2017年2月28日(火)13時〜17時、本科研費プロジェクトの【部門A】研究会が京都大学にて開催されました。今回の研究会では、京都大学の中山先生から「ドイツにおけるエネルギー協同組合とシュタットベルケ 日本における組合、市民・地域共同発電所と自治体エネルギー公益事業体」と、京都大学の井上博成さんから「再生可能エネルギーと地域金融機関の組織行動〜飛騨高山の実践から木質バイオマスと小水力に焦点を当てて〜」について報告頂きました。
「ドイツにおけるエネルギー協同組合とシュタットベルケ 日本における組合、市民・地域共同発電所と自治体エネルギー公益事業体」 中山先生(京都大学)
再生可能エネルギーで地域を再生させるエネルギー自治とは何か。ドイツにおける協同組合と市民エネルギー協同組合は、固定価格買取制度(FIT)の開始で爆発的に増えたが、そのうち大規模の論理で設立数は徐々に減っている。
もともとドイツにエネルギー協同組合があったことが知られているが、日本でも1900年代に多くのエネルギー協同組合が存在した。主に都市部は民間会社で、山村部で推力をはじめとした町村営電気事業によって行われていた。しかし、現在では発電目的で協同組合を作ることはできない。これは農漁業など協同組合の設立が種別によって制定されているためである。農協や漁協で発電をやろうと思うと会員数が多く、合意形成を得るのは難しい。
市民地域共同発電所は、現在日本に800以上あると言われている。その定義は、@市民や地域主体の出資が一定の割合を占めている、A建設や運営の意思決定に地域が関わっている、B収益の一部が地域に還元している、C社会課題や地域課題の解決に寄与している取り組み(豊田, 2016)とされている。
現在では、関西電力の電気料金が26円/kWhなのに対して、太陽光の発電コストは21円まで下がっている。ドイツではすでに2014年から自給モデルができている。
続いて、ドイツでは配電網の再公有化の動きがある。地方自治体が@発電、A配電網運営、B小売、C環境効率の高いエネルギーサービスを担い、地域のエネルギーデザインに携わる。
その中で、配電網の再公有化で民間運営よりも託送料金が高くなる懸念がある。しかし、実際は大手送配電事業者に比べて約20%低いと言われている。その方法としては、@近隣シュタットベルケ(SUN)と共同調達、A配電網のインフラで同時整備、Bコンパクトな経営体制(大手は自己資本収益率20%、シュタットベルケは10%)が挙げられる。
自治体公益事業体
株主の利益の最大化を目指す民間企業と違い、シュタットベルケは市民生活の満蔵殿最大化を目指す。その中で、日本においても自治体公益事業体が現れつつある。みやまエネルギーと浜松新電力である。
(サントリー文化財団第2回研究会参照:
http://ider-project.jp/stage2/suntory03j.html)
「再生可能エネルギーと地域金融機関の組織行動〜飛騨高山の実践から木質バイオマスと小水力に焦点を当てて〜」井上博成さん(京都大学)
地域での再生可能エネルギーの事業化を考える上で、地域が主体か、外部との協働かで参加の容易さと利益が大きく異なる。金融を通じた地域への波及効果最大化のためには、地方銀行や信用組合など地域資金による活動が必要とされる。地域外からのファイナンスだと利息は域外に流出するが、地域資金によるファイナンスだと利息は地域への再投資に活用することができる。
課題設定しては、地域主導または協働型の事業形成のために、@地域金融機関に事業構築視点からの考察、A信用金庫と信用組合にターゲットを絞った考察を挙げる。
関節金融機関主体の地域にとって、活性化の観点から重要な問題の一つが預貸率である。地方銀行の預貸率は年々減少しており、国債購入の投資割合が高まっている。これでは、地域内に再投資がされない。しかし、これは地域金融機関の貸出先の少なさを表しており、資金的な需要を地域内に必要としている。地域活性化に資する新たな資金需要としての再生可能エネルギーは、地域金融の貸出態度を大きく変化させている。
実際に金融機関による再生可能エネルギーへの融資はFIT施行後大きく増加している。しかし、FIT開始時はエネルギー事業に関するノウハウ不足で、現在では系統連系の接続保留で慎重な融資判断になっている。
その対策として、@金融機関が初期段階から事業に参画することによる審査能力の向上、A金融機関に対する事業者の信用力の強化、B産官連携の事業スキーム、C投資可能性を高める支援制度が挙げられる。そして地域金融機関のあり方として、リレーションバンキング型の地域密着型金融の重要性が挙げられる。
岐阜県高山市では、高山市再エネ会議で自然エネルギーを活用したまちづくりに取り組んでいる。広大な森林面積を有する高山市でのバイオマス発電の可能性について検討したが、持続可能な木材チップの供給が困難であることが判明したため、市内に温泉施設に400kW熱利用の施設をプロポーザルで事業を展開した。 小水力発電においても、現在複数のプロジェクトが進行中である。
以上のことから地域主導型と協働型の事業形成については、高山市の事例で示したように、地域内でのファイナンスを調達することは可能である。また、内部資金が少ない地方銀行においても出資と融資のハイブリッド融資が期待できる。
地域を支えるファイナンスの役割として、再生可能エネルギーを通じて預貸率全体の改善が期待できる。また、開発段階において事業構築段階から金融機関が携わることで、新たなファンド連携など期待できる。
今後の研究の展望として、日本における事業主体側と、信用金庫と信用組合における深い洞察が求められる。また、日本とドイツでの比較による示唆の提示を期待できる。