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コラム連載 【3回目の強制停電で力尽きる?準備シナリオの何が不十分だったのか/北海道の全域停電】

【3回目の強制停電で力尽きる?準備シナリオの何が不十分だったのか/北海道の全域停電】

2018年9月27日 竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 9月6日未明に起きた北海道胆振東部地震による停電は、前例のない「1つの電力会社全域での停電=ブラックアウト」となった。地震直後、発電所の損傷による供給力低下に対し、一定地域を負荷遮断(強制停電)して「供給と需要をバランスさせる作業」で乗り切ろうとしたが、地震後18分後の3回目の負荷遮断がなぜか失敗し、全域停電に至ったことが分かった。想定した脱落の規模、準備していた負荷遮断の上限量がもう少し多ければ、ブラックアウトが回避された可能性もある。

 全域停電を起こした責任は大きい。電力広域的運営推進機関(広域機関、OCCTO)は検証作業を始めた。「全域停電に至るまでの間、何が発生したのか」「準備シナリオにおいて何が不十分だったのか」などが焦点になる。

◇「脱落したら一定地域を強制停電にして負荷を落とす」が常識
 9月6日午前3:07の地震発生時、北海道全体の電力需要は約310万kW。うち約半分を苫東厚真発電所に頼っていた。当時の実際の運転状況は、
1号機が34万kW(定格は35万kW)、
2号機は56万kW(定格60万kW)、
4号機は60万kW(定格70万kW)だった。3号機は停止中。

 つまり、道内の全需要(310万kW)のうち48%の150万kWを苫東厚真に依存し、地震による2号機、4号機の停止で、37%にあたる116万kWが脱落した。ほかの発電所の停止もあり、計181万kWの供給が脱落した。

 「発電所が脱落したら、即座にその分の負荷を落とす」。これが大停電を避ける常識だという。それができたのか。OCCTOは、地震後の電気の流れと、何が起きたのかを推測した図1「地震直後の周波数と北本連系線の動き」を公表した。その図を参考に説明する。

図1「地震直後の周波数と北本連系線の動き」(OCCTOによる)
図1「地震直後の周波数と北本連系線の動き」(OCCTOによる)

◇供給脱落181万kW、負荷遮断143万kW、北本連系線も60万kW供給
 地震発生まで、北本連系線を通じて、東北電力側から北海道に約10万kWの電気が供給されていた。(青いギザギザの線)。北海道内における需要と供給がバランスし、周波数は50ヘルツで安定していた。(赤い線)

3:07 地震発生。苫東厚真だけでも116万kWの供給が止まり、周波数は46ヘルツ近くまで急降下した。

3:08 1回目の負荷遮断(一定地域を強制停電)
同時に北本が緊急供給を開始し、いったんは目いっぱいの60万kWを供給するが、すぐ元に戻り、今度は3:11まで徐々に供給をあげ、3:11で目いっぱいの60万kWになる。

図2「地震直後の概観」(OCCTO資料から)
図2「地震直後の概観」(OCCTO資料から)

 (図2「地震直後の概観」によると地震直後に起きたのは、181万kWの供給減、それに対して143万kWの負荷遮断、北本連系線からの60万kWの供給《もともと10万kWを受けていたので実質は50万kWか?》で対処した)

3:09~3:11 需給バランスを回復

3:11~3:21 需要が増えて不安定な状態が続く。北本からの供給は60万kWが続く。何とか需給バランスをとる試みが続くが、なかなか50ヘルツに戻らない状況が続く。

3:21 動いていた苫東厚真1号機の出力が落ちてくる。
3:22 苫東厚真1号機の出力低下のため、需要と供給が合わなくなる。
3:22 2回目の負荷遮断。2回目の負荷遮断で(強制停電地域は広がったはずだが)、需要・供給バランスは持ち直す。周波数も50ヘルツに近づく。

3:25 しかし、苫東厚真1号機の出力が落ち、停止する。
3回目の負荷遮断。うまくいかず、他の発電所(知内、伊達、奈井江)も停止し、ブラックアウトへ。

写真「北本連系線の北海道側施設・古川ケーブルヘッド」
写真「北本連系線の北海道側施設・古川ケーブルヘッド」


◇住民は飛び起き、テレビ、照明を付けた?
 このグラフをみれば、電力システムが強制的な負荷遮断を繰り返して需要と供給をバランスさせ、大規模停電を避ける方向で働いていたことが分かる。本州と北海道を60万kWで結んでいる北本連系線も機能した。写真「北本連系線の北海道側施設・古川ケーブルヘッド」を参考。地震直後はめまぐるしい動きになったが、3:11以降は、ほぼ「60万kWの供給」を続けた。(青い線)。しかし、その間も停電に至るまで、需要に供給力が追い付かない状況だったと思われ、周波数(赤い線)はほぼ50ヘルツを下回っていた。

 3:11には周波数が突然、下がっている。原因は需要の上昇。経産省は「住民がテレビや照明をつけたのだろう」と推測している。地震発生は午前3:07。住民は飛び起き、まず照明をつけ、テレビのスイッチを入れただろう。こうした行為も系統の不安定を増すほど不安定な状況だったようだ。

◇明らかにすべきこと、議論すべきこと
 経産省やOCCTOの分析によって大まかなことは分かったが、まだはっきりしないことも多い。停電回避の準備・システムに弱点はなかったのか、人為的な作業での失敗はなかったのかも検証されなければならない。

 《3時25分に何が起きたか?》
 3:25前後には苫東厚真1号機の脱落、ほかの3カ所の発電所の脱落、3回目の負荷遮断、北本からの電力供給のストップなど多くの事象が起きている。これらは何が原因で何が結果なのか、起きた順番は?

 《負荷遮断の準備量が少なすぎた?》
 苫東厚真1号機の出力低下に対応するため、3:25ごろ、3回目の負荷遮断が行われたが、うまくいかなかった。「準備していた負荷遮断の量が出尽くした」との見方が強い。北電が想定していた強制遮断の上限が146万kWだったという報道もある。少なすぎたのか?

 《発電所の稼働状況、バランスは適切だったか》
 地震時、道内の全需要の48%を苫東厚真発電所一か所に依存していた。多くの人が「集中的依存の失敗」と指摘している。大規模な発電所を運転するほうが小さな発電所を分散的に使うより経済的だから、といわれる。

 《原発が動いていたら?》
 「泊原発(3基、計207万kW)が動いていたら全域停電はまぬかれた」との議論がある。もし一基でも動いていたら、大停電をまぬかれたことは確か。しかし、「原発が動いていて、そこに大きな揺れが来る地震だったらどうなったか?」の議論もある。原発は壊れにくいが、安全のため割と軽い揺れでも停止する。一気に止まれば、やはり大規模な脱落になる。検証委ではどう議論するか。

 《北本を使い、本州に常時60万kWを流していたら?》
 北海道の系統は孤立的。本州と北海道を結ぶ北本連系線が細すぎるとの指摘は多い。それは確かだ。建設中の30万kWの新たな連系線が完成すれば、状況は改善される。
 しかし、連系線が日ごろほとんど使用されていないことも大きな問題。そこで、本当に停電リスクをなくす方法として、「北海道では風車を増やすなどで余剰発電し、常時、60万kWを東北、東京方面に流すようにしておく」との案がある。急な供給不足が起きたら、南への流れを止め、さらに南から60万kWを送れば合計120万kWの供給になる、ということだ。「北本が細い」だけの議論では不十分だ。

 《水力発電の電力系統への接続が続いていれば大停電は回避?》
 地震直後に道東地域と北見地域が停電したのは、揺れによる送電線の損傷らしい。域内では水力が43万kWの発電をしていた。需要は13万kWと少なかったので、もし送電線が壊れず、水力発電が全体の電力系統に接続していたら、全域停電は回避できたかも知れない。詳細調査が必要。

◇分散型電源を有効に生かすには
 《風力は17万kWの発電をしていたのだが?》
 地震直前17万kWの発電をしていた風力も停止した。「周波数の低下」が理由だ。系統から切り離された形になり、少しでも供給力を得て大停電を回避したいときに、役立たなかった。問題は系統の設計と運用だ。水力や風力、太陽光発電などせっかくの分散型の電源をいざというとき、停電回避に生かせる仕組みが必要だ。

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