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コラム連載 エネルギ-基本計画考察⑨:総括、50年整理は「補論」

エネルギ-基本計画考察⑨:総括、50年整理は「補論」

2018年10月18日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 本コラムにおいて、エネルギ-基本計画考察をシリーズでアップしてきたが、今回は、2050年断面における議論を整理し、計画全体を総括する。

【第5次は2030年の計画】
 第5次エネルギ-基本計画は、7月3日に閣議決定されたが、全体で3章、105頁から成る。構成は第1章「構造的課題と情勢変化、政策の時間軸」、第2章「2030年に向けた基本的な方針と政策対応」、第3章「2050年に向けたエネルギ-転換・脱炭素化への挑戦」である。

 第2章が81頁を占め、主役であることが分かる。今次基本計画は、2030年断面における在り方、目標を決めるものであり、これは十分理解できる。同章の第2節はエネルギ-源毎の位置づけ、政策の方が簡潔に整理されている。「再生可能エネルギ-は重要な低炭素の国産エネルギ-源」「原子力は重要なベースロード電源」「石炭は重要なベースロード電源の燃料」等の第4次と同一の基本計画を象徴するような表現が並ぶ。なかでも、第2章の第3節にて解説される11項目の「政策対応」は61頁にもおよび、最も重要な位置づけになっている(資料1)。目標を達成するための具体的な手段を記しており、これも理解できる。

資料1.第5次エネルギ-基本計画 目次

【2030年は前回と不変だが首肯する点も散見】
 この2030年目標は、メティア等で言い尽くされた感もあるが、前回と目標値は同一で基本的な位置づけや方向も不変である。これはやはり問題である。

 一方で、「原子力の位置づけは変えない」との基本枠組みのなかで、身動きが取れなかったようだ。前回から4年経過しており、再エネの爆発的普及、パリ協定締結という激震、シェール革命の現実化等の劇的ともいえる変化が生じた中で、詳細に読むと、この間の動向を踏まえた記述、首肯しうる記述も少なくない。特に、再エネの箇所は、9100万kWものFIT認定、系統接続ゼロ問題の勃発とそれへの対応等の現実が生々しくあり、また政府も「再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」等にて精力的に課題解決に向けた議論を行っており、首肯すべき整理や対策が盛り込まれている。また、資源については、前回に比べて天然ガス上げ石炭下げのニュアンスは出ている。

【2050年は「補論」だが全体のトーンに影響】
 一方、第3章の2050年断面の内容は、中身に乏しく、願望と思惑優先で科学的な分析とは言えない一方で、文章の格調が高い箇所もあり、計画全体の混乱を招いている。

 ここでの考え方は、将来の話であり革新技術の勝敗の帰趨は見えず、決め打ちせず、複数の選択肢を全てレビューしていく必要がある、というものである。また、「技術自給」が重要であり、優位性がある(であろう)水素、蓄電池、火力等大規模システムでもって世界の競争に勝っていかなければならないとする。さらに、市場化進展、再エネ普及により信頼性の高い火力発電が追い込まれ、投資回収に懸念が生じることを懸念する。

 こうした考えの下で、5つの選択肢を提示する。①再エネ、②水素、③CCS火力、④モジュール型等の革新原子力、⑤蓄電池制御の分散型資源である。将来の革新技術と結びつくことにより、2次エネルギ-の主役となる水素、分散型システムとセットの蓄電池のみならず、火力、原子力が一方の選択肢となる。これらの優劣は、今は決め切れず、常に「科学的レビュー」を行って時々刻々判断していく。

 2030年断面では、自立等の条件つきながらも再エネが主力電源に浮上し、その対策もかなり具体的である。しかし、50年断面では火力、原子力、水素、蓄電池とともに横一線の選択肢の一つに留まる。50年断面では、先進国は80%以上のエミッション削減を公約しており、比較的対策を打ちやすい電力は100%ゼロエミに近づける必要がある。現状からして再エネが真の主役になる蓋然性が極めて高い。EUのロードマップはそうなっており、2030年の再エネ目標は50~60%としている。我が国も環境省の2050年を見据えた「長期低炭素ビジョン」は同じ考えに立っている。

【政策の一貫性に疑問】
 2030年までは「道半ば」の4次計画の目標を着実に追求し、2030年以降は50年を睨んで技術の決め打ちをせずに、あらゆる選択肢を追求するとのこと。革新技術の商業化には時間を要する。再エネは既に商業化しているが、2次エネルギ-の中心となるような水素、化石資源が利用できるCCS(CO2回収貯蔵)は、このタイムラインでテイクオフできるのだろうか。モジュール型原子力を含めて、それらの技術が完成したとしても、最も安くなるとの予想が多い太陽光・風力にコスト面で対抗できるとは思えない。「世界の競争」に勝てるのだろうか。

 この3章は、分量的には少ないが、第1章を含めて、計画全体にわたり多くの箇所で引用され、先行き不透明感を醸成している。主役が何か分らないようにしている。政府が1枚紙にて整理した「概要」においては、2030年と同等の扱いを受けている(資料2)。

資料2.第5次エネルギ-基本計画の概要
資料2.第5次エネルギ-基本計画の概要1
資料2.第5次エネルギ-基本計画の概要2
(出所)資源エネルギ-庁

 さらに分かり難いのは、前述したように、大規模火力発電を念頭に置いた「過少投資問題」が多く登場する。これは「公益的な課題」に該当するとして、対策の必要性を訴える。これは、自由化・市場化の促進および再エネ普及に対して牽制する役割を果たしている。かといって、元の地域独占体制、大規模システムに戻るべきとも言っていない。

 「技術競争」「難しい課題に挑戦」「技術大競争時代に国を挙げて立ち向かう」等の格調の高い表現が並ぶのだが、その不透明感は大きい。あるいは実のある議論となっていない。筆者は、この第3章はない方がいいと考える。パリ協定締結もあり、2050年を見据えた何らかの記述が必要なのは分るが、もう少しやりようがあったのではないか。

【近々の改訂は必至】
 よく分らないのは、この内容で、パリ協定上の義務を果たせるのか、評価してもらえるのかということである。同協定上は、2020年までに、2030年目標の見直し、2050年目標を提示する必要がある。5年毎に目標をより積極的な方向で見直すことになっており、前回の考えと数値を踏襲した今次計画では2030年の前向な改定には無理がある。また、選択肢列挙の2050年整理で評価してもらえるのだろうか。基本計画は3年毎の見直しが基本であるが、次期改定はかなり前倒しとする必要があるだろう。

 なお、本「エネルギ-基本計画考察」シリーズの一部を含む、第5次エネルギ-基本計画を解説しエネルギ-政策の在り方を考察した本が明日発行される(https://nextpublishing.jp/book/10108.html)。日本のエネルギ-情勢や政策を考える参考となれば幸いである。

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