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コラム連載 送電線空容量および利用率全国調査速報(その1)

送電線空容量および利用率全国調査速報(その1)

2018年1月27日 安田 陽 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 2017年10月2日付の当講座コラムにて北海道・東北電力管内の主要送電線の空容量と利用率の分析結果を公表して以来、メディアなど多くの反響を頂きました。その後、分析対象を全国10電力会社に広げ、電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)のウェブサイトで公開されている基幹送電線上位2系統、全399路線の分析がこのほど完了しましたので、本稿にて速報的に発表します。

分析対象と方法
 今回の分析では、各電力会社の基幹送電線上位2系統(沖縄電力のみ上位1系統)として、以下の路線を対象にしました。
  • 北海道:275kV, 187kV
  • 東北、東京、中部、北陸、関西:500kV, 275kV
  • 中国、九州:500kV, 220kV
  • 四国:500kV, 187kV
  • 沖縄:132kV

なお、本稿で「基幹送電線」という場合、広域機関から実潮流および運用容量データがダウンロード可能な路線のみを指すこととします(特定の発電所からの電源線など、広域機関からデータが公表されていない路線は除いてあります)。

 分析方法は10月2日付の当講座コラムまたは下記論文を参照下さい。

送電線空容量の実態調査
 まず、各電力会社のウェブサイトで公表されている送電線の「空容量状況」を分析します。ここで、風力や太陽光、小水力、バイオマスなど再生可能エネルギー電源が実際に電力系統に接続するのは66 kVや175 kVなどの下位系統が多いのですが、それらは現在、広域機関や各電力会社からデータが入手できないため、比較分析することができません。そこで、広域機関からデータ入手が可能な基幹送電線の路線のみに対象を絞って分析することとしました。

 図1は、各電力会社の空容量ゼロ率です。ここで空容量ゼロ率とは、各電力会社の基幹送電線の中から、2018年1月25日の段階で「空容量ゼロ」と公表された路線の割合です。またその際、広域機関から得られるデータから、「空容量ゼロ」路線で実際に送電混雑が発生しているかについても同時に分析しました。送電混雑とは、実潮流が運用容量を一時的に上回り、瞬間的な(実際には30分値の)利用率が100%を超えることを指します。

図1 各電力会社の空容量ゼロ率(基幹送電線上位2系統)
図1 各電力会社の空容量ゼロ率(基幹送電線上位2系統)
(広域機関のデータを元に筆者作成)

 このグラフから、以下の情報を読み取ることができます。
  • 空容量率ゼロが最も高いのは東北電力で、基幹送電線の67.6%で「空容量ゼロ」が発生している(管内の3分の2のエリアで再エネが接続できない状態)。
  • 東北では、「空容量ゼロ」なのに実際に混雑が発生している路線の割合は2.9%しかなく、残りの64.7%は混雑していない。
  • 東日本は概して空容量ゼロ率が高く、西日本は概して空容量ゼロ率が低い。

 筆者らの分析に対して「停電になるかどうかは瞬間のピークの場合なので、平均利用率を議論しても意味がないのでは?」という疑問も頂いていますが、筆者らの分析は利用率のみに着目しているわけではありません。瞬間的な(統計上は30分値の)最大利用率や送電混雑の観点から分析したとしても、多くの「空容量ゼロ」路線にはまだまだ余裕がありそうです。

 また、原発が再稼働し、太陽光が比較的多く導入されている九州電力で、基幹送電線の空容量ゼロが少ないというのは注目に値します。このことは、再エネの大量導入に対する取り組みや系統運用方法に関して、電力会社間でも差異が生じていることが示唆されます。

送電線利用率の全国分析
 次に図2に示すように、基幹送電線上位2系統の各路線の利用率の電力会社ごとの平均値を比較してみます。濃い青の棒グラフは各電力会社の基幹送電線上位2系統の平均利用率を示し、薄い緑の棒グラフは、その中でも「空容量ゼロ」と公表された路線のみの平均利用率を示しています。

図2 各電力会社基幹送電線上位2系統の平均利用率
図2 各電力会社基幹送電線上位2系統の平均利用率
(広域機関のデータを元に筆者作成)

 このグラフから得られる情報は以下のとおりです。
  • 濃い青の棒グラフを比較すると、中三社(東京・中部・関西)がいずれも20%を超えており、残りはいずれも10%台である。
  • 東北、関西、中国は全路線平均よりも空容量ゼロ路線の平均の方が明らかに低い結果となっている。

 中三社が相対的に高い利用率となっている理由としては、これらのエリアが大きな需要地を持ち、需要地ではそもそも電力潮流が大きくなる傾向にあること、また需要地では系統構成がメッシュ状になっているため、万一の送電線事故などの際にも迂回路を多数持つことができ、安全のために開けておく容量が相対的に少なく見積れること、などが推測できます。逆に、それ以外のエリアでは、相対的に送電線に空きがあり、むしろ再エネの導入に向いている可能性があることが示唆されます。

 また、「空容量ゼロ」の路線は、まだ空容量がある路線に比べ利用率が高くなって余裕がないため空容量がゼロになるのだと考えるのが自然ですが、全体平均よりも空容量ゼロ路線の平均の方が却って利用率の平均値が低くなるのは不可解です。10月26日付の当講座コラムでも既に指摘したとおり、「なぜ空容量がゼロなのか?」そして「なぜそれが理由に再エネの接続が制限されたり、系統増強費が請求されるのか?」について、合理的で透明性の高い説明が望まれます。

 その他、今回の分析では多くのことが明らかになりましたが、字数の都合もあり、続きは「その2」で改めて公表する予定です。なお、1月29日(月)に東京で開催予定の当講座シンポジウムにおいても、より詳細な分析結果を公表・解説する予定です。

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