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コラム連載 国民に強いる2つの“過去分”という費用負担と消費者庁の対応(その2)

国民に強いる2つの“過去分”という費用負担と消費者庁の対応(その2)

2017年3月23日 加藤修一 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 2005年の過去分・託送料金化は1回限りの約束
 “過去分”の導入は今回が初めてではない。実はB-表が最初の過去分である。これも原発絡みである。使用済み核燃料の再処理費用について、発電時に積立てる「使用済燃料再処理引当金」の創設時(2005)に過去分が初めて考えられた。即ち制度開始以前に既発電(1966~2004)に関する再処理費用を過去分と称して回収を考えた。しかも原発所有電力会社の電気料金に算入するものではなく、原子力に無関係に利用する事業者も利用している送配電線の託送料金で回収する案だ。当然のごとく、当時PPS(現・新電力)は猛烈に反発した。「(原発の直接的な費用、それも過去分を原発に関係しないPPSの顧客にも負担させるのは)不当である」との反発だ。もめにもめ抜き相当の抵抗であったが、後にも先にも「今回の小委員会で最後」と、今回限りの費用負担の約束の下で反発する議論が終結した。過去分は15年間の国民負担になる(B-表の②)

B-表 過去に遡って強いられている国民の費用負担

 2つ目の過去分・託送料金を進める理不尽な発言
 先日、毎週行われている議員連盟の世話人会で私はこの一度限りの約束を取り上げて政府に質すと、「バックエンド政策分野における一回限りの約束だ。今回は原賠分野で別ものだ」との趣旨の発言に驚愕した。負担する側はPPS(新電力)。二度と再び理不尽な費用負担はあってはならない、不合理な負担はできないとの約束であった。明らかにPPSにとって今回限りの約束を捻じ曲げられた発言だ。「そんな無茶な、矛盾する!」と声が大きくなった。いずれにしても昨年貫徹小委員会で決めた2つ目の過去分等は約束違反だ。今日、世界のエネルギー潮流は大きく変わり始めている中でこの様に消費者(国民)に過去分の費用負担を強いる“原発支援”に未来の責任をとれるのだろうか。「原発依存度を可能な限り低減する。ここがエネルギー政策を再構築するための出発点である」と「エネルギー基本計画2014」にある。激動するエネルギー転換期の中でその意義を冷徹に見通すことだ。

 主務省令による国民負担、上振れ懸念の歯止めは?
 国会の両院には消費者特別委員会が設置されており国会審議が与野党合意で行える。一方、政府には消費者庁がある。過去分 注1) の託送料金化の件は、消費者保護の視点からは懸念せざるを得ない。経産省は主務省令で2.4兆円という巨額の過去分を託送料金に上乗せて2020年から託送回収を行う(予定)。2.4兆円は上限なのか。託送料には「電力・ガス監視等委員会」の審査があるが国会審議・チェックを経ることなく金額を決定できる。経産省の一存ともいえる。税金ならば国会審議は使用範囲まで国政調査権の対象になる。情報開示や説明責任(アカウンタビリティ)の責務が生じる。時には会計検査院や政策評価法の対象にもなる。税金でない過去分を含む託送料をどのようにチェックするのか。今後、状況次第では国民負担(その1):A-表の①の“上振れ懸念”が大きな課題だ。過去分を含めた賠償費用や事故処理費用などに関する国会報告を伴う年次報告書作成・開示や過去分の上限値などが必要である。そのために原賠機構法等の改正を含めた審議を国会で行い歯止めを明確にすべきである。
注1) 「電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめ」(P21)に電気料金値上が標準世帯年間
  216円とあるが、“過去分“由来のみの値上分。総負担に関する電気料金の値上総額の記述は見当たらないが、
  開示が必要。

 消費者委員会(消費者庁)は多くの法律、権限を駆使して消費者保護を
 ところで、消費者庁は多くの法律(C-表)に基づいた消費者行政上の権限を持っている。託送料金については、総理大臣の諮問に対して消費者委員会が「電力託送料金に関する調査会の報告書」(2016.7)を答申 注2) し、「託送料金の適正性を確保することは、電気料金の低廉化や、小売電気事業者の新規参入や価格・サービス両面での競争や多様化を促すものであり、消費者の利益に大きく関わるとともに、電力小売全面自由化の帰趨にも影響する」 注3) と指摘した。言うまでもなく過去分の託送料金化は電力自由化、発送電分離に逆行する。
注2) 「託送料金の家計支出に占める電気料金の割合は3.8%。電気料金に占める託送料金の割合は3~4割」
  と指摘。東京電力の1か月の標準的な電気料金(想定使用量 300kWh)は7837 円。その内託送料金相当額は
  2614 円の33.4%。欧州各国と比べると、日本の家庭用電気料金に占める託送料金の割合は高いと指摘。

注3) 「ガス・電気監視等委員会」の責務。当委員会は市場の監視機能等を強化し健全な競争を促すために設立。
  託送料金の認可等について公正・中立な判断、審査を行い、経済産業大臣に意見・建議する権限がある。

 残念なことに答申では過去分と託送料金化は未審議である。答申は過去分等が議論になる前の7月であり、貫徹小委員会の設置前である。時期がずれている。一回限りであった「使用済燃料再処理等既発電費」は既に託送料金に加算 注4) され、理不尽な2つ目の過去分が予定している。この理不尽なやり方は消費者保護の視点からも大きな問題である。消費者不在ではないかとの議論が巻き起こっている。
注4) 託送料金の営業費を構成する過去分の例:「既発電費」315億円(東電の託送料金原価、2015.12認可)。

 これらのことを十分認識して、答申が指摘する「託送料金の適正性を確保」の具体的な対応として、再度の答申の機会を期待したい。同時に「消費者委員会設置法」等で許されている権能を駆使して自ら本件を調査審議し、消費者保護に必要な内容を取りまとめて、内閣総理大臣、関係各大臣又は消費者長官に建議等を行うべきである。以上の建議等を行うべきとの要請を自らも訴え、関係の議員連盟、議員と議論を深めてきた。先日、議員連盟の代表が消費者庁に「過去分・託送料金化案件に関する建議等をすべきこと」の要請を行ったところである。

C-表 消費者委員会設置法などの消費者保護等の関連する法律

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