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コラム連載 EVシフト - 北欧にみる初期症状

EVシフト - 北欧にみる初期症状

2018年9月6日 加藤修一 京都大学大学院経済学研究科特任教授

メガトレンド - ICE販売中止宣言
 現在のEVシフトを巡る動きは少し過熱気味かもしれないが、背景にはさまざまの要因が絡んでいる。大きな要因の一つは大気汚染である。内燃機関(IEC)は化石燃料を燃焼する。大量燃焼による発電施設等を含めた排気ガスが、(個別規制はあっても総量規制がないために)無造作に大気に排出され、拡散し、地球規模の大気汚染により年間700万人もの犠牲を生み出している(DALY単位の統計学的数値:本コラム報告)。国際社会の脅威の一つである。有力な国際機関であるWHO、UNECEFなどからは、この外部不経済を拡大する化石燃料の「燃焼」を名指する警告が相次いだ。“隠された費用”(本コラム報告)が大きい化石燃料に対する国際世論の指摘は厳しさを増した。このような要因が後押しをして自動車政策が変貌し始めた。しかし何よりも世界各国が2015年の「パリ協定」を採択したことが大きい。その直前の2030年国連アジェンダ(SDGs)採択もそうだ。パリ協定には「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃高い水準を十分に下回るものに抑える」という「2℃目標」がある。今夏、地球上の気候変動による大災害に身震いする。悠長なことはいえない。その対応には輸送部門のEV化は必須事項である。パリ協定の採択以降、主要国の自動車エンジンに対する政策は表-1に見るように画期的な動きである。それぞれの国情に多少の違いがあるが、約1世紀にわたる内燃機関史の終焉に向けたメガトレンドである。表-1の欧州などのICE(内燃機関)の販売中止宣言(既存発売のICE車は使用可能)の意味は、ICE車の製造ラインの100%廃止、HV/PHVでさえも非製造対象にする思い切った1本化の宣言である。必要なEVシフトの電力は再エネ由来を主体としEUのエネルギー転換と合致する野心的な取り組みである。宣言自体に「Well-to-Wheel」が見あたらないことに着目する必要がある。

自動車新時代の戦略 - 複線化?
 日本は、世界で最も電動化(図-1)が進んだ国の1つとして新車販売台数の約3割(2017)を誇っている。特に今後アジア諸国を中心に自動車が増加する際に電動化技術や社会システムを共有しつつ、世界に貢献できる可能性が高いとみられている。また、政策決定・遂行に必要な知見の蓄積や共有をアジア諸国で進めるために積極的な取り組みが必要とされている。日本政府の「自動車新時代戦略会議」の審議が始まったところであるが、熱い審議に期待している。しかし最近の「中間整理」(図-1)の大枠に変更がないことを前提とするならば、2030年の普及目標と2050年の基本的な考え(図-1)については、議論の余地があるのではないか。というのもその基本的な考えには”Well-to-Wheel Zero Emission”とある。2050年の“究極のゴール“と示したなかにZero Emissionを明示しながらとどのつまりが“Well-to-Wheel”を残し、薄弱化すべき「化石燃料の燃焼」が基本の1本として、30年先の2050年まで残り続ける。多様性に富む戦略といえば聞えはよいが、一部の内燃機関の温存ではないか、とみられている。日本は勝者であったことから変革を避ける「イノベーションのジレンマ」に陥りかねないリスクを指摘されている。

表-1 各国政府関係部門等が打ち出したICE(内燃機関)の販売中止宣言など
表-1 各国政府関係部門等が打ち出したICE(内燃機関)の販売中止宣言など
注)“電動車”はxEV(エックスEV)で表しBEV・PHEV・HEV・FCEVが対象車。ICE販売中止はPHEV・HEVも対象になり“well”との関係も断つことになる。※:CARB(カルフォニア州大気資源局)の規制、導入州はワシントンDCなどや加州を含めて14州。
資料:環境省、経済産業省資源エネルギー庁、各国政府資料、Independent、Financial Times、The Guardianなどを筆者仮訳・整理・作表。

 日本は複線化により電動車(xEV)という新たな定義を頭出ししたが、電動化率100%は乗用車の温暖化効果ガス削減がBEV100%とは異なる。10%程度はガス排出を出し続ける。周辺の意見は、他の4輪以上車種(バス、トラック)は押して知るべしではないか、新しいモノサシ(xEV)は世界性を確立できるのか、多様な複線化がモノづくりを分散させることから日本の力がそがれかねない、2040年までにICE販売中止という国際的なトレンドと違和感がありはしないか、などが聞こえてくる。保守的な戦略と見られている。いずれにしても審議の最中だが、大枠は変わることはないのだろう。

図-1 政府の「自動車新時代戦略会議」の中間整理(報告)
- 「究極のゴール」自体に“Well-to-Wheel”が明示 -
図-1 政府の「自動車新時代戦略会議」の中間整理(報告)
資料:経済産業省、「自動車新時代戦略会議 中間整理」、2018年7月より抜粋。

EV導入初期と電力負荷
 各国のEVシフトに向けた動きは前述したように過熱気味である。と同時に前述した様に国家の威信をかけた政策展開や更に国際的な規格・認証制度などの自国優位を目指した国際競争力の争奪戦という熾烈な争いに突入している。だからこそ中国に技術集中のリスクを懸念しつつも日中のEV充電規格統一に乗り出したのだろう(乗用車に限らずバス・トラックを射程に入れている)。100年かけて築いてきた内燃機関主体の自動車王国の時代からおよそ30年後の2050年には「EV王国の時代」を迎えようとしている。表-1のHV規制優遇の除外が示すように一瞬の油断もできない王者決定戦ともいえる。日本の戦略は選択・集中すべきとの視点からは複線化戦略に対して議論がくすぶる。一方、北欧のEV先進国は普及拡大をダイナミックに進めている。しかし何事にも導入の初期には多くの基本的な支障が生じるものである。特にEVの燃料は電力網との接続が基本である。EVの導入から普及拡大は電力需要を増大させ電力網に新たな負荷をもたらす。北欧において今やEVは、一般の人々が日常的に利用する乗用車である。家庭、職場、リクレーションである。電力網でいえば、充電時に家庭内の配電線や屋外の配電網との接続になる。負荷増大に伴う支障は特に身近の配電線・配電網に生じる。この点は今日の日本ではまだ関心を呼ぶものではない。前述した様にEVシフトが大きな関心事であることは確かではあるが、このレベルの話は少し先かも知れない。将来のEV普及拡大において、このEV接続が電力網、特に直接接続することになる屋内の配電線や配電網にいかなる負荷を与えることになるのか。特に普及拡大に伴う電力網に生じる影響について、どのようなことが想定できるのか、スマートな運用による電力網の負荷軽減も考えられる。ハード的には、配電網の配電線⇒柱状トランス⇒引き込み線⇒引き込み口⇒屋内配線⇒ソケットや電気製品用機器のコンセントとの接続となる。特に配電網などに生じる負荷は運用による対応策が優先されるが、それが困難の場合には、以上の流れの中のボトルネックについてインフラ増強によるアップグレイドを含むことにもなる。その場合には、それなりの投資も必要となり、普及拡大シナリオに応じた事前の段階で長期的な計画的対応が避けられない。

北欧諸国 - EV普及率2%と初期症状?
 内燃機関の新車販売禁止の動きはそもそも2016年の初頭に北欧からスタートした。基軸となっているEVシフトに関しても北欧3ヶ国は既に2009年に13ヶ国からなる政府において、EV普及拡大のためのイニシャティヴ「EVI:Electric Vehicles Initiative」の採択を行った。その後、EVIを更新した13ヶ国のクリーンエネルギー関係大臣による野心的な国際的仕組み「The EV30@30 campaign」(2017、表-1)が採択され、乗用車に限らずバスなどを含めた総合計EVの普及率を2030年までに30%達成を目指している。今日のノルウェーは導入加速がついている。2017年の販売乗用車の52%がEVとハイブリッドカーが初めて半分を超えた画期的な年になった(ロイター報道)。このような速い動きを考え合わせると、前述したような今までは初期症状が深刻でないにして、事前的な取り組みが必要となろう。これ以降の記述については、IEAや関係報告書等を通じて、現在生じている初期症状を紹介する。

 EV先進国といわれる北欧である。EV25万台(BEV+PHEV)、普及率は2%程度に及ぶが、未だ初期段階である。日常的に電力網、特に配電網と接続している部分でEVが電力網に与える影響をとりあげることは確かに多少先走っているかもしれない。北欧諸国は、厳冬期には特に電力需要が大きくなることから電力インフラ整備が進んでおり、電力網の容量が十分整備されてもいる(図-2)。従って、現状の送電網において、EV普及による深刻な支障はでていない。また配電網についても今日までに取り立てて大きな支障はなく、EV普及による影響を吸収できているかのようである。しかしごく最近になってEVの普及拡大が進む中で一部において支障が生じていることが報告されている。地域の普及程度と使用頻度に対応して、時間的・地域的な濃淡がみられる。その多くは人口密度の高い都市や娯楽・観光地域と未だ限定的ではある。特に休日や週末に大量の観光客などが集中する地域に偏った症状である。休日から平日の円滑利用や観光地からの帰宅用のために充電ラッシュがおこり、過負荷そしてその悪影響が生じはじめている。普及過程における初期症状である。

北欧住宅に新たな負荷
 北欧諸国のごく普通の戸建住宅は、電力接続最大容量はかなり大きく、9〜12kW(図-2の青、水色線)。典型的な集合住宅は約6kWであり、付帯施設の駐車場はごく普通でEV専用駐車場はない。イタリアなどの南ヨーロッパ諸国の家庭の平均電力は、一戸当たり約3.3kW、スペインは約5kWと比較して北欧はかなり大きい。最新のEVの家庭用充電器は、出力が通常3〜7kWと決して小さくない。これはEV保有家庭に大きな負荷を及ぼす(図-2)。大きな負荷に電力需要管理(スマートチャージ)が適正でないと、EV充電時の電力増が、配電網の最大電力を超えかねない。EV保有者は自宅のピーク電力、電力最大容量を超えないよう努力するでしょうが、EV保有者の集団の行動はアトランダムである。配電網の過負荷に対応して最適性が保障されているわけではない。一方、週末に一斉の同一行動が充電ラッシュになる。有名な充電ラッシュはノルウェーの木曜日夜間に発生している。リモコンによるタイマー充電予約である。このような事態は、配電網の運用量が容量に近いピーク時間帯やまた電力を多く消費する厳寒時期、更には配電網の容量などが小規模の地域では特に重要な問題である。実際にノルウェーの一部のEV所有者は自宅での充電にいくつかの支障に直面している。例えば、十分な容量がない所有者において、BEV所有者の17%、PHEV所有者の31%に支障が生じている。しかも、BEV所有者の14%、PHEV所有者の25%がケーブル損傷を経験している。また調査対象者の約2%が、充電ソケットの焼き焦げを経験している。この様な事故は必ずしも大きな事故ではないが火災を起こしかねないリスクがある。今でさえBEVに限定すると住宅ソケットを利用する住宅が63%(図-3)と多く、今後、EVが増加してくることから火災リスクは増す。懸念すべき症状である。一般住宅のソケットは長期的な繰り返し使用には適していない。図-3によるとBEVの場合、自宅充電の際に専用の充電器使用は全体の31%と住宅ソケットの半分と少ないが、出力は7~22KWと大きい。このようにEV導入において基本的な不具合が生じており、充電器は住宅の電力容量に過負荷を与えている。特に厳寒時のピーク時間が問題となる。その負荷(EV負荷が無い場合)は夏季日と比較して約3倍の開きがある。EV導入の負荷が加算される。特に厳冬期である。EV充電器の増加量に対応して適切に運用管理されなければ、配電網にも相当のストレスを与えかねない。以上のような初期症状は、日本では全く知られていない(もっとも日本のEV普及率は全く北欧の比ではなく当面このような支障は考えられない)が、リードタイムが必要な電力インフラの整備計画には考慮すべきことである。

図-2  ピーク電力需要の3季節変動(黄緑)とEVの充電負荷
(ノルウェー)
図-2  ピーク電力需要の3季節変動(黄緑)とEVの充電負荷
注)BEVとPHEVの車載蓄電容量は、最新のモデルであるVolkswagen e-Golf(BEV)、Volkswagen Passat GTE(PHEV)による。
東電の契約アンペア7段階(但し100V)の内、3~6KW未満が54%を占める(東電資料、2012年)。
現在、日本の多くの世帯に単相3線式の交流(100V・200V)が配電されておりEVは200V使用。
資料:Kipping and Tromborg論文等によりIEA分析、これを元に筆者仮訳・加筆・整理。

図-3  BEVの自宅充電 - 選択率63%と高いがリスクがある“一般住宅のソケット” 
図-3  BEVの自宅充電 - 選択率63%と高いがリスクがある“一般住宅のソケット” 
注)図中のnは、回答数
資料:Norwegian EV owner survey 2017より、筆者仮訳加筆・整表。

配電網等のアップグレイド - 影響分析
 北欧の家庭の配電線の容量不足は早晩アップグレイドが必要となるであろう。更にはEV充電器の導入・増加に伴って生じる地域配電網の過負荷対策が生じ、需要管理(DSM)の導入などによる軽減策や配電変圧器やケーブルの交換による電力網のアップグレイドが必要となる。ノルウェーの水資源エネルギー局(NVE)は、既に配電網の変圧器の数%が過負荷にあり、一般世帯当たりの平均電力が1〜2kW増加すると変圧器の約10%が過負荷と分析している(表-2)。5kW増加の場合は、変圧器の30%以上が過負荷状態で、更に交換必要な高電圧ケーブルの割合は変圧器よりも小さい(5kWでは10%をわずかに上回っている)。しかし変圧器の交換よりもケーブルの過負荷の支障の影響が大きく交換費用は高額になる。特に配電網のケーブル更新は急がれており、その分の費用も増加する。特に地下ケーブルの更新費用は大きい。このような支障の発生にノルウェーの6事業者は緩和充電器や高速充電器の負荷によって生じる配電網に対する影響分析を綿密に行っている。調査は、EV充電器による大きな電圧偏差を精査することであるが、測定試験には異なる車種EV5台とEV15台をプールにして同時充電を行った結果、緩速充電や急速充電の両ケースについて、充電場所の試験所内でフリッカー(照明機器のちらつき)が生じたが、所外に支障は生じなかった。ノルウェーの配電網の低圧部分は約70%が230Vであり、残りが400Vの2タイプである。その配電網とEVの接続試験の結果は、高電流と電圧降下が生じたこともわかっている。以上の症状は、全く無視できる状況ではなく、精査を行い今後のEV普及速度に応じたアップグレイドの有無の検証が必要であろう。

表-2  一般住宅:配電網の変圧器が既に数%過負荷状態ある場合 - 過負荷増(KW)による悪影響


ノルウェー:「2030年150万台シナリオ」と過負荷
 北欧諸国の現状のEV保有率は未だ2%と小さいが、ほぼ10年後の2030年には、8倍の約400万台を目指している。ノルウェーは、既に10万台を超え、現況と比較して15倍増のシナリオである。今日、周辺において多少の支障があるものの配電網のピーク負荷時における運用管理が十分可能と考えられている。しかし、規制当局(NVE)と電力網運用者(TSO、DNO)は慎重に対応をとるべきと考えている。現在、住宅内の充電器(CP:チャージング ポイント)はほとんどが緩速充電器(単相3kWまで充電)である。最新のBEVモデルはより高い充電電力(7kW以上)が必要である。更に最近は、急速充電器(最大150kW)と高出力充電器(350kW)が増え、複数のコンセントを持つ高速充電器の導入例もある。今後、EV普及率は拡大するので地域の配電網や送電網容量を強化する必要がある。デンマークは、EV10万台(5%普及率)に対応する電力網を検討しており、5%を上回る普及率は電力網の信頼性に支障が生じると分析している。デンマークは2020年から2025年の間に以上と同様の判断を示している(図-4)。6kW専用充電器と組み合わせたEV20%普及率(EV40万台)には、全電力網に過負荷が生じ400V電力網は電圧不足が生じるとの分析結果を得ている。

 一方、ノルウェーの電力市場規制者であるNVEは、2030年にEV150万台導入シナリオを策定している。総電力需要量の増加分は年間で約4TWhになる。家庭のピーク負荷に平均1kWを加えると、配電変圧器の約4%が過負荷状態になり、ピーク負荷が5kW増加すると30%以上が過負荷(NVE、2016b)になる。配電網の薄弱な地域では、高水準のEV充電時には電圧低下の可能性があるが、その数値的予測は難しい。平均的なEV導入については電力網が対応できるが、グリッド容量の低い地域(休暇村などの小集落地域など)では初期症状が発生している。しかし、深刻な問題では無いものの基本的なハード面の対応を欠いてはならない。昨年、「ノルデックEVサミット2017」が開催されたが、気候変動大臣(Ola Elvestuen)は2030年目標を確実に達成するために政策の継続を改めて強調した。これは単なる政治的発言ではない。税制、補助金、規制緩和などの先進的な制度からなる堅実な政策、アクションプランに裏打ちされた発言である。2025年までにEV100%導入を目指すノルウェーの動きから目を離せない。

図-4 世界の実験場 ― 北欧諸国における2030年に向けたEV導入シナリオ(累積台数、百万台)
- 現況の市場開発に基づいたEV・気候変動政策による50万から8倍の400万台へ -
図-4 世界の実験場 ― 北欧諸国における2030年に向けたEV導入シナリオ(累積台数、百万台)
資料:IEA資料、「Nordic EV Outlook 2018-Insights from leaders in electric mobility」より、筆者仮訳・加筆など。


超急速・高出力充電器の出現
 公共的な充電施設の整備についても同様に電力網に追加的な負荷を招く。緩和充電器は、既に密集した都市部に設置され、急速充電器や超高速充電網も遠隔地や高速道路に設置され始めている。急速充電器の容量は、ほとんどの高速充電器は50kWを超えない。しかし今後、数年でさらに超急速・高出力充電器が出現する。VW社など4社によるジョイントベンチャー企業であるイノニティ社(Ionity)は、現在350kWの高出力充電器の設置を欧州大(当面400ヶ所)に進めている。EV普及・拡大には航続距離や充電時間が現状の課題であるが、この欧州大の整備は、150キロメートルを走行可能な電力量を5分間で充電できる。高速道路などの主要幹線道路に設置し、長距離移動の不安を取り除くものである。高出力対応してEV直流充電器用コネク付ケーブル(600V・200A、住友電気工業)が「CHAdeMO」国際基準仕様で北米「UL認証」、EU「CE認証」の安全規格を得て市場化になる。近い将来電気自動車・トラック等の大容量電池には500KW超が必要となる。実際に日中が2020年にEV充電器の規格統一を目指すのは正にこの分野である。このような超急速・高出力充電器の広範囲の整備は、電力網の負荷混乱を生じかねない。混乱回避の一つは最先端技術による“本来的な現場蓄電(in-situ electricity storage)”などの解決策も必要となる。V2Xもある。自宅の太陽光発電をEVに充電して利用する自産自消など(PV→V2H、V2G)があり得る。高出力充電が地方の配電網に与える影響は決して小さくないようであるが、全国レベルの電力網が大きな影響を受けることはないとの分析結果がでている。基本的に急速充電は、電力需要を調整するための柔軟性がほとんどないが、EV所有者の多くは、頻繁に急速充電器を使用しているわけでもない。調査によると、ノルウェーのEV所有者の1%程度しか毎日高速充電器を使用していない。この同じEV所有者層が2030年においても同様の行動を行い、2時間帯(17:00〜19:00)にフル充電するものと仮定した場合、その追加容量はノルウェー全体で60メガワット(MW)程度である。この数値は現在設置されている充電器総容量(図-5)の0.2%相当に過ぎない(但し、この試算は充電が2時間の中で均等に分布し全て35kWhの充電器による6分間継続充電を前提としている)。

図-5 ノルウェーの緩速充電器(青)、急速充電器(赤)等の設置数
図-5 ノルウェーの緩速充電器(青)、急速充電器(赤)等の設置数
資料:欧州委員会(EC)の下部組織であるEAFO(European Alternative Fuels Observatory)より、筆者仮訳一部加筆。

日本への示唆など 
 以上、EV導入期における配電網との接続部で起こる症状、特にハード面の初期症状を紹介した。過負荷に伴う電圧安定性、信頼性、電力損失、経済損失に与える詳細な影響解析を検証する必要がある。この過負荷については、そもそもソフト面における電力負荷変動に対応する運用管理やV2Gなどによる検討、また固定電気料金体系が主体であるアイスランドのような社会では、遅延充電やピークシェービングの導入は制約をうけるが、スマートメーターを通じたICTによるインテリジェントなDEP(Dynamic Electricity Pricing)等のソフト的な対応が考えられる。特にノルウェーについては柔軟な貯水型ダム発電や揚水型ダム発電の利用もあり得る。日本のEV普及率は北欧諸国と比較にならないが、以上の初期症状は、数十年後の日本において、省エネ・人口減は進むものの、一方で“集住”が進むことから電力インフラの長期的整備計画において考慮すべき点であろう。今後、運用管理やチャジーポイントオペレータ(CPO)の役割などについて、ソフト的な面における初期的事案について報告する。

(1)
OECD/IEA,「Nordic EV Outlook 2018-Insights from leaders in electric mobility」
(2)
Seljeseth, H., Taxt, H. and Solvang, T. (2013), “Measurements of network impact from electric vehicles during slow and fast charging“, 22nd International Conference and Exhibition on Electricity Distribution, Stockholm
(3)
Norsk Elbilforening、(2017), “Norwegian EV owner survey 2017”, Norsk Elbilforening
(4)
Sanchari Deb et al.(2018), Impact of Electric Vehicle Charging Station Load on Distribution Network, energies
(5)
Erik Lorentzen et al. (2017), Charging infrastructure experiences in Norway – the worlds most advanced EV market, EVS30 Symposium Stuttgart, Germany, October 9 – 11, 2017
(6)
経済産業省、「自動車新時代戦略会議 中間整理」、2018年7月。


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