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コラム連載 続・送電線に「空容量」は本当にないのか?

続・送電線に「空容量」は本当にないのか?

2017年10月5日 安田 陽 京都大学大学院経済学研究科特任教授、山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 前回、東北地方4県について送電線の空容量の分析を行ったので、今回は引き続き北海道について同様の分析を続けたいと思います。

 利用したデータは前回と同じく、電力広域的運営推進機関(OCCTO)のホームページ「系統情報サービス」からダウンロード情報した2016年9月1日~2017年8月31日(一年間、365日)の地内基幹送電線運用容量・予想潮流(実績)および地内基幹潮流実績データです。今回の分析では図1で示すように、北海道の275 kV送電線6線路および187 kV送電線のうち主に「空容量ゼロ」と公表されている線路を対象に行いました。また前回と同じく、運用容量実績の年間最大値を基準に年間最大運用容量基準の利用率を算出しました。

図1 分析対象線路の電気的・地理的配置
図1 分析対象線路の電気的・地理的配置
(北海道電力HPを元に筆者作成)

 図1で示した主要幹線に対して年間最大運用容量基準の利用率を算出し、さらに実潮流に基づく空容量の年間平均値および送電混雑時間を対象線路ごとにまとめると、表1のようになります。

表1 主要幹線の空容量および利用率比較
(2016年9月1日~2017年8月31日)
表1 主要幹線の空容量および利用率比較

 前回の東北4県の分析と同様、今回対象の北海道の主要線路でも利用率は最大でも15%程度であり、実潮流に基づく空容量の年間平均値は275 kV送電線で千 MWオーダー、また空容量がゼロと公表された187 kV送電線でも数百MWオーダーの平均空容量があることが、表1から明らかになりました。前回と同様、現行の空容量の算出基準根拠や現在の運用ルールの見直しが問われます。

 一方、つい先ごろ、広域機関でも図2に示すような形で送電線の運用ルールの見直しが提案され、図中央の「B基準」が今後の採用すべき有力な方法として議論が進んでいます。図の【A 現状】では、既設の容量の部分に「通常想定される範囲内での最過酷の想定潮流」とありますが、これはすなわち線路に接続された発電所の定格容量の単純和(もしくはそれをに若干の補正を加えたもの)で「空容量」を計算する方法です。今回の広域機関の議論では、それを廃止し、【B】の「将来の系統利用の蓋然性を評価した想定潮流」、すなわち実潮流を考慮した計算方法に変更することが提案されています。これは経済産業省が最近新たに提唱している「コネクト&マネージ」にも合致すると考えることができ、一歩前進という点では歓迎すべきです。

図1 分析対象線路の電気的・地理的配置
図2 広域機関が公表する想定潮流の合理化等の取組の方向性
(出典)電力広域的運営推進機関:「(長期方針) 流通設備効率の向上に向けて」,
第26回 広域系統整備委員会資料1-(1)

 ただし、上記の広域機関の提案はあくまで「一歩前進」にすぎず、これで万事解決な最終的なソリューションではありません。なぜなら、図2に示した案のいずれも「実潮流」という言葉が明示的に使われておらず、さらに「既設」と「新規連系」がはっきりと色分けされているからです。すなわち、「これから新規に連系する電源の枠を少し広げてあげる」だけでは本来送電事業者が立つべき中立性や非差別性とは程遠いことを意味します(中立性と被差別性については本講座2016年11月17日付コラム参照)。新規技術の参入障壁緩和や市場の中立性の観点から考えると、送電線に流れる電力がどの電源からのものかを恣意的に選別・制限してはならず、その優先順位は市場取引に委ねることがベストです。

 実際、会社間連系線に関しては、「間接オークション」という方式がまさに広域機関によって進められています(広域機関のアナウンスによると2018年度下期に導入予定)。これは線路の使用権を電力市場の電源入応札に間接的に紐づける方法です。理想的には、この方式が抜け穴なく適切に運用されれば、透明性と中立性が担保され、従来型電源に対する恣意的な優遇措置がなくなり、新規技術の参入障壁も大きく緩和されることになります。何より、この方法によって電力取引が活性化され送電線の輸送電力量も増え、利用率の低い既存設備の有効活用にも役立ちます。この会社間連系線と同様に、各電力会社管内の送電線にも同方式が早期に適用することが望まれます。

 前回および今回と2回に亘って、送電線の「空容量」問題の本質を客観的・定量的な分析を元に炙り出して見ました。ここで必要なのは、誰かを「けしからん!」と腐して溜飲を下げるのではなく、現在進行形で行われているルールメイキングに多くの人が関心を持ち、中立で非差別的な決定が行われているかをウォッチし、建設的・生産的に議論に参画することです。本分析をたたき台に、国民全体で健全な議論が喚起されることを望みます。

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