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コラム連載 欧州洋上風力発電プロジェクトにおけるファイナンス手法について(その1)

欧州洋上風力発電プロジェクトにおけるファイナンス手法について(その1)

2017年9月14日 保田真一 日本政策投資銀行

 近年、国内でも港湾内及び一般海域において複数の着床式洋上風力発電プロジェクトの計画が進められている。本コラムでは、WindEurope(欧州洋上風力発電協会)の過去のレポート、欧州最大の洋上風力発電事業者であるDONG Energyの過去のプレゼンテーション資料及び筆者が国内外の洋上風力関係者にヒアリングした内容に基づき、着床式洋上風力発電プロジェクト向けファイナンスの現状を分析することとする。なお、浮体式洋上風力発電プロジェクトについては、実証段階から商業化の段階に移りつつあるという認識であるが、商業化に至っている例は少なく、補助金が一定程度のウェイトを占めることから、本コラムでは着床式洋上風力発電プロジェクトに焦点を当てることとする。

1.欧州洋上風力発電プロジェクトにおけるプロジェクトファイナンスの比率
 WindEuropeは、欧州洋上風力発電プロジェクトにおける主な資金調達モデルをデットファイナンス・エクイティファイナンス双方において以下のとおり分類している。

【デットファイナンス(外部からの借入による資金調達)】
(1)
発電事業者が、自社のバランスシート(財務体力)を活用し、コーポレートファイナンスに基づく資金調達を実施するケース、

(2)
プロジェクトファイナンス(注1)に基づく資金調達を実施するケース、


【エクイティファイナンス(出資受入による資金調達)】
(3)
年金・インフラファンド等から出資を受け入れるケース、

(4)
洋上風力プロジェクトに係る建設・機器メーカーから出資を受け入れるケース、


注1
特定の企業の信用力や担保価値に依存せず、当該事業から生み出される収益及びキャッシュフローを返済原資とするファイナンス手法。プロジェクトそのものが頓挫し、債務不履行(デフォルト)が生じても、金融団はプロジェクト会社が有する債権、契約上の地位、株式等を予め全て担保としておくことで、融資返済を親会社(プロジェクトスポンサー企業)の保証に依存(=遡求)することがない/若しくは依存する割合が小さい、という点でノンリコース(非遡及型)ファイナンス/リミテッドリコース(限定遡及型)ファイナンスとも呼ばれる(日本政策投資銀行HPから引用)


 上記(2)について、欧州洋上風力発電プロジェクトにおけるノンリコース・ファイナンスの比率は30~40%と、70%程度の欧州陸上風力プロジェクトに比し、低い水準となっている。

 DONG Energy等にヒアリングしたところ、自社バランスシートを活用したコーポレートファイナンスを採用することで、(i)債務コストの削減、(ii)商業実績の十分でない大規模な風車の採用等により、発電コスト低減を実現し各国入札を通じた新規案件の獲得につなげている、ということである。これが上記欧州洋上風力発電プロジェクトにおけるノンリコース・ファイナンス比率に影響していると筆者は考えている。

図1 新規ノンリコース・ファイナンス組成金額(2010~2016年)
(単位:billion Euro)
図1 新規ノンリコース・ファイナンス組成金額(2010~2016年)
(出所:WindEurope)


図2 風力発電設備導入量に対するノンリコース・ファイナンス割合
(2010〜2016年)
図2 風力発電設備導入量に対するノンリコース・ファイナンス割合(2010〜2016年)
(出所:WindEurope)

 なお、上記(4)について、オランダの大規模洋上風力事業であるGemini Projectで、Siemens(ドイツ重電大手であり、洋上風力タービンにおいては2016年度の販売シェア 96.4%を有する世界最大手)が20%、Van Oord(オランダの洋上建設事業者)が10%の出資を実施している。

 金融投資家ではなく、SiemensやVan Oord等の技術的知見を持ったプロジェクト関係者が直接リスクを取ってプロジェクトにスポンサー出資を行う場合には、上記(2)プロジェクトファイナンスにおいても各種金融条件が良化するケースがしばしば存在する。これは、建設中及び運転開始後に技術的リスクが顕在化した際にも適切な対応がなされる蓋然性が高いとの評価を金融機関から得やすいためと、筆者は考えている。

 (その2に続く)

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