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コラム連載 大規模送電線整備による再生可能エネルギーの出力抑制解消

大規模送電線整備による再生可能エネルギーの出力抑制解消

2018年12月13日 中山琢夫 京都大学大学院経済学研究科特定助教

【はじめに】
 最近、九州電力管内で発生した再生可能エネルギーの出力抑制(出力制御)は、大きな社会的関心事となっている。現在のところその量はわずかであるとも報道されているが、それは再生可能エネルギー発電の大量導入がはじまったことを意味しているとも言えるだろう。今後さらに変動性の再生可能エネルギー発電量が増えるにつれ、日本においても、大規模な送電線計画も必要となることが予想される。

 前回の拙コラムでは、アメリカ・テキサス州において、風力発電の大量導入に大きく貢献したCREZ(Competitive Renewable Energy Zone)と呼ばれる大規模送電線建設プロジェクトを概観した。本コラムでは、その効果と、このプロジェクトを主体的に率先したPUCT(Public Utility Commission of Texas:テキサス公益事業委員会)およびERCOTi(Electricity Reliability Council of Texas:テキサス電力信頼度協会) の役割を見てみたい。

【CREZの効果とその背景】
 図1は、2011年11月から2014年4月にかけて、テキサス州において発生した風力発電の時間毎の出力抑制(濃緑色)と、風力資源に恵まれている西部地域のリアルタイム市場におけるネガティブプライス(黄緑色)を示している。CREZプログラムによって、2011年以降3,500マイル以上の送電線が整備された。その結果、出力抑制・ネガティブプライスの発生ともに、大幅に減少していることが分かる。

 テキサス州の風力発電容量は、2006年から2009年にかけて大きく伸びている。このとき、現在の州の全風力発電容量の半分程度の7,000MW以上が、電力事業者規模(Utility Scale)で建設された。テキサスの送電網は、このような風力発電の大量導入によって深刻な系統混雑を経験する。とくにこの問題は、電力需要の少ない州の西部や北部地方に集中した。

 このような地方の送電網は、州東部の人口集中地域まで届いていない。西部の風力発電所と大規模需要地の間の送電容量は不十分であった。こうした状況では、系統運用者であるERCOTは、送電網の物理的制約を維持するために、風力発電の超過発電分を出力抑制しなければならない。

図1 テキサス(ERCOT)の風力出力抑制と西部地域のリアルタイムの電力価格

 風力発電の出力抑制に加え、風力発電量が多い時間中には、地域内の需給インバランスによって、ERCOT西部ハブのリアルタイムの卸売電力価格は下落し、ネガティブになることもある。図1の西部ハブにおけるネガティブプライスは、地域内の電力需要に対する供給超過と、需要の多い地域に電力を送れない状況を示している。ネガティブプライスは、発電事業者が発電を続ける機会に対してお金を支払う意思があるときに発生する。

 風力発電所は、化石燃料やバイオマス発電所とは異なり、燃料費がかからないため運転コストが低く、低価格で電力を供給することができる。さらに風力発電所がネガティブプライスをオファーできるのは、連邦の生産税控除(PTC: Production Tax Credit)、州のRPS(Renewable Portfolio Standards)など、財政的なインセンティブプログラムによる収入の流れがあったからである。こうした代替的な収入源によって、風力発電は卸電力市場に安価に、さらにはネガティブプライスでも電力を供給することができた。

 こうした風力発電関連の送電制約に対処するために、2008年に、PUCTは、風力発電ポテンシャルの高い5つの「競争力のある再生可能エネルギーゾーン」(Competitive Renewable Energy Zone: CREZ)を設置し、一連の送電網拡張計画を認可した。この計画では、18,500MWの風力発電由来の電力を、5つのCREZゾーンから州内の他地域に送ることができる。

【PUCTとERCOTの役割】
 PUCTは、テキサス州の電気、水道、通信等の公益事業を規制する。法律を施行し、消費者の苦情等を解決、さらに顧客を支援するための州政府機関である。地域内・長距離通信市場や、電力の卸売・小売市場における競争原理の導入以来、その移管を監督し、競争によって顧客が意図された利益を受けることを保証する上で、重要な役割を果たしている。PUCTのミッションは、顧客を守り、競争を促進し、高品質のインフラを促進することである。

 ERCOTは、テキサス州におけるISO(Independent System Operator:独立系統運用者)であり、そのミッションは、計画と運用におけるシステムの信頼性の維持、電力の生産と配送の卸売市場、顧客の小売事業者の変更プロセス、送電網へのオープンアクセスの担保である。ERCOTは州の電力負荷の約90%をカバーしている。そのうち75%は競争市場であり、顧客は2,400万人である。発電所は550以上で、ピーク需要時には77GWを供給している。高圧送電線は46,500マイルに及ぶ(AECT, 2017)。

 PUCTとERCOTは2005年、テキサス州議会の上院によって改正された公共事業規制法(Senate Bill 20)により、CREZの設置義務が課された。ここでは、最良の再生可能エネルギー資源が得られることと、再生可能エネルギー発電に必要な十分な土地が得られること、再生可能エネルギー発電事業者から高いレベルでの財務的コミットメントが得られることが判断基準とされた。

 ここから先は、PUCTとERCOTによる共同作業である。2007年、PUCTによってCREZゾーンが特定され、風力発電事業者が特定されると、ERCOTにCREZ送電網整備計画の策定が要求される。2008年には、ERCOTによるシナリオ分析を基にPUCTがシナリオ2を選出する。さらにこのシナリオ2に基づいて、PUCTにより18GWの風力発電と49.8億ドルの送電網整備総コストが確定される。2009年にかけて事業提案・入札が実施され、PUCTにより事業者が選定され、2014年にかけて総延長5,800kmの送電網が完成する(図2)。

図2 CREZ送電網整備のプロセス
出所: 水野(2016)をもとに作成

【まとめ】
 日本でも、再生可能エネルギーの普及・導入が進むにつれて、出力抑制(出力制御)の問題が指摘されるようになってきた。わが国においては、まだ変動性の再生可能エネルギーの比率は限定的であるから、既存の要素技術でコネクト・アンド・マネージすることで、深刻な問題にまでは発展していないという意見は盛んに聞かれるものの、それが主力電源化する過程で、大規模な送電網拡張計画も必要となってくるだろう。

図3 ERCOT域内における風力導入量(年毎の累積値)

 図3が示すように、テキサスでは確かに、CREZプロジェクトは深刻な出力抑制問題の解決に大きく貢献している。2009年に17%もあった風力出力抑制(Curtailment)は、この戦略的な大規模系統拡張(送電線整備)プロジェクトの推進によって、2014年には0.5%にまで低減していることは明らかである。

 ただし、成功裏に終わったとされるこのCREZプロジェクトでさえも、2005年に本格的にスタートしてから2014年に一旦完了するまでに、約10年の歳月を要している。日本における変動性再生可能エネルギー、とりわけ、今後大幅な導入促進が期待される洋上・陸上風力開発の円滑な導入のためには、この程度の期間を見越した、ある意味トップダウン型の、戦略的・計画的な政策が必要である。

 本コラムの最後に記しておきたいのは、主に各事業者を対象とするようなISOであるERCOTの役割だけでなく、このプロジェクトのもう一方の推進役であるPUCTの役割である。PUCTは、公益事業の競争化に関して、顧客、つまり最終需要家(家計・企業等)が、不利益を被らないようにすることをミッションとしている機関である。系統拡張・新設に対する深刻な反対運動を未然に防ぐために、この機関の社会的役割は、十分に注目されるべきである。

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ERCOTのウェブサイトは透明性を重視した情報が公開されているが、系統信頼性維持の観点から、国外からは基本的にアクセスできない。


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