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コラム連載 送電線空容量および利用率全国調査速報(その2)

送電線空容量および利用率全国調査速報(その2)

2018年2月1日 安田 陽 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 前回「その1」に引き続き、全国10電力会社基幹送電線上位2系統、全399路線(電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)のウェブサイトで公開されている路線)の空容量および利用率について分析を進めます。

混雑発生路線割合
 今回の分析では(実は10月2日付コラムでの北海道・東北の主要送電線の分析においても)、単なる利用率だけはなく、瞬間的な(統計上は30分値の)最大利用率や送電混雑の観点から分析しています。ネットやSNSでは、電車や高速道路の混雑を比喩に使って「混雑時のピークを見るべきで平均利用率は意味がない!」という批判もあるようですが、実際に送電線は電車や高速道路のように混雑を起こしているのでしょうか? これもデータで見てみましょう。

 本研究では、各電力会社のエリアにどれだけ送電混雑が発生しているかということを調べるために、「混雑発生路線割合」という指標を定義してみます。これは、各エリアの基幹送電線(広域機関から実潮流および運用容量データがダウンロード可能な路線)の数に対して、1年間で1回でも送電混雑が発生した路線数の割合です。送電混雑とは、実潮流が運用容量を一時的に上回り、瞬間的な(実際には30分値の)利用率が100%を超えることを指します。なお、電力工学上では、「混雑率」という指標もありますが、これは特定の送電線で所定の期間(大抵は1年間)で混雑が発生した時間の比率のことを指します。混雑発生路線割合と混雑率は違うものですので、ご注意下さい。

 図1は各電力会社の送電混雑路線割合を示したグラフです。各棒グラフは、混雑が発生した路線のうち、電力会社から空容量の数値が公表された(すなわち空容量がまだある)路線と「空容量ゼロ」であると公表された路線を色分けして示しています。

図1 各電力会社の混雑発生路線割合(基幹送電線上位2系統)
図1 各電力会社の混雑発生路線割合(基幹送電線上位2系統)
(広域機関のデータを元に筆者作成)

 この図から客観的に言えることは、
  • 混雑が発生した路線の割合は0〜30%とバラつきがある。
    (グラフからはすぐには読み取れないが、全国平均は15.0%。)
  • 混雑発生路線割合が最も大きいのは北陸で、ついで東京。
  • 東京・中部・北陸で混雑が発生した路線のほとんどあるいは全てで空容量ゼロとされる。
  • 東北・関西は混雑が発生した路線でも空容量がある路線が多い。
  • 中国・九州・沖縄では混雑が発生した路線のほとんどあるいは全てで空容量があるとされる。

というところでしょうか。また、グラフからは読み取れませんが、分析から、混雑が発生した各路線の混雑率のほとんどが1%未満で、年間数時間程度わずかに混雑が発生してしまった、という状況だということがわかりました。

 ここで、広域機関で進行中の「コネクト&マネージ」の議論に詳しい方は「おや?」と思うかもしれません。広域機関では、現在はいわゆる「A基準」として、「原則的に混雑が発生しない」ことを前提として運用されており(図2左図)、それを理由に新規電源の接続が待たされたり巨額の増強費用の負担が求められていたはずです。しかし、全国平均で15%、混雑路線割合が多いエリアだと30%近くの路線で実際に混雑が発生していることになります。さすがに「原則的に」という形容動詞がついているとはいえ、では「A基準」は何だったの?という疑問の声が起こっても不思議ではありません。電力会社ないし広域機関の説明責任が求められます。

図2 広域機関の混雑発生の考え方
図2 広域機関の混雑発生の考え方
(出典)電力広域的運営推進機関: 第26回 広域系統整備委員会資料1-(1)

 一方で、前回「その1」の図1で見た通り、東北や中部では、混雑がない(すなわち1年間で一回も実潮流が運用容量を超えなかった)にもかかわらず、「空容量ゼロ」であると公表された路線がそれぞれ64.7%、51.9%もあることは注目すべきです。また、図1の下半分(西日本)では、混雑していても空容量があるとしている電力会社もあります。前回も述べましたが、再エネの大量導入に対する取り組みや系統運用方法に関して、電力会社間でも差異が生じていることがやはり示唆されます。

空容量ゼロ率と利用率・混雑割合との相関
 上述のことをもう少し詳しく分析するために、図3に示すように、前回「その1」で定義した空容量ゼロ率と、平均利用率や混雑発生割合との相関をそれぞれ取ってみました。図から客観的に読み取れる情報は以下のとおりです。
  • 平均利用率と空容量ゼロ率、混雑発生割合と空容量ゼロ率の相関とも、相関性はほとんどない(無相関に近い)。
  • 東北・中部・北海道は、いずれの図でも45度線より上方に大きく外れている。このことは、平均利用率や混雑発生路線割合が低い割に空容量ゼロ率が高いことを示している。
  • 四国・九州・沖縄は、いずれの図でも45度線の下方に分布している。このことは、平均利用率や混雑発生路線割合の割に空容量ゼロ率が低いことを示している(さらに、平均利用率および混雑発生路線割合ともに比較的低い)。

 やはりここでも、再エネの大量導入に対する取り組みや系統運用方法に関して、電力会社間で差異が生じている、という推測の蓋然性がますます高まります。

図3 空容量ゼロ率と平均利用率・混雑発生路線割合の相関
図3 空容量ゼロ率と平均利用率・混雑発生路線割合の相関
(広域機関のデータを元に筆者作成)

 一連の分析で筆者は、送電線空容量問題は単純に利用率の高い低いの数値の問題ではない、ということを述べてきました。問題は、再生可能エネルギー電源の接続の可否や送電線増強費用の負担額がどのような根拠で決定されたのか?という透明性の問題の方がむしろ重要であることを繰り返し述べてきました。今回の全国調査で明らかになったことは、各電力会社とも、利用率はどんぐりの背比べ状態にあるものの、送電混雑の発生状況や空容量ゼロと判断された路線の比率に大きなバラツキがあることがわかりました。なぜそのようにバラつくのかに関しては、もう少し別の分析を行う必要がありますが、紙面の都合もあり、続きは「その3」で述べたいと思います。

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