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コラム連載 洋上風力のコストが大幅低下(その2)

洋上風力のコストが大幅低下(その2)
-10ユーロセント/kWh割れが現実に-

2016年10月13日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

今回は、前回に続き、欧州の洋上風力を取り上げる。

1.350万kW開発に着手し洋上トップに躍り出たオランダ
 【ボルセラ沖事業でkWh当たり7.3ユーロセント】

 7月5日にオランダのボルセラ沖プロジェクトの入札結果が発表された。結果は、7.27ユーロセント/kWh(以下、セント/kWhと表示する)にてデンマークのドンエナジーが落札した。最高指定価格9.4セント/kWhを大幅に下回り、38者が入札する中、ドンエナジーが圧勝した。10セント/kWhを切る洋上風力事業は初めてである。系統接続費用は1.4セント/kWhであり、これを含めても9セント/kWhを下回る。同事業は総出力70万kW(35万kW×2)で、沖合22㎞、水深14~38mに位置する。業界挙げてコスト低下を目指している中で、関係者も驚く数値である。風車メーカーは未定だが、8MWクラスと想定される(資料1)

(資料1)ボルセラ沖プロジェクト位置図
ボルセラ沖プロジェクト位置図
(出所) Dong Energy

 いくつかの要因が指摘されている。大型化等風車の技術革新、鉄等材料費の低下、傭船価格の低下、低金利等である。しかし、最大の要因は、オランダ政府が長年にわたり続けてきた研究にある。事業の予見可能性を徹底的に追求した。毎年70万kWの募集を5年間継続(今回が第1回)、落札価格の15年間保証、環境評価・地理評価の一括事前実施、標準化された系統の整備等である。事業リスクをオランダ政府がテイクしたとも言える。事業者は低価格入札でオランダ政府の努力に応えたのだ。

 【5年間の産官学研究の成果】
 オランダは、洋上風力の適地として脚光を浴びる北海に面している。「北海リーグ」の一角を成す訳だが、デンマーク、イギリス、ドイツに比べて、開発状況は見劣りしていた(資料2)。2010年以降産官学(NGO)連携のチームにより、徹底的な調査を行い、低コストで実現できる手法を考察した。当調査事業はFLOW(Far and Large Offshore Wind energy)と称される。洋上建設、メンテナンス、風車設置、事前組み立て、港湾整備、風車・基礎等の技術開発、ファイナンス、行政手続き等それぞれ革新手法を生み出すだけでなく、相互の影響をも考慮に入れた全体効率を追求した。

(資料2)国別洋上風力発電シェア(欧州、2015年累計、単位MW)
国別洋上風力発電シェア(欧州、2015年累計、単位MW)
(出所) Wind Europe

 また、行政が立地やスケジュールをお膳立てし、事業者は直ちに着工できる“Shovel Ready Project”とした。こうした手法はデンマークで開発されたものだが、オランダはより精緻に進めたと考えられる。10年間で4割のコスト削減が可能で、2030年までには平均コストが7セント/kWhを切ると予想する。

 本件の出力70万kWは、事業規模としては最大であり、総出力は5年間で350万kWまで積み上がる。一気に洋上をリードする国に躍り出た。

2.パイオニアのデンマークはニアショアながら6セント/kWh実現
 先行していたデンマークも黙ってはいない。北海浅部における事業の入札結果が9月1日に発表された。スウェーデンのバッテンフォールが約6セント/kWhにて、「Vesterhav Syd」および「Vesterhav Nord」を落札した。総出力は35万kWである。沖合5㎞と好条件ではあるが、驚異的な低価格である。

 【15年の運転実績でノウハウ蓄積】
 デンマークは、前回紹介したように、2002年に最初の大規模洋上風力「ホーンズリーフ1」16万kWを開発した実績を持つ。当事業は、現在でも高稼働を維持しており、同国は(欧州は)これで洋上風力のノウハウを確立したといえる。デンマーク政府は、15年も前に巨大新技術リスクにチャレンジしたのである。

 直近の大規模沖合事業は「ホーンズリーフ3」である。同事業は、バッテンフォールが2015年2月にkWh当り10.3セントで落札した。当時の最低価格である。同事業の総出力は40.6万kWで、MHIベスタスの8MW風車が49基採用されている(最大8.3MW出力可能)。同国の西海岸から約34kmの北海洋上に位置する。MHIベスタスは、三菱重工とデンマークの世界的な風車メーカーベスタスが、2014年に合弁で作った洋上風力発電メーカーである。洋上風車シェア6割を占めるシーメンスへの対抗馬が誕生した。

3.最大シェアのイギリスは、場所確保後は事業者任せ
 世界最大の洋上風力市場を誇るイギリスの事業はどうあろうか。大陸の最近のコスト低下に比べてやや見劣りする。最近の落札価格は約14.0セント/kWhである。接続費用を含むものの大きく見劣りする。

 イギリスは、再エネは洋上風力に注力している。陸上風力は、建設反対も多いこと、デンマーク、ドイツ等大陸諸国に先行され技術的な優位性が見込めないこと等による。広大で風況の良い海域は「女王陛下」の管理下にあり、計画策定も比較的容易である。大規模な事業領域指定(ゾーニング)を積極的に行い、広大な市場を世界に提供してきた。洋上風力を軌道に乗せた功績は大きい。

 コスト面で見劣りするのは、計画を提示し募集はするが、事業自体は、インフラ整備を含め、基本的に事業者任せである。自由放任の伝統が生きているということであろうが、国のリスクの取り方が少ないと言える。それでも入札が成り立つのは、買取価格が高めに設定されるからである。電力消費者が負担する。次第に事業がより遠くなってきていることも、価格が下がりにくい要因である。最近制度が変わりやすくなっているが、これも投資家にとり不安要因である。

4.欧州の目標は2025年に8セント/kWh割れ
 今回紹介した、オランダのボルセラ沖やデンマークのニアショア事業は、関係者でも驚愕する低価格である。大きなステップであるが、恵まれた立地条件が寄与している面もある。補助なしに成り立つには、更なるコスト低下が不可欠である。今後増えてくる遠隔地においてもコスト低下が継続していかなければならない。それには事業量の確保が不可欠であり、関係者が連携して取り組む必要がある。欧州風力発電協会は、長期見通しの中間シナリオにて、2030年までに6600万kWの導入目標を掲げている。

 2016年6月6日、欧州洋上風力連合結成とも言える動きがあった。9か国のエネルギ-担当大臣が、洋上風力に協力して取組む了解覚書にサインした。また、11のエネルギ-会社が共同歩調を取り、2025年までにkWh当たり8セントを切るとの声明にサインした(資料3)。年間400~700万kWの開発量を前提としている。ボルセラ沖事業の入札結果が発表されたのは6月5日である。欧州風力発電協会の会長は、「欧州は現在洋上風力市場の9割を占め世界をリードしているが、中国、アメリカが猛追してくる。事業量確保に全力を挙げなければならない。」と引き締めている。

(資料3)欧州11エネルギ-事業者の共同宣言
欧州11エネルギ-事業者の共同宣言
(出所)The joint statement of 11 energy companies (6/6/2016)

 欧州卸市場の長期指標は6セント/kWh程度であるが、今後のコスト低下、風車の耐用年数25年を考慮に入れると、市場価格に追いつく目途は立ちつつある。

 日本も、事業者や自治体が主導する形で、大規模洋上風力発電所建設構想が各地で出てきている。多くの解決するべき課題が存在するが、既に欧州に手本があり、やるべきことは分っている。港湾行政は、海域管理等で具体的な動きを見せている。今後の政府の積極的なアクションを期待したい。

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