにくい理由の一つは、筆者が考えるに、このような管理においては市場管理という「経済的なファクタ-」と「信頼性の高い潮流管理」という「電気工学的なファクタ-」が複雑に組み合わされていることにもありそうである。米国等では、これらの両者を良く理解する人間が多いが、官・学・民の中の事務・技術の分業が進んでいる我が国の状況を見ていると、守旧派も新興勢力もどちらか一方に偏った理解しかできていない人が多いように見受けられる。

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