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コラム連載 エネルギ-基本計画考察⑧:再エネは最大の省エネ策

エネルギ-基本計画考察⑧:再エネは最大の省エネ策

2018年9月20日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 本コラムにおいて、エネルギ-基本計画考察をシリーズでアップしてきたが、今回は、省エネ政策について取り上げる。省エネは最重要政策の一つである。自国民が対応するという意味で国内発(国産)である、燃料消費を減らすという意味でゼロエミッションである、そして一般に低コストの対策とされる。エネルギ-政策を考える際にまずは需要予想を行い、それに省エネを織り込んで正味の需要を算出し、それを基に最適な供給(ミックス)を考える。

 日本において省エネとは常に需要家サイドで実施する、努力すべきものであった。もったいない、節約の精神である。それは重要で、不可欠で、尊いものであるが、それだけではない。供給側、メーカー側で対応できるものも多い。供給側には燃料消費を伴わない再エネがあり、これを利用する発想が重要になる。再エネのもつ省エネ効果について考察する。

1.長期需給見通しにみる省エネ
 資料1は、長期需給見通し(2015/7)にみる最終消費量と発電電力量の見通しである。この数字は、今回も生きている。2030年目標値が変わっていないからだ。改めて、3年(計画策定からは4年)を経過し、需要を含んで数字を見直さないことの大胆さを感じる。

資料1.長期需給見通し(15/7):最終需要と1次エネルギ-ミックス

 左の図は2013年の最終エネルギー消費であり、この需要がどの程度伸びるかは、経済成長の影響を受ける。経済成長は年間1.7%と、当時のアベノミクスの影響を受けかなり高い伸びを前提としている。これを徹底した省エネにより、全体で13%減らす。この徹底した省エネにより高成長率というゲタをある程度カバーしたと思われるが、その分省エネ効果の信ぴょう性を低めている。いずれにしても、省エネは最終消費の議論となる。

 そして右側の1次エネルギ-の結果が出てくる。最終消費の節減がどういう経路を経て1次エネルギ-の減少に結び付くのか説明がない。「最終消費」と「1次」エネルギ-の間にはエネルギ-「転換」領域があり、ここの解説が十分でないことから、川上から川下まで通したエネルギ-全体の効率化実現が分かり難くなっている。我が国は、省エネの議論は常に最終消費に関することであり、1次エネルギー効率化という発想は出てこない。電力ロスが目立たないような配慮が働いていると思われる。

2.エネルギ-バランス表にみる再エネ活用の有効性-再エネ普及は最大の省エネ対策-
【発電ロスを削減する効果】
 エネルギーバランス表から、「再エネ発電や節電による省エネ効果」を考えてみる。エネルギ-バランス表は、日本の経済・生活の活動状況を支えるエネルギ-について調達(1次)、転換(2次)、最終消費と、川上から川下への3段階に分けて、その動向をエネルギ-量(ジュール)で示したものである。毎年公表されているが、資料2は2015年版を表として整理したものである。

資料2.エネルギ-バランス表概要(2015年度)

 現在、日本は1次エネルギーの9割は化石燃料である。2015年の1次エネルギ-の割合を見てみると、天然ガス、石油、石炭の化石燃料で9割強を占めている。原子力が0.3%しかないということが効いてはいる。

 また、1次エネルギーの約4割は発電用に使われている。火力発電全体のエネルギー効率は約4割で、石炭は33%~35%と低い。これは発電所内での消費量も入っている(所内率)。電気1をつくるのに、例えば火力だと2.5の燃料を使っている。石炭だと3.0の燃料消費を使っている。一方で、再エネ発電は、燃料費はゼロである。従って、再エネで火力を代替すると、250%~300%の化石燃料削減効果があるということになる。節電は、使用するはずの電力を使わないという意味で、やはり燃料消費を伴わない負の発電であり(ネガワット)、再エネと同様の効果がある。節電や再エネ発電で火力を置き換えると劇的に省エネ効果が生まれることになる。この発想は、日本ではこれまであまりなかった。

【ロスの大きい資源が存在感を持つというパラドックス】
 なお、第5次計画を通して何回か「将来においても1次エネルギ-に占める再エネの割合は低い、化石資源は大きい」との記述が登場する。これはミスリードしやすい。1次エネルギ-における再エネは基本的に2次エネルギ-である電気の数値がそのまま使われており、見た目は小さくなる。一方、化石資源の多くは発電用の燃料となるが、これは発電時に生じる6割ものロスが含まれる。非効率な方が資源としての存在感が大きいということになるが、こうした見方は改めるべきだ。火力発電を再エネ発電に代替すると1次エネルギ-全体の量は劇的に減ることになる。

【運輸ロスを削減する効果】
 転換から最終消費に移るときに、エネルギ-が32%減少している。転換とくに発電に伴うロスが大きいからである。

 また、運輸のところのロスも問題である。エネルギ-バランス表にはこのロスは明示されていない。昔の表には出ていたが、いつの間にかなくなった。ガソリン、ティーゼルを使用する内燃機関の場合、運動エネルギ-に転換する効率は10~15%と非常に低い。残りは熱として発散してしまう。ここの効率を上げることが省エネに大きく寄与する。

 運輸の省エネで注目を集めているのは電動化である。電気自動車の省エネ効果は大きい。内燃機関の効率は10~15%だが、ハイブリッドだと2割強になる。EVでは、電源が石炭だと20%、天然ガスだと30%、再エネだと60%の効率となる。電気をつくるときの発電効率について、石炭33%、ガス50%、再エネ100%を前提とすると、このような計算になる。自動車の省エネについて考えると、再エネ電力を利用することが極めて有効になる。電気自動車に転換するだけでは不十分である。電気が全て石炭からできている場合は、効果は限られる。なお、車両の効率性については多くの数字があり、ここでは筆者の判断で各種情報を基にザックリとした数字を使用している。

 EUが戦略として再エネ由来電力を増やそうとしている理由はここにもある。1次エネルギーの化石燃料をいかに減らすか、そのためには火力発電を燃料フリーの再エネで代替する効果が大きい。これは、エネルギ-ロスの削減すなわち省エネ効果である。また、電動化による運輸の省エネ効果に再エネ電力は大きく寄与する。

【求められる発想の転換】
 特に日本においては、節約は美徳であり、消費側は真面目に省エネに取組んできた。省エネ機器やシステムの開発をも誘発し、競争力強化に寄与する側面もあった。今後も消費者の意識が重要であることは論を待たない。しかし、パリ協定の遵守を目指し、ゼロエミを目標とする場合は、節約、省エネ機器開発だけは、達成は不可能であり、また消費サイドに過度の負担を強いることになる。供給サイド自身がゼロエミを目指すことが不可欠となる。特に燃料を使用しないあるいはコストゼロの資源を利用できる手段をもつ電力については、その生産過程でゼロエミを目指すことが不可欠になる。それは、産業の競争力や生活者の満足度を維持する上でも重要になる。

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