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コラム連載 テキサスに学ぶ、変動性再生可能エネルギーの導入促進に向けた送電線整備

テキサスに学ぶ、変動性再生可能エネルギーの導入促進に向けた送電線整備

2018年10月18日 中山琢夫 京都大学大学院経済学研究科特定助教

【はじめに】
 北海道における今回のブラックアウトによって、我々は、大規模集中型発電所への一極集中のリスクを、福島の3.11事故以来、改めて再認識することになった。それは、家計や事業者といった電力最終需要家だけでなく、一般電気事業者の経営にもリスクが及んだ。電力を安定供給する義務を負う旧一般電気事業者である北海道電力に対する損害賠償請求が検討される事態となった。

 先週のコラム(山家)でも指摘されているように、今後は、新規風力発電の安定出力に寄与するとともに、緊急時の運用対策としても期待されるような、変動性再生可能エネルギー(VRE: Variable Renewable Energy)の活用が進むことが望まれる。このことは、再生可能エネルギーの主力電源化にとっても重要である。

 10月4日、北海道道北部風力送電株式会社によって、道北地区における「風力発電のための送電網実証事業」建設工事が着工された。本事業は、2022年度に完工される見込みである。この事業は、風力由来の潤沢なエネルギー資源を活用するための布石となりうる。風力発電の適地であるものの、送電網が脆弱なため導入拡大への課題を有する同地域において、域内の送電網の整備及び技術的課題の実証を行い、今後の風力発電の大量導入に向けた系統制約(混雑)の解消と安定的な電力供給、そして、本実証事業周辺地域の経済や産業の発展への貢献が目標とされている。

 本コラムでは、アメリカ・テキサス州において、風力発電の大量導入に大きく貢献したCREZ(Competitive Renewable Energy Zone)と呼ばれる大規模送電線建設プロジェクトを概観したい。以下、本年5月に実施された、PUCT(Public Utility Commission of TexasおよびERCOT(Electricity Reliability Council of Texas)における、現地ヒアリング調査で得られた情報を基にしている。

【CREZの概要】
 CREZは、テキサス州内において再エネ普及を円滑に進展させるために整備された。再エネ、とりわけ風力発電ポテンシャルは、州の北部や西部で高い(図1)が、電力の需要地は中部や南東部(ダラス、フォートワース、オースティン、サンアントニオ、ヒューストン)に偏在している。そのため、発電地から需要地に電力を送り、販売できるかどうかに不確実性があった。そこで、CREZを通じて送電網の整備を行い、この不確実性を取り除くことが目標とされた。

図1

 CREZを通した送電線の整備では、まずERCOTが風力発電のポテンシャルが豊富な地域(ゾーン)を特定し、様々な風力発電普及シナリオを検討して、必要な送電線の建設地点を定めていった。図2は、CREZプロジェクトの2014年4月の整備状況である。ここでは5つのゾーンと建設済み(緑色)と建設中(青色)の送電線(線)、それから発電所(点)が示されている。このプロジェクトには、当初、50億ドルの投資が必要だと見込まれていたが、実際には69億ドルかかった。その費用は、送配電料金に上乗せされることによって、最終需要家が負担している。

図2

 このうち、風力発電に関する送電線整備については、2005年に開始され2013年には概ね完了し、ボトルネックは大幅に改善された。それまで他州と比べて極端に高かった風力発電抑制率は、急激に減少した。風力発電容量は、2002年に500MW(50万kW)程度しかなかったものが、2018年には21GW(2100万kW)まで導入が進んでいる。さらに今後3年で、新たに5.2GW(520万kW)が導入されることが確実視されており、4.8GW(480万kW)が検討中である。

 一方で、風力発電所が数多く立地している北部は、人口減少による税収減が課題となっていた地域でもあり、数多くの風力発電所が立地したことで地域経済的にも潤ったという。このようにCREZは成功裏に終わったが、政治的に要求された特別なプロセスであったとも言われている。現在は、テキサス州と隣接エリアとの直流送電線に関する検討が行われている。これは、テキサス州で発電した風力由来の電力を送電することを目的としている。

【まとめ:変動性再生可能エネルギーの主力電源化に向けた送電線整備】
 変動性の再生可能エネルギー資源は、発電地点の地域特性に強く依存する。風力発電は、風況のよいところで発電することによって発電事業者にインセンティブを与えることができる。そこで問題となるのは、需要地から離れた発電所から、どのようにして需要地に電力を送るかという課題である。従来の送電線は、水力に加えて火力・原子力の大規模発電所から需要地に送るように設計されており、変動性の再生可能エネルギー発電所から需要地に安定的に送るためには、新たな計画と設計が必要になる場合もあるだろう。

 その点において、テキサスにおけるCREZは、送電混雑を含むさまざまな問題を解決するのに大きく貢献した、州レベルでの広域プロジェクトであるといえる。日本においても、北海道道北地域の豊富な風力資源を活用し、これを、札幌をはじめとする道央地域に安定的に送ることができる送電線が整備されれば、クリーンかつ短期限界費用が安い、風力発電の由来の電気を、北海道の需要家は入手することができる。

図3

 図3が示すように、北海道北部風力送電は経済産業省資源エネルギー庁の実証事業であり、中川町の北豊富変電所で北海道電力の送電線に連系する、77.8km、連系定格容量約600MW(60万kW)のプロジェクトである。したがって、CREZのような本格的な大規模送電線建設プロジェクトとは単純に比較することはできないが、このアイデアが、道内全域さらには津軽海峡を渡って、本州とつながった広域的なプロジェクトに発展的に拡大する可能性を持っている。

 風力発電をはじめとする、新しい変動性の再生可能エネルギーの大量導入には、CREZのような新しい送電線整備プロジェクトが重要な意味を持つ。次回の担当コラムにおいて、CREZについてもう少し詳しく説明する。

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