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コラム連載 ブラックアウトと再エネ意義

ブラックアウトと再エネ意義

2018年10月11日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 9月6日に発生した北海道ブラックアウトから一カ月を経過した。電力広域的運用機関をはじめとして、その原因解明に向けた作業が進められている。本コラムでも2人のコラム筆者が2週続けてこのテーマを取り上げてきた。今回は、再エネ発電の意義と分散型の運用について考察する。

【再エネは事故時には役に立たないのか】
 北海道ブラックアウトと再エネ発電の関係について、多くの議論が出ている。批判的な見方は以下のように、多くの再エネ設備が開発されたのに全く役に立たなかったとするものである。
太陽光は夜には稼働しない。
17万kW発電していた風力は直ぐにシャットダウンした。
供給回復時には、その不安定性ゆえに太陽光、風力は連系に際し劣後扱いされた。
一定の調整力回復を待つ必要がありそれに約1週間を要した。

 一方で、緊急時を含めて再エネを利用するシステムとなっていないのが問題であり、宝の持ち腐れとなったとの意見もある。報道によると電事連会長はそのような趣旨の発言をされたとのこと。業界としては珍しく従来の考えに走らずまともな見解だと感じた。

【ブラックアウト時の運用】
 本件、次のように考える。まず、全エリアが停電するブラックアウトが生じてしまったという事実がある。こうなってしまった以上、変動再エネ電源(VRE)の立ち上げには慎重を要する。ブラックアウトは防げなかったのかという議論が先に来る。9電力体制誕生から最初のブラックアウトであり、こうした未曽有の事態は稀有の事象で、起こってしまった以上変動電源を含めて影響を甘受せざるをえない。

【緊急時の調整力と運用:大きい水力停止の影響】
 次に、緊急時・復旧時における調整力の考え方、運用などの問題を検討する必要がある。一般に調整力は様々な技術・設備が担いうるが、今回のような緊急時では量的にもシステム設計的にも火力、水力に依存する。特に瞬時の発電が可能な貯水式水力の活躍が期待されるところだが、京極揚水発電所1・2号機計40万kWは止まっていた。定検中、修繕中との報道があった。道東地域は、道央・道東間を結ぶ送電線3ルート計65万kWがダウンしたことから(メンテ不足との報道もある)、43万kWもの水力発電が使用不能となった(資料参照)。これらが利用できればVRE活躍の幅は大きく広がる。単純に数字を比較すると、当時発電していた風力発電の出力17万kWを上回っている。

資料 地震発生直後の道東エリア水力発電停止

【集権型と分散型】
 VREは変動するから「半人前」と評する向きもあるが、エネルギ-的には燃料費ゼロの安い電力であり、CO2を排出せず、最大限の利用が望まれる。世界のトレンドでもある。系統運用は、定常時は多様な調整力を市場取引経由にて活用できる。また、VRE自身もインバータ制御により周波数による需給調整に寄与でき、欧州では一部規格化されている。

 「中央集権型」の運用では、「定常運用」→「緊急運用(事故対応)」→「復旧運用」→「定常運用」といったシステム運用が図られている。事故時は、「強制停電(負荷遮断)」により分割されたエリアを作り、緊急状態で許容できる拡張された変動内で需給がバランスできるように「緊急運用」される。北海道の場合、周波数や電圧変動に強い水力が復旧の種火(ブラックスタート)に使用されたと想像される。「分散型」においてもこうした運用の考え方を検討し、構築を目指すことが重要になる。

【自律型マイクログリッドの構築を目指して】
 システム設計であるが、中央集権型から分散型に変更して、地産地消とともに緊急時に独立運転ができるようにすべきだ、という議論は3.11以降多くある。少なくとも「分散型システム」との言葉は政府を含めて市民権を得ている。基本は、纏まりのあるエリア毎にいざというときに独立運転が可能な「自律型マイクログリッド」といった設計にしておくことである。そのブロックの核は発電所あるいは変電所であり、柔軟性をもつ一定量の水力、火力、自家発、ごみ発電を含むバイオマス発電等が不可欠となる。そこで豊富に存在するVREが活躍する。

【北海道をモデル地区に】
 北海道は、いまは中央集権の設計であるが、自然に恵まれVREのみならず水力、バイオマス(ゴミ、バイオガス等)、自家発等の核となる柔軟性を持つ分散型資源は豊富にある。それと、広大な大地を利用したストレージ(ミニ揚水、圧縮空気、フライホィール、バッテリー)とを組み合わせて、地域自律型電力供給システムの開発も検討できるだろう。自立型ストレージにより、緊急時を含めてVREの活用は進むと考えられる。

 10月5日付の各紙朝刊に、国内風力発電最大手のユーラスグループが稚内市およびその近辺に総延長78Kmの送電線建設に着手する、との報道があった。72万kW時/24万kWの世界最大級の蓄電設備を伴うものであり、これに連系する60万kWもの新規風力発電の安定出力に寄与するとともに、緊急時の運用対策としても期待される。

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